国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

STOP!女性に対する暴力

~国際女性の日記念イベントを開催!~

3月8日は国連が定める「国際女性の日」です。世界各地で記念イベントが催される中、国連広報センター(UNIC)は7日、イベント「国連制作ドキュメンタリーから考える、STOP! 女性に対する暴力」を開催しました。学生を中心に約100人が参加。ドキュメンタリーの上映に続き、根本かおるUNIC所長がモデレーターを務めるトーク・セッションが行われ、様々な角度から女性に対する暴力の課題に関わる4人のパネリストが意見を交わし、会場からの熱心な質問に応えました。

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根本かおる UNIC所長が「国際女性の日」に寄せる事務総長メッセージを読み上げ、イベントを開始した

国連の旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)が制作したドキュメンタリー『紛争下における性的暴力-法と正義の勝利』は、旧ユーゴ紛争での性的暴力の加害者や指導者の訴追過程を紹介しています。紛争下での性的暴力は、人々を身体的にも精神的にも破壊する「武器」。法が整備され、加害者が処罰されることで、被害者は少なからず尊厳を取り戻すことができます。イベント参加者は、被告と証人による生々しい証言シーンを含んだ41分間の映像に見入りました。

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続いてトーク・セッションがスタート。ICTYで判事を務めた法政大学法学部国際政治学科の多谷千香子教授は、「戦争は無法状態ではなく、戦列に加わった兵士を殺すにもむやみに苦しめる方法は避けなければならないなどルールがあります。民間人や捕虜など戦列に加わっていない者は人道的に取り扱わなければならないというルールもあります。

民族融和の象徴のような国だった旧ユーゴで民族浄化が起こったのは、やらなければ他の民族にやられるかもしれないという恐怖が一種の自己防衛に走らせたからで、ごく普通の人が実行犯になりました」と言います。

また、「戦争犯罪を防止するには、組織の上に居て扇動したり、見て見ぬふりをする者の責任を追及することが必要です。この様な法の網をかけることは一朝一夕にはできませんが、ICTYや国際刑事裁判所ICC)はそのために一歩一歩を積み上げる努力をしています。証人の多くも、被害を客観的にとらえ正義を実現して社会に貢献したいという人です」と述べました。

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法政大学法学部国際政治学科の多谷千香子(たや・ちかこ)教授                  UNHCR駐日事務所の小尾尚子(おび・なおこ)副代表

国連難民高等弁務官UNHCR)駐日事務所の小尾尚子副代表は、「紛争が起きると難民が発生し、社会のモザイク(規律や伝統)が崩壊します。性的暴力は女性、少女に集中している現状があり、その予防策として、UNHCRは意思決定の場への女性の参加や、コミュニティでの女性のエンパワーメントを重視しています」と述べました。UNHCRは医療、身体の安全、精神面のケア、法律の4つの側面から被害者になりうる女性たちの支援をしています。

2000年代初めには、人道支援に関わっていた国連ピースキーパーらが女性や子どもを性的に搾取した事件がありました。これを受け、国連は「ゼロ・トレランス政策」を打ち出し、国連職員の行動規範を定めました。小尾副代表は「行動規範を政策的に進めるためには、トップからのコミットメントが欠かせません」と語ります。

紛争の武器としての性的暴力に対する世界的な対応は、1990年代から2000年代に広がりました。2000年に採択された「女性と平和、安全に関する国連安全保障理事会決議1325」で、紛争下において女性、少女たちを性的暴力から守る特別な方策が取られる必要性が初めて認識されました。

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外務省総合政策局総務課の岡野正敬(おかの・まさたか)課長                          朝日新聞の大久保真紀(おおくぼ・まき)編集委員

この決議をもとに、各国では行動計画を作る動きが広がっています。外務省総合外交政策局総務課の岡野正敬課長は、「安全保障の枠組みで、女性の保護に関する国別行動計画を出すことが求められていますが、G8では日本とロシアだけが未提出です。現在、市民社会とともに策定を進めています」と日本の現状を語りました。第2次安倍政権の女性重視の施策については、「どうしたら日本の力を増やせるかと考えた時に、活用されていない資源を活かすという点で、女性の人材活用が注目されていると感じます。このほか、紛争時における女性の人権の保護、安全保障面における女性の役割も重要なテーマです」と述べました。

日本は、122カ国が加盟するICCの資金拠出額のうち17%以上を担うトップドナーで、日本人判事を送り出すほか、規則作りにも力を入れています。「日本は国際社会が一つの権威を持って特定の国際犯罪を裁くことを重視しています。国際社会に対して重大な罪を犯した人を不処罰(impunity)にしてはなりません。きちんとした刑事システムが必要です」と岡野課長は述べました。また、慰安婦問題に関する会場からの質問に対しては、「こうした方々に対して心を痛めているということが原点。歴史に対して真摯であることが大事で、外交問題にしてはいけません。21世紀は女性の権利が侵害されることのないよう、我々が率先して取り組みたい」と答えました。

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ドキュメンタリーの内容は、一見したところ日本とかけ離れた世界にも映ります。しかし、戦争の加害者と被害者を取材した経験を持つ朝日新聞の大久保真紀編集委員は、「性的暴力は戦争が起こればどこでも起こります。戦争は人を変えてしまう」と述べ、取材によって得た証言から、敗戦前後の混乱で中国を逃げまどう中で、日本人女性も性暴力の対象になっていたことや日本人男性が戦争中に加害者になっていたことを挙げました。

現在の日本でも、家庭内暴力(DV)やストーカー被害にあうのは多くが女性です。「紛争下では極端に(性的暴力の被害が)出ますが、今の生活でも無縁ではありません。DVに関する相談件数が年間約9万件に上るのが、戦争も紛争もない、現在の日本の状況です」

「社会と切り離したマスメディアはありえません。新聞社での女性記者の割合も増えてきたほか、記事の内容も変わってきたと感じます。例えば、“買春”という言葉を初めて新聞に出す際、社内で大きな議論がありました。やがて社会の認識が高まるにつれて言葉も定着しました。少しずつですが日本の社会も変化しています」と大久保編集委員は述べました。

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本イベントに参加したインターンからの感想

イベントで上映されたドキュメンタリー映画は、旧ユーゴスラビアの事例で、日本での普段の生活とはかけ離れた出来事のように思いました。ただ、その後のトーク・セッションで、「紛争下で性的暴力に手を染めてしまうのはごく普通の人」ということが分かり、人間をも変えてしまう戦争の恐ろしさを知りました。また、直接手を下していない責任者への処罰の必要性を改めて感じました。

女性に対する暴力は、遠い国の紛争下でのみ起きているわけではありません。日本でも家庭内暴力などの事件や相談が後を絶たないのが現状です。そういった意味で、女性への暴力問題は、世界的な問題なのだと認識することができました。

登壇者のお話は世界的な法の網から、ある一人の証言に至るまで実にさまざま。異なるバックグラウンドを持つ有識者の方々が、一つのテーマについて語られたことで、女性の課題に関する裾野の広さが伺えました。

これまで、女性の課題については女性だけが集まり議論することが多かったように思います。しかし、「国際女性の日」ができてから、およそ40年。この間に、女性の課題に対する社会の理解は着実に深まっています。「女性関連のイベントで、バランスを取るために男性を一人呼ばなければいけない、などと言わなくてもいいような状況になってほしい」と登壇者の岡野課長が述べられていたように、女性の課題が「すべての人の課題」として認識され、改善されていく日もそう遠くはないと思いました。