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子どもに対する暴力撤廃に向けて:『子どものための2030アジェンダ:ソリューションズ・サミット』参加報告会

4月27日(金)、東京のユニセフハウスで『子どものための2030アジェンダ:ソリューションズ・サミット』*の参加報告会が開かれました。


この報告会では、政府、市民社会、企業など各セクターを代表してソリューションズ・サミットに参加した方々から、会議の様子、今後の進展への期待や思いなどが共有されました。また、SDGsの啓発促進に力を入れる国連広報センターから、所長の根本かおるが参加し、パネルディカッションのファシリテーターを務めました。

ソリューションズ・サミットは、日本が子どもに対する暴力をなくすことに積極的に取り組むパスファインディング国になると誓約した国際会議であることからも注目されます。


報告会の主催団体は、平成30年度外務省NGO研究会と日本ユニセフ協会。協力団体としては、ACE、チャイルド・ファンド・ジャパン、国際子ども権利センター、ヒューマンライツ・ナウ、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ、プラン・インターナショナル・ジャパン、ワールド・ビジョン・ジャパンが名前を連ねました。

 

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 ©UN Photo/UNICEF/Marco Dormino   (本文の内容とは直接関係のない写真です)

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*ソリューションズ・サミットは、「子どもに対する暴力撤廃」をテーマに、今年2月14日-15日、スウェーデンの首都ストックホルムで開催された国際会議。持続可能な開発目標(SDGs)の16.2(ゴール16のターゲット2「子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する」)の達成をめざし、スウェーデン政府、「子どもに対する暴力撲滅のためのグローバル・パートナーシップ(GPeVAC)」および「オンラインの子どもの性的搾取撤廃のためのWePROTECTグローバル・アライアンス」が共催した。67カ国から、政府、市民社会、民間企業、国際機関、専門家、子どもなど、さまざまなステークホルダー386名が参加し、子どもに対する暴力を取り巻く現状や、予防や撤廃のための方策などに関する議論が行われた。国連から、高いレベルの幅広い参加があり、国連副事務総長、ユニセフ世界保健機関(WHO)と国連薬物犯罪事務所(UNODC)のトップ、紛争下の子どもに関する事務総長特別代表、子どもに対する暴力担当事務総長特別代表、国際労働機関(ILO)、UN Women、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などが出席した。

 

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(ソリューションズ・サミット会場、ストックホルム)

 

報告会は二部構成。第一部は堀井学外務大臣政務官による基調講演、第二部はサミット参加者によるパネルディスカッションが行われました。

 

(第一部:基調講演)

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 (堀井学外務大臣政務官)

基調講演では、ソリューションズ・サミットに参加した堀井政務官が自らのスピーチに込めた思いや、子どもに対する暴力をなくすことにコミットするパスファインディング国になるとの誓約を行ったことについて語っていただきました。堀井政務官は1994年のリレハンメルオリンピックで銅メダルを獲得した元スピードスケート選手。サミットのホスト国となったスウェーデンは少年時代の憧れの選手だったトーマス・グスタフソンさんの祖国でもあり、とりわけ特別な感慨をもって、その地を踏んだと述べられました。また、家庭に戻れば5人の子の父親であるとし、普段から、世界各地で暴力にさらされている子どもたちの状況に胸が締めつけられているとの思いを共有されました。そのうえで、堀井政務官はあらためて、パスファインディング国への日本の参加、GPeVACの基金の人道分野に対する600万ドルの資金拠出、GPeVACの理事会への日本のメンバー入りという3つのコミットメントについて説明し、すべての子どもが暴力のないなかで育ち、将来への夢と希望をもって生きられるよう、引き続き取り組んでいくことを約束すると決意を述べられました。

 

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  ©UN Photo/Jan Corash   (本文の内容とは直接関係のない写真です)

(第二部:パネルディスカッション)

さて、基調講演に続いたパネルディスカッションでは、国連広報センターの根本の司会進行のもと、パネリストの皆さんから、現地でのエピソードや議論、日本の取り組み、今後の取り組みに対する意気込みや思いなどがあつく語られました。

 

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・パネリストの皆さん

杉浦正俊さん         外務省総合外交政策局人権人道課長

篠崎ほし江さん、  警察庁警察庁生活安全局少年課課長補佐

大谷美紀子さん      国連子どもの権利委員会委員

柴田哲子さん         ワールド・ビジョン・ジャパンアドボカシーシニアアドバイザー

野口明香里さん     ヤフー株式会社政策企画本部政策企画部

早水研さん              日本ユニセフ協会専務理事

ファシリテーター

根本かおる            国連広報センター所長

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(c)GPeVAC日本フォーラム

 

ソリューションズ・サミットが開かれた北欧の国、スェーデンの2月は日本と同じ冬の季節。外務省の杉浦さんは、一番寒い時期のストックホルムでのサミット開催となったものの、場は参加者たちの熱気であふれていた、と振り返りました。

 

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(外務省の杉浦さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

熱気にあふれた会場で、あつい思いにあふれた参加者たちの本気度が伝わってきたと振り返ったのは国連子どもの権利委員会の大谷さんです。大谷さんは、来年が子どもの権利条約採択30周年および日本の条約加入25周年であることに触れ、サミットでは、子どもに対する暴力を絶対になくそうという決意が何回も確認され、その実現のために各セクターの連携が大切であることが常に強調されていたと述べました。

 

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(国連子どもの権利委員会の大谷さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

サミットで「オンラインの子どもの性的搾取撲滅のためのWePROTECTグローバル・アライアンス」が主催するワークショップに参加した警察庁の篠崎さんは、ワークショップを主導した英国政府、インターポール、マイクロソフトエクパット、その他のさまざまな組織の間で有意義な議論や情報交換が行われていたことを振り返りました。そこで、インターネット上の性被害について社会全体の意識を高める必要があることや、小さい子どもと親への教育が必要であることに、意見の一致があったとし、国際会議の最前線で、みんなが熱心に認識の共有をはかっていたことなどを説明しました。

 

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警察庁の篠崎さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

日本の市民社会を代表してサミットに参加したワールド・ビジョン・ジャパンの柴田さんは、サミットに参加した約400人のうち100人、つまり4分の1は市民社会からの参加だったと述べ、子どもに対する暴力という課題への市民社会の高い関心と関わりを指摘しました。また、柴田さんはサミットで、当事者の子どもたちが参画をし、会議の強い推進力となっていたことに感激したと振り返りました。とくに印象に残ったエピソードとして、タンザニアから来た少年が壇上から会場の同国の大臣を前に、「自分には夢があります。その夢とは、自分の国が、子どもたちが人権を享受している国として世界で有名になることです」と力強く演説し、会場から大きなスタンディングオベーションを得ていたことを紹介しました。

 

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ワールド・ビジョン・ジャパンの柴田さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

Yahoo! JAPANの野口さんは、サミットのサイドイベントで挨拶をする予定だった高位の方が子どもの急病を理由に欠席されたときに会場から大きなあたたかい拍手が沸き起こったことを紹介し、社会全体が子どもを優先に考えるスウェーデンという国の雰囲気をとても強く感じ、深い感動を覚えたと述べました。また野口さんは、サミットで、警察庁の篠崎さんと同じワークショップに参加したところ、海外のホットラインが共同で設置した児童ポルノ画像の削除団体、“INHOPE”からの担当者も参加していたことを紹介し、有益な仲間づくりや、技術的な情報なども共有できたことがとても有意義だったと加えました。

 

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Yahoo! JAPANの野口さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

日本ユニセフ協会の早水研さんは、この報告会で檀上に並んだパネリストの皆さんが活発にサミットの現地の様子やエピソードを伝えるのを見て、あらためて日本からすばらしいメンバーでサミットに臨めたことを誇りに思うと述べました。長年、この課題に取り組んできた早水さんの感慨深そうな表情がとても印象的でした。

 

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日本ユニセフ協会の早水さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

パネルディスカッションでは、国連広報センターの根本の司会進行のもと、子どもに対する暴力の根絶という課題への各セクターの取り組みや日本との関係に話が及びました。

 

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(c)GPeVAC日本フォーラム

 

日本政府の取り組みとして、外務省の杉浦さんは、「国際的には日本が人権分野で必ずしも高い評価を得てこなかったことを考えると、日本と人権の歩みにおいて、日本がG7で初めてGPeVACのパスファインディング国となったことの意味はとても大きいと思う」と述べ、日本の人権への取り組みにおいて、サミットがひとつの節目となることを指摘しました。そのうえで、今後の取り組みについては、サミットに参加した外務省、警察庁ばかりではなく、厚生労働省文科省、その他の省庁が連携しあって進めるとともに、市民社会、企業など他のステークホルダーに加わってもらえる議論の場を設けたいと述べました。

 

また杉浦さんは、日本の美徳である謙虚さゆえに、その発信力が弱いことが克服すべき課題となっていることを指摘し、今後、日本の取り組みを海外に発信する努力に力を入れていきたいと意気込みを語りました。最後に、省内でご自身の次席の役職に就いておられる方が現在、2か月間の育児休暇に入り、その奥様が復帰しておられること、また、ご自身のご家庭でも子育ての時期に奥様も働いていらっしゃったことなどを紹介し、職業的立場からも個人的な体験からも、子どものために柔軟な働きかたが進んでいくことを期待し、また力を尽くしていきたいとの思いを述べました。

 

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©UN Photo    (本文の内容とは直接関係のない写真です)

 

警察庁の篠崎さんは、政府では、児童買春や児童ポルノの製造等の子供の性被害の防止対策を内閣の重要施策の一つとして、総力を挙げて取り組んでおり、昨年、内閣総理大臣が主催する犯罪対策閣僚会議で、子どもの性被害防止プランが策定され、安心・安全なインターネットの利用のための啓発活動等に取り組んでいると強調しました。そのうえで、今後、外務省の杉浦さんが述べられたのと同様に、その取り組みにおいては官民で力をあわせていくことが必要であることを述べ、そうした努力の一環として、4月23日(月)、子どもの性被害撲滅対策推進協議会という関係省庁と関係する民間団体等による協議会の総会が開催されたことなどを紹介しました。

 

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 (c)GPeVAC日本フォーラム

 

日本ユニセフ協会の早水さんは、国内で、1996年以来、子どもの商業的性的搾取の根絶をめざすアドボカシー活動を進めてきたこと、その後、1999年に児童買春・児童ポルノ禁止法が超党派で成立し、2014年に単純所持禁止へといたるまで厳しい道のりがあったことを振り返りました。そして、今後、説得力のあるアドボカシーを展開していくためには、しっかりとしたデータが必要であるものの、子どもへの暴力については、途上国よりも、むしろ日本のような先進国でそうしたデータが不足していると述べ、データ整備の重要性を訴えました。さらに、ユニセフが取り組んでいる「子どもにやさしいまちづくり事業」にも言及し、国レベルでは成果を生んできた一方、自治体レベルでは課題が残るとして、その取り組みへの意欲を述べました。

 

野口さんは、Yahoo! JAPANを中心としたインターネット有志企業が日常的に行なっている活動として、セーファーインターネット協会(SIA)への通報に対し、オンライン上の児童ポルノ画像等のIPアドレスを突き止めてサイトやプロバイダーへ削除依頼を出していることなどを説明しました。野口さんによれば、今は、オンライン上の児童ポルノ画像はURLがわかれば、きちんとした手順を踏んで削除を依頼すると9割を超える確率で消えるそうです。また現在、アジアインターネット日本連盟(AICJ)という組織に、Yahoo! JAPANやグーグル、メルカリなど20社ほどが参加して、公共政策諸課題への取り組みが行われていることなどを紹介しました。さらに、自社の「どこでもオフィス」という取り組みなどを紹介し、テクノロジーを利用した柔軟な働き方が子育てを助け、親子にとってのより良い子育て環境にもつながると述べました。インターネットの功罪について、野口さんは、インターネットにはマイナスの面もあれば、プラスの面もあり、大人たちはその両面をしっかり理解しながら、小さい子どもにも正しいインターネットの利用のしかたやリスクを教え、慣れ親しんでもらうようにすることが重要であると強調しました。

 

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(c)GPeVAC日本フォーラム

 

ワールド・ビジョン・ジャパンの柴田さんは、今後GPeVAC日本フォーラムとして、2つの活動を計画していると述べました。まず第一に、他の先行するパスファインディング国での成功事例などを含む国際的な子どもに対する暴力撤廃に関する取り組みを整理し、それを外務省にて設立が検討されているマルチステークホルダーでの議論の場にインプットすることを通じて、今後の日本国内での取り組みの推進に貢献したいと抱負を述べました。国際市民社会は、ソリューションズ・サミット開催前から定期的に情報交換の会議を開催していることから、そのような場を通じて情報を収集していくことを考えていると述べました。第二に、日本国内における子どもに対する暴力撤廃に向けた政府やNGOによる取り組みに関する情報を整理し、同様にマルチステークホルダーでの議論の場にインプットしたいと抱負を述べました。そのうえで、子どもに対する暴力をなくすために何かしたいけれど何をすればよいのかわからないという人へのアドバイスとして、GPeVACを構成するようなNGOの勉強会やキャンペーンにぜひ参加してもらいたいと述べ、ワールドビジョンが今年3月に子どもに対する暴力をなくすキャンペーンを日本で始めたことなどを紹介しました。

 

国連子どもの権利委員会の大谷さんは、日本においては、インターネットの問題を含め、子ども自身の参加という大きな課題があることを指摘しました。大谷さんは、自分が日本人初の委員として、国連子どもの権利委員会に加わっていることについて、重責を感じていると述べ、任期4年の残り3年間、世界の子どもの権利のアドボケートとしてさらに力を尽くし、今後、いろいろな人と協力しながら、具体的な成果をあげられるように目指したい、また、日本においては、子どもの参加の実現に貢献できるよう動いていきたいと意気込みを語りました。

 

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 (c)GPeVAC日本フォーラム

 

会場にいらっしゃっていた人間の安全保障に関する国連事務総長特別顧問の高須幸雄さんにもご発言いただきました。高須さんは、日本がこのたびパスファインディング国になったことをとても高く評価されましたが、それと同時に、人間の安全保障の統計からみると、日本が子どもをあまり大切にしている国とは言えないと指摘しました。日本にも困っている子どもたちはたくさんいる、国際的な仕事は非常に重要だが、それだけでは不十分であって、SDGsは日本に対して国内の課題を突き付けていることを強く認識しなければならないと訴えました。

 

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国連事務総長特別顧問の高須さん)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

パネルディスカッションを締めくくるにあたり、ファシリテーターの根本は、可能な開発目標(SDGs)の17の目標の中で、ゴール16は日本でもっともイメージしにくいものの一つと言われてきたが、ターゲット16.2の「子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する」は、日本の人々にとっても身近な課題として捉えやすく、またSDGsのすべてのゴールへのつながりも見えやすいと指摘し、今後の取り組みに期待感を示しました。そして根本は最後に、自分としては、「伝える」ということを通じて、今後、さらに16.2の達成に貢献していきたいと述べました。

 

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ファシリテーター:根本かおる)(c)GPeVAC日本フォーラム

 

最後に、ファシリテーターを務める根本が会場の皆さんに示した、世界の子どもたちに関する数字を共有します。

 

世界保健機関(WHO)の統計数値です。

 

・世界で、2歳-17歳の半数以上が何らかの形の暴力にさらされた経験があります

・世界で、2歳-4歳の子ども3億人が体罰を受けた経験があります

・世界で、13歳から15歳の3人に1人がいじめにあった経験があります。

・世界で、人身取引の3人に1人が子供です

 

SDGsの達成期限年の2030年、私たちは子どもを取り巻く状況について、どんな数字を見ることになるのでしょうか。

 

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©UN Photo/Eskinder Debebe   (本文の内容とは直接関係のない写真です)

 
(職員 千葉潔)