第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。
取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第2回は、コペンハーゲンにある国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)に勤務する小南のり子さんです。
第2回 国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)
小南のり子さん
~効率的な国連調達でアフリカ開発に貢献~
神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒業後、英国ヨーク大学にて戦後復興学の修士号を取得。NGOピースウィンズ・ジャパンのスタッフとしてシエラレオネ、南スーダンにて難民、帰還民の人道支援に携わった後、2008年よりUNICEFの緊急人道支援専門員として、タンザニア、ジュネーブ本部、マリ、コンゴ民主共和国に勤務。2018年5月よりUNOPS本部の事業推進専門員。
開発、人道援助における「縁の下の力持ち」としての役割
UNOPSは、プロジェクトの実施に特化し、他の国連機関やドナー、裨益政府の業務をサポートするという、数ある国連組織の中でもユニークな機関です。特に得意分野としているのが調達とインフラ分野ですが、今回は調達分野を取り上げ、「UN Web Buy Plus」というEコマースシステム(平たく言えば、オンラインショッピング・システム)についてご紹介します。
あらゆる開発支援や人道支援は、当然のことながら必要物資や機材なしでは行うことができません。UNOPSは現地経済の推進のために、できる限り現地の企業から物資を調達するようにしていますが、現地では手に入りにくいもの、質が保証されていない場合などは、国外からの調達に頼ることになります。
限られた時間と予算の中で、どれだけスムーズに早く、安価で良質な物資や機材を調達できるかどうかはあらゆる援助機関や政府にとって、事業成功のカギとなります。
UN Web Buy Plusは、悪路での業務遂行に欠かせない四輪駆動車(トヨタのランドクルーザーはこの代表格)のほか、救急車、トラック、モーターバイクなどの車両、建設に必要なブルドーザー、農業に必要な機材、IT機材などを通して、これまでに120カ国以上、なかでもアフリカの開発に貢献してきました。また最近では、太陽光発電のランタンや街路灯、薬剤保存用冷蔵庫など、環境に配慮した製品も多く扱っています。
UN Web Buy Plus - 効果的な援助のための効率的な調達
煩雑な事務作業が必要になりがちな調達プロセスですが、UN Web Buy Plusは従来の調達システムと違い、基本的に画面の指示に従って必要な情報を入力するだけでよいので、利用者(国連機関、政府、NGOなど開発、人道支援に関わる機関)にとって非常に簡単で分かりやすいシステムになっています。利用者は、製品の写真や詳細を閲覧した上で、選んだ製品をオンライン上の買い物かごに入れ、配送地を入力すれば、配送料込みの見積もりと配送予定日が発行されます。見積もり確認後、問題なければ正式なオーダー発注となり、配送に向けた作業が始まります。また、製品を選ぶ過程では、類似の製品を比較するための機能や、オーダー後の進捗状況を把握するためのトラッキング機能もあり、また、必要な場合にはUNOPSサポートチームが商品に関する問い合わせ、最適なモデルやオプションの選択などに関するアドバイスをするので、初めてでも使いやすい仕組みになっています。
以下、UN Web Buy Plusによる調達の最近の事例をいくつかご紹介します。
アフリカ南部のレソト王国では、非常に高いHIVの感染率(2017年のUNAIDS統計では23.8%)が深刻な課題となっており、コミュニティレベルでのケアの充実が保健省の政策の重点項目となってます。同国保健省は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称「グローバルファンド」)の支援のもと、サービスが行き届いていない地域でのケアや予防への意識向上の拡充に取り組み始めました。具体的には、UN Web Buy Plusを通じてプレハブ建物を調達、新たに30の診療所と8つの細菌検査室の開設に向けて準備中です。UN Web Buy Plusのプレハブは設営が簡単で、目的に応じてデザインや機能を設定できる上、10年以上の耐久性があり、迅速な対応が必要な場合は特に重宝されています。
また、長年の紛争の影響で混乱が続くソマリアでは、治安と法の支配の回復が課題となっており、その中でも警察機能の強化(人権の尊重や透明性の確保を含む)は最重要項目のひとつです。UNOPSは2016年より、日本政府からの支援による警察能力強化事業を実施してきました。
さらにそれを後押しする形で2018年、ドナー各国の支援を受けて、国連は合同で警察プログラム(Joint Police Programme)を立ち上げました。その実施機関として、UNOPS はインフラ設備や訓練などの分野で貢献しているほか、UN Web Buy Plus を通して、これまでにオフロード用四駆、ピックアップトラック、救急車など計11車両を調達しました。必要最低限の機材も不足する中で、迅速な調達はプログラムの円滑な進捗に貢献しています。
エチオピアでは、同国保健省が地方における保健サービスへのアクセス向上のために300台の救急車をUN Web Buy Plusを通じて調達。また同国農業省は、「第二次成長と変革計画」(Growth and Transformation Plan II)の重要項目のひとつである農業支援プログラムの推進のために、UN Web Buy Plus を通じて、30台のトラクターと40台の四駆車両を調達しました。輸送を含め数カ月でこの規模の調達が円滑に行われたことから、エチオピア政府は別のセクターでもUN Web Buy Plusの利用を進めており、今後の更なる貢献への可能性を感じています。
アフリカ開発と日本企業との協力
現在はコペンハーゲンにあるUNOPS本部で事業推進専門員として勤務しているため、現場からは遠くなりましたが、それでも違う立場から具体的な形で開発、人道支援の実施に関わっていられるということを嬉しく思っています。また、合計1700以上の品目を扱っているWeb Buy Plus は、トヨタ、日産、ヤマハをはじめ日本を代表する企業の製品も多く、これまでアフリカに10年以上駐在した身としては、日本とアフリカとのつながりに不思議な縁を感じずにはいられません。今後はさらに、革新的技術(イノベーション)を駆使した製品の調達という面から、日本企業との協力が進むことを期待しています。また、UNOPSがその橋渡しとして、さらに貢献していければと思います。