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北海道にみた国連につながる歴史-国際連盟と新渡戸稲造

          ー北海道の国連寄託図書館を訪ねましたー

みなさま、こんにちは。

国連広報センターで、国連寄託図書館のコーディネートや研修などを担当しております、千葉と申します。

10月の終わりに、国連寄託図書館のひとつである北海道大学附属図書館を訪ねてまいりましたので、ご報告します。

北海道大学では、10月から11月にかけての約2週間をサステナビリティー・ウィークとし、持続可能な社会について考える取り組みを行っていますが、今年は同大図書館がその一環として、市民向けに、国連とその活動、国連の文書資料、国連寄託図書館をご案内するイベントを企画したのです。

私はその講師としてお招きいただき、伺いました。

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図書館でのイベントは2日間にまたがり、両日ともに、40名を超える同大の大学生や院生、教員、図書館、メディア、一般の方々のご参加がありました。

国連広報センターとして、「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に向けた広報に力を入れて活動するなか、道民の皆さんに、SDGsを含めた国連の広報、国連資料のご案内をする機会をいただきましたことを感謝しております。 

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イベントは、以下のような内容で行われました。 

初日の10月28日(金)は、「世界のルールの作り方・使い方‐人権に関する国連諸機関の仕組みと情報の調べ方‐」と題するワークショップ。図書館、報道機関、大学生・大学院生、教員、一般市民の方々が参加され、人権メカニズムを知るとともに、国連文書を調査する能力を身につけていただきました。

詳しくは、http://sustain.oia.hokudai.ac.jp/sw/2016/jp/rule/  

二日目の10月29日(土)のイベントは、「聞いて見て知る国連の活動と北大図書館」。国連とその活動に関するお話しと図書館ツアーを組み合わせたイベントで、幅広い層の市民の皆さんにご参加いただきました。

詳しくは、http://sustain.oia.hokudai.ac.jp/sw/2016/jp/lib/ 

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二日目のセミナー&ツアーには地域の高校生も参加してくれました。文科省の指定するスーパーグローバルハイスクール(SGH)、札幌聖心女子学院高等学校の生徒さんたちです。来年2月に研修目的でニューヨークの国連本部を訪ねるご予定という同校の皆さんは現在、来年に向けた準備を進めているところで、この日のイベントの参加もその一環だったそうです。生徒の皆さんからは研修旅行前の緊張を感じましたが、お話しを聴いていると、それ以上に、将来、国連で働いてみたい、よりよい世界をつくるのに役立ちたい、という思いが強く伝わってきました。 

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また、札幌市内から、お母さんといっしょに参加してくれた女の子もいました。小学3年生ながら、これからは国連や地球的規模の諸問題のことをもっといっぱい考えていきたいという気持ちを話してくれたことにとても勇気づけられました。この女の子が24、5歳になる頃、世界はSDGs達成期限年の2030年を迎えることを思いました。 

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さて、今回の私のブログでは、こうしてせっかくの訪問の機会を得たこともあり、国内の寄託図書館のなかで、もっとも北に位置する、この北大図書館について、少しばかり詳しくご案内したいと思います。 

まずなによりも、北海道大学自体が、国際連合というより、国際連合がその創設にあたって、その経験に多くを学んだ平和のための国際機関、国際連盟(1920-1946年)に深い縁があることをご紹介します。 

国際連盟で事務次長を務めた新渡戸稲造(1862-1933年)が実は、北海道大学の前身である札幌農学校の第2期生だったのです。(その後、同大学で教員としても11年間在籍)。 

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               (写真:北海道大学大学文書館提供)

『武士道』(1900年)を著したことでも有名な新渡戸は、国際連盟で、スウェーデンフィンランドの間にあるオーランド諸島の帰属問題の平和的解決を図ったことで、また、同連盟のもと、ユネスコの前身とされる国際知的協力委員会の設立に大きく貢献したことで、世界的にその名を知られるひとです。 

北海道大学大学文書館をはじめとする各施設には、新渡戸が書いたり、使ったりしたものの実物やレプリカが多く展示されています。 

このたびのイベントの合間に私もそれらを見学させていただく機会を得ましたが、その際、とてもよくしていただいたのは、大学文書館の山本さんです。山本さんは大学文書館の技術専門職員で、そうした貴重な資料にとても詳しい方です。 

まず感激したのは、農学に関する英語講義のノートでした。新渡戸がそこに清書した英文はまるで印刷された文字。褐色に色あせた古いノートを至近距離で見ていると、10代後半の新渡戸の若い希望に満ちた息遣いが聞こえてくるようでした。 

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                (写真:北海道大学大学文書館提供)

札幌農学校第2期生全員の成績表の展示もたいへん興味深いものです。新渡戸(当時は養父の太田姓)は、第2期生で第3位。優秀な成績です。とくに英語の点数が秀でています。ただ、成績順位のトップに内村鑑三という名前が書かれていたのを発見してびっくり。あの著名なキリスト教思想家、内村鑑三が新渡戸の同期生として、札幌農学校に学んでいたのです。10代後半のふたりが、いったいどのような会話を交わしていたのだろうか、とおもわず想像をめぐらせました。 

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                (写真:北海道大学大学文書館提供)

農学校の学生時代、読書家だった新渡戸が書き込みをしてしまった図書館の蔵書も残っています。そのひとつ、シェークスピアの『Hamlet』のレプリカが展示されていました。見ると、確かに赤線や青線が引っ張ってあります。赤線は、新渡戸が良い文章だと思ったところ、青線は良い思想だと思ったところだそうです。読書に没頭する青年の新渡戸が、図書館の大切な蔵書であるにもかかわらず、思わず赤色や青色の線を引いてしまって、農学校の教授陣や友人からずいぶんと叱られたり、からかわれたりしたのじゃないかなと想像すると愉快でした。 

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             (写真:北海道大学大学文書館提供)

新渡戸が事務次長を退任する1926年に同期生の宮部金吾に送ったという書簡も展示されていました。国際連盟用箋を用いたものです。レプリカでしたが、特別に実物も見せていただきました。

そこには、次のような文章がつづられています。 

「僕も今年一杯で満七年奉職した。エライ事もせぬ代り、太した失敗もなく、此の風変りの役所に勤め、兎に角何より、馬鹿にもされずに、日本の為めに高位をふさへて居た。明春は帰りて全国を廻はり度い。遠方から見ると、我邦の足らぬ点が見えてならぬ」

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友人に宛てたそんな手紙を書いてから10年もしないうちの1933年、日本は国際連盟からの脱退を表明することになりますが、同年10月に新渡戸稲造もその生涯を終えています。新渡戸が書いた手紙の実物を間近に見ながら、そのことに思いを馳せました。

 この新渡戸を輩出した同大の附属図書館が今、国際連合の寄託図書館として活動していることを思うと感慨深いものがあります。 

さて、この図書館について、ご紹介します。 

同大に国連寄託図書館が設置されたのは日本の国連加盟から6年後の1962年のことだそうです。最初は、同大経済学部が、限られた国連資料のみを受領する「一部寄託図書館」という指定を受け、その後、1979年に、全資料を経済学部から附属図書館本館に移管。そのあと、1995年に、受領対象が決議や報告書などの公式ドキュメントに広がる「全部寄託図書館」へと指定変更されました。

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全部寄託図書館になってから2年後の1997年には、この図書館で、年次会議が開かれています。そこで全国の寄託図書館の皆さんがお集まりになって研修に励まれました。振りかえれば、国連寄託図書館を担当するようになってまもない私が全国の寄託図書館の皆さんに初めてお会いして、ご挨拶を交わしたのが北大の図書館でした。 

2008年には、潘基文事務総長のご夫人がこの図書館を訪れておられます。G7洞爺湖サミットに参加する事務総長に同伴して来日された際のことです。ご夫人は実はかつて司書を務められていたことがあり、それもあって、ユニセフの集いへの出席やスピーチなどの忙しいプログラムの合間を縫って、この図書館を訪問し、国連寄託図書館としての活動を視察され、当時の館長(現、逸見勝亮名誉教授)ともお会いになったのです。その際、私も随行員として、ご一緒したことを覚えています。 

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 現在、国連寄託図書館の担当職員として勤務しておられるのは長嶋岳生さんと細井真弓美さん。お二人とも学生時代は図書館学を研究された、図書館に情熱を傾ける方です。 

今回の国連寄託図書館としてのイベントの開催を中心になって企画されたのが、人一倍エネルギッシュな長嶋さん。細井さんは中学生のときに市内の図書館ツアーで書庫の匂いに魅了されたのがきっかけで図書館に働くことを夢みたという、図書館をこよなく愛する素敵な方です。

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          (写真:左から、長嶋さん、眞野さん、細井さん、千葉さん) 

北海道の雄大さのなかで、国際連盟で活躍する人材を輩出した歴史をもつ大学に置かれ、熱意あふれる職員の方々が今日の国連と地域をつなぐ国連寄託図書館。

ぜひ、みなさまも一度、足を運ばれてみてはいかがでしょうか。 

あらためて、北大附属図書館職員の皆さん、ほんとうにお疲れ様でした。

* *** *

今週、11月10日(木)、11日(金)の2日間、国連広報センターは全国に置かれた14館の寄託図書館の皆さんを東京にお招きし、年次研修会議を開催します。当センター職員一同、皆さんと一年ぶりに再開し、活動報告をお聴きするのを楽しみにしています。


(千葉のブログを読む)
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