国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

国連平和維持活動強化のためのパートナーシップに思う

1992年6月15日の国際平和協力法(PKO法)制定からの30周年を前に、国連オペレーション支援局(DOS)上席企画官の伊東孝一さんが、平和維持活動におけるパートナーシップの重要性と、日本に求められるリーダーシップについて紹介します。

【略歴】国連三角パートナーシップ・プログラム(TPP)マネージャー・上席企画官。東京外国語大学卒、ロングアイランド大学大学院修士。富士銀行、国連日本政府代表部勤務を経て、2002年度JPO合格。2003年、国連開発計画(UNDP)コソボ事務所にて安全保障部門改革担当後、2004年より国連政治局(現、国連政治・平和構築局)で北東アジア担当。2006年、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)政務官、2008年より東ティモール担当事務総長特別代表付き特別補佐官。2012年、国連フィールド支援担当事務次長特別補佐官。2018年、国連オペレーション支援局(DOS)上席企画官。2020年より、現職。 ©︎Takakazu Ito

 

国連平和維持活動の意義

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、国連安全保障理事会に対する批判が、国連平和維持活動(PKO)や人道支援、さらには人権から開発といった非常に多岐に渡る活動を行う国連全体への批判へと繋がってしまっている。

しかしながら、国連PKOは、これまで70年以上に渡り、多くの脆弱な停戦状態にある国や紛争再発の恐れの高い国に設立され、それらの国々が紛争を脱し、持続可能な平和への道を歩みだす手助けをしてきた。日本も、自衛隊の部隊派遣や国連邦人職員らを含む人的貢献、多大な財政貢献などを通じて、大きな役割を果たしてきた。

カンボジアアンゴラクロアチア東ティモールシエラレオネエルサルバドルグアテマラコートジボワールリベリアといった国々は、いずれも国連PKOを「卒業」し、平和裏に国づくりを行っている。

2021年にUNMISS(南スーダンでのPKOミッション)で任務にあたるピースキーパー
UN Photo/Gregorio Cunha

 

2018年には、このような成果を上げてきた国連PKOをさらに強化し、新たな課題や脅威に対処することを可能にするため、国連事務局主導の改革イニシアチブ「PKOのための行動 [Action for Peacekeeping (A4P)]」が開始された。その重点分野の一つが様々なパートナーとの協力強化、すなわち「パートナーシップ」である。

PKO要員の能力構築パートナーシップ事業では、日本をはじめとする国連加盟国が国連のパートナー国としてPKO要員の訓練に貢献している。また、国連は、アフリカ連合AU)やその他の地域機関とも連携を強化し、能力構築事業にも取り組んでいる。これらのパートナーシップ事業の重要性が、近年頻繁に指摘されるようになってきている。

つい先日も、国連事務局は、「平和維持活動は多様なパートナーとの協力なしには成功しない」と強調し、国連平和維持要員の国際デー(5月29日)の2022年のテーマに、「パートナーシップ」を選んでいる。

日本の国際平和協力法制定30周年の節目にあたる機会をとらえ、私が携わってきた「三角パートナーシップ・プログラム [Triangular Partnership Programme (TPP)]」と、「アフリカ連合-国連 知識・技術交換プログラム [African Union-United Nations Knowledge and Expertise Exchange Programme (AU-UN KEEP)]」を紹介した上で、このようなパートナーシップ事業などを通し、日本が今後もPKO分野で強いリーダーシップを発揮していくことの重要性について述べたい。

 

国連三角パートナーシップ・プログラム

三角パートナーシップ・プログラム(TPP)は、国連事務局最大のPKO要員(ピースキーパー)能力構築事業である。2015年に東アフリカで開始した同プログラムは、その後アフリカやアジア周辺地域に対象を拡大し、これまでにPKO要員派遣国の7,000人以上のピースキーパーに対し、施設・医療・情報通信分野での訓練を実施してきた。この結果、多くの練度の高い修了生が、MINUSMA(マリ)、MONUSCO(コンゴ民主共和国)、UNIFIL(レバノン)、UNMISS(南スーダン)といった国連PKOミッションのみならず、AUの平和活動ミッションであるAMISOM(ソマリア)にも派遣され、平和活動で活躍している。

2021年以降は、コロナ禍での多くの制約や新たな課題に対処するための工夫も行い、TPPの枠組みの下、PKOミッションにおける遠隔医療プロジェクトや、施設・医療・情報通信分野のリモート訓練及び対面と組み合わせたハイブリッド型訓練を開発・実施している。

2022年、ケニアでアフリカのピースキーパーを対象に実施した国連TPP施設訓練での陸上事態の教官による重機操作教育の風景 ©︎Takakazu Ito

 

私が、TPPの企画を立案したのは、2014年であった。2000年以降、武器使用も伴う「文民の保護」を主たる任務の一つとする大型のPKOミッションが増加し、より危険度が増したPKOからの先進国離れが起きていた。そこで、国連の総合調整の下、部隊派遣が困難になった先進国や新興国が、PKO要員派遣国の主な構成国となった開発途上国の要員・部隊を訓練するという新しい形のPKO貢献として、TPPを考案したのだった。 

いくつかの国に働きかけたところ、同年にニューヨークの国連本部で開催されたPKOサミットで日本が一早く支援を表明し、TPPが発足した。日本は、これまでTPPに合計83億円もの資金を拠出し、2022年5月末時点で、延べ266名の陸上自衛隊の教官・通訳や内閣府国際平和協力本部事務局の連絡調整要員を、施設・医療訓練に派遣してきた。また、日本は、国連本部のTPP担当チームにも、発足当初より防衛省職員を派遣しており、2022年5月末時点で、合計4名が国連職員として同プログラムに携わってきた。

TPPのパートナー国は、順調に増えてきている。日本の他、スイス、ブラジル、モロッコイスラエル、インド、カナダ、デンマーク、フランス、オーストラリアをはじめとする多くの国が、教官の派遣や財政支援を行っており、ケニアウガンダ、モロッコ、ブラジル、ベトナムなどが、ホスト国として訓練施設を提供している。2021年12月に韓国・ソウルで行われたPKO閣僚級会合後には、韓国も新たなパートナーとして財政支援を行い、来年からは、教官団も派遣することとなっている。今後もTPPパートナー国のさらなる拡大に努め、平和維持能力の向上に貢献していきたい。

2022年、遠隔で行った国連野外衛生補助員コース開講式(左上が筆者) ©︎Takakazu Ito

 

アフリカ連合-国連 知識・専門技術交換プログラム

アフリカ連合-国連 知識・専門技術交換プログラム(AU-UN KEEP)は、2016年に、当時の国連フィールド支援担当事務次長が、当時のAU副事務総長から、PKOミッション管理のノウハウをAU事務局職員に共有してほしいとの要請を受け、始まったものである。

いまだに国連PKOには9万人近くの要員が展開しているが、実は2014年以降、新しいPKOミッションは設立されていない。AUをはじめとした地域機関・準地域機関やアフリカ諸国が、アフリカにおける紛争の解決や平和の維持に、より大きな役割を果たしていくことへの国際社会の期待は高い。そこで、AUが、より主体的に平和活動を行えるよう、AU職員の能力構築を支援していくことが必要になってきていた。

2016年から2018年の3年間の試行フェーズに、AUと国連はこのプログラムの下、PKOミッション管理の分野(情報通信、ロジスティクス、人材・財務管理など)で、9名の3か月もの長期人事交流を実施しており、AU・国連の実務者間でPKOミッションの管理・運用の知識、成功事例、教訓の共有を行っている。 人事交流に係る費用(各々の職員の渡航費、3ヶ月の出張費など)は、AU・国連各々が負担している。

2018年に、私は国連側で本プログラムを企画した責任者として、現地に赴きAU副事務総長と面会した。副事務総長に、本プログラムの意義と成果について説明し、AU-国連として、本プログラムを両組織の正規プログラムとして継続していくことの了解を得られた。

2018年、アフリカ連合のKwesi Quartey副事務総長(当時)とAU-UN KEEPについて面会 ©︎Takakazu Ito

 

TPP同様、AU-UN KEEP も、2021年以降は、コロナ禍の制約に対処するため、様々な工夫を行っている。職員の長期出張を伴う人事交流モデルから、リモートやオンラインでの相互能力構築・情報交換モデルへと切り替え、現在、サプライチェーン管理、財務管理、報告業務といった分野で、AU―国連の実務者間で、遠隔学習や情報交換を行っており、AU―国連の実務者間の協力ネットワークを構築している。

今後、AUと国連のミッションが、同一国・地域で、同時期に活動を行ったり、任務を分担したり、またAU-国連間で活動を引き継いだりする際に、このようなプログラムの重要性は益々高まっていくと思われる。

 

日本への今後の期待

ロシアによるウクライナ侵攻が、世界の安全保障・食料・エネルギー・経済に与えている影響が改めて私たちに突き付けているのは、一部の国や地域での紛争が、如何に世界中の国々に影響を及ぼしうるかということである。今、現在も、マリ、中央アフリカコンゴ民主共和国南スーダンといった国々で、ピースキーパーが平和維持・平和構築にあたっていることが、日本を含む多くの国の平和に繋がっている。私は、日本が、今後も、PKO分野でのリーダーシップ発揮を含め、世界の平和と安全の維持に貢献し続けていくことが、極めて重要だと思う。

MINUSTAH(ハイチでのPKOミッション)で貢献した日本人のピースキーパーたち
UN Photo/Logan Abassi

 

残念ながら、今後も、PKOの前線では、ピースキーパーが敵対行為で襲撃される恐れのある治安面でのリスクの高い環境が続くと想定されている。そのような中で、アフリカやアジアのPKO要員派遣国に、大部隊派遣を頼る状況が続くであろう。また、国連だけではなく、AUやアフリカ諸国が、アフリカにおける平和活動で、より積極的な役割を果たしていくことへの期待も益々高まっていくであろう。

PKO要員派遣国側には、純粋に国連PKOを通じ国際平和に寄与したいという国もあれば、大部隊を派遣し、それに伴う償還金を得ることで自国の大きな軍隊を維持したいという国もあるかもしれない。また、これらの要員派遣国の多くは、日本のように複雑、かつ厳しい武器使用の制限もない。このように「量」での貢献を行う国がある一方で、日本に期待されているのは、強いリーダーシップの発揮による「質」でのPKO貢献である。

2017年のUNMISS(南スーダン)からの自衛隊施設部隊撤収後、日本がPKOに部隊派遣をしていないことに注目が集まりがちである。しかし、陸上自衛隊は、2015年以降、TPPを通して、他国のピースキーパーの能力構築でリーダーシップを発揮してきた。

2020年、ベトナムで実施した国連TPP施設訓練閉校式(前列中央が筆者) ©︎Takakazu Ito

 

PKOの能力構築分野における日本の更なる貢献について、国際社会、国連事務局幹部、PKO要員派遣国の期待は高い。TPP新規訓練事業の立ち上げなどで国連事務局と知恵を出し合う知的貢献、現在の陸のみならず、空、海の自衛隊教官団の訓練派遣やTPP担当チームなどへの要員派遣を通じた人的貢献、また、これら活動を実施するにあたり必要となる財政的貢献など、日本には今後もTPPを通じて、同分野での強いリーダーシップを発揮していってほしい。

また、2023年1月より、日本は国連加盟国中最多となる12回目の安保理非常任理事国となるが、現在の分断してしまった安全保障理事会を修復する知恵を出し、今後のより良いPKOの在り方についての議論に貢献してほしい。さらに、米国、中国に次いで第3位のPKO分担金負担国として、より効果的な予算活用についても積極的に提言していくべきだ。日本にはこうしたPKO関連政策全般での貢献も期待しているし、開発途上国が貢献しにくい航空、通信、情報などの分野で高度な技術を持つ少人数の要員のPKO派遣も検討してほしい。

以上のような多岐に渡る分野での強いリーダーシップの発揮は、日本ならではの「質」でのPKO貢献として、国際社会から高く評価され、また感謝されるものと私は考えている。

三角パートナーシップ・プログラム(TPP)の企画、実施、対象地域や分野の拡大には、国連日本政府代表部政務部の歴代のPKO担当外交官や防衛駐在官はじめ多くの方々のご助言、ご支援をいただき、正に「パートナーシップ」を組み、一緒に取り組んできた。最後に、国連平和維持活動における今日までの日本政府の多大なるご貢献に対し、防衛省自衛隊、外務省・国連日本政府代表部、内閣府など関係各位に深甚なる謝辞を述べ、本稿を終えたい。

(本稿は、筆者による見解で、必ずしも国連事務局の見解を示すものではありません。)