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国連のさまざまな活動を紹介します。 

シリーズ「今日、そして明日のいのちを救うために ― 世界人道サミット5月開催」(4)

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シリーズ第4回は、国際移住機関(IOM)ソマリア事務所、保健衛生事業コーディネーターの伊藤千顕さんです。約20年間も紛争状態にあったソマリアで、人道危機の再発を効率的に防ぐため、それぞれのアクターの専門性や得意分野を最大限に活かした人道支援の実現を目指しています。人の移動問題のエキスパートである国際機関の国際移住機関(IOM)、技術的専門性を持った日系企業、コミュニティ強化の基盤であるソマリアの民間セクター、それぞれがパートナーシップを大切にすることで、ソマリア国内の最も脆弱な部分にも対応しようとしています。ソマリア人の持続的自立を促す、国際官民連携による人道支援について寄稿していただきました。

 

第4回 保健衛生事業コーディネーター 国際移住機関(IOM)ソマリア事務所 伊藤千顕さん

     ~官民連携で、ソマリア人自身の力を人道支援の現場で生かす~

 

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     伊藤 千顕(いとう ちあき)保健衛生事業コーディネーター

 

東京都出身。大学で国際関係を専攻後、University of Wisconsin-Madisonで東南アジア研究修士号を取得。東京大学大学院医学系研究科国際保健計画学にて、人の移動におけるエイズ対策に関する調査・研究で2007年に博士号取得(保健科学)。Chulalongkorn University(タイ)、University of Washington、国際機関等での研究員・コンサルタントを経て、2007年から2010年までIOMタイ事務所にてビルマ人移住労働者の公衆衛生事業を担当。2010年より現職。IOMがソマリアで実施している国内避難民への緊急援助事業を統括。写真は、ケニア・ソマリア国境で母子保健支援をするIOMの医師と筆者。

 

厳しいソマリアの人道状況

 

2010年に現在の事務所に赴任して以来、担当している保健衛生事業を通して現在までに延べ100万人近くの裨益者への人道支援に携わりました。特に、2011-12年の大干ばつ、2013年のサイクロン、2014-15年のイエメン危機により発生したソマリア人帰還民への支援では、一人でも多くの人命が救えるよう、ソマリア政府を含む関係機関と調整しIOMは総力を挙げて取り組みました。しかし、2015年12月現在、ソマリアでは未だに約320万人の方々が人道支援を必要としている大変厳しい状況です。また、ドナーからの資金提供も年々減少傾向にあります。

 

約20年間の紛争によって事実上の無政府状態であったソマリアは、2012年の連邦政府の樹立や、近年のアフリカ連合派遣部隊(AMISOM)による反政府勢力の制圧などにより、以前に比べ政治的には安定傾向にあります。しかし、エルニーニョ現象が観測されるなど、2016年は洪水や干ばつの発生も危惧されており、人道支援のニーズがソマリアからすぐになくなるとは考えにくいのが現実です。従って、IOMを含めてソマリアで活動する多くの人道支援機関は、頻繁に発生する人道危機に対して、限られた財政資源でより多くの人口に対して継続的に支援を実施していかなければならないという大きな課題に直面しています。

 

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        ソマリアでの現場では防弾車や装甲車に乗車し厳重な警備で移動。

 

人道支援における官民連携事業

 

この課題に対して、IOMでは官民連携を通して民間企業の資金、知恵、技術を活用し、より効率的な人道支援を目指しています。具体的には、主に日系企業(ポリグル ソーシャル ビジネス、パナソニックヤマハ住友化学など)と協力し、安全な水の供給、性暴力の防止、船外機の修理に関する技術移転等を行っております。例えば、ポリグル ソーシャル ビジネス(以下ポリグル社)との協力で行っている水衛生事業においては、国内避難民など最も脆弱な人口が集中する南部地域の表流水と、*PGα21Ca®(通称ポリグル)の凝集・浄化力に着目し、2012年初頭より13ヶ所に給水システムを構築し、現在約25万人に対して安全な水を供給しています。

 

*費用対効果が高く、短時間で簡単に使え、環境にやさしく、しかも人体に悪影響が出ない画期的な水質浄化凝集技術。2015年時点で、凝集能力、経済性、環境への影響などにおいて、ソマリアで適応できる可能性がある水処理技術で、PGα21Ca®より優れている技術は存在しない。

 

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国内避難民居住地域(ソマリアモガディシュ)での給水施設。JICAの支援によるこの事業により、この 地域での急性水様性下痢症が減少した。

 

また、単に汚染された水を浄水するだけではなく、事業が終了したあとのソマリア人のオーナーシップや持続性を考慮し、健康・衛生問題に関する啓発活動、コミュニティの強化、社会インフラの整備、政府関係者や非営利団体などに対しての様々な能力開発も同時に行い、ソマリアの民間セクターとも協力し、より長期的で持続性のあるBOP(Base of the Pyramid)ビジネスの可能性も模索しています。

 

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ポリグルを使った給水施設から安全な水を汲む国内避難民の少女。より効率的かつ安全な水の確保が可能になった。

 

パナソニックとの事業では、日本政府の支援により、避難民居住地域で夜間に頻発する女性に対する性的暴行を防止するために、ソーラーランタンを配布し、防犯に貢献しています。ソマリアは、レイプを含む性暴力の被害は世界最悪の状況と言われており、特に移民や国内避難民などの移動する人々の多くは治安の悪い居住環境から、最も危険にさらされています。IOMは女性の社会的地位の向上と性暴力の防止を目指し、性暴力防止啓発活動と合わせてこれまでに約5,000世帯(約3万人)にソーラーランタンを配布しました。配布後のモニタリング調査では、治安改善や性暴力の減少に寄与しているのみならず、夜間に灯りがあることにより、いままで暗闇で出産していた状況が改善され、より安全な出産にも貢献しているとの結果が出ています。また、以前は薪で火を燈し灯りつけていたため、ソーラーランタンの導入により薪を刈る必要がなくなったため環境保全にも貢献しています。同時に、女性や子供が薪集めの労働を強いられなくなったため、その時間を勉学などの時間に有効に利用できるとの声を裨益者から聞いています。

 

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パナソニックのソーラーランタンと国内避難民の少女。性暴力の防止を目的とした、日本政府の支援による官民連携事業の一つ。

 

このような技術的イノベーションや官民連携のパートナーシップを通して、地理的に遠く離れた日本とソマリアの支援者と裨益者の距離を縮め、人道支援という地球規模の問題に対して多様な分野のパートナーと共に手を携えて人道支援を行っています。そして、このようなユニークな取り組みが日本のメディアに取り上げられ、ソマリアの現状を多くの方に知っていただくことになり、チャリティーイベントにも発展しました。

 

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     パナソニックのソーラーランタンで夜間でも安全な出産ができた国内避難民の母と子

 

もちろん、人道支援分野での民間企業との連携は、前例が少ないこともあり、企業との調整、物資の調達、新しい技術への理解などにおいて、当初は数々の課題もありました。しかし、2012年に起こった東アフリカとソマリアを含め“アフリカの角”一帯を襲った大干ばつでは、人命に係わる一刻を争う事態であったため、ポリグル社に初めて連絡をしてから、ドナーを説得し、他の国際機関、政府やコミュニティとの調整を迅速に行った結果、僅か3ヶ月でソマリアの現場で事業を立ち上げることができました。これがソマリアで21年ぶりのJICAの支援となったことで注目を集め、2013年に横浜で行われた第5回アフリカ開発会議TICAD V)などでの発表を通じて他国の人道支援パートナーに成功例として共有をしたことで、現在ではケニアやブルンジなどの緊急援助でもポリグルを使用するようになりました。事業を立ち上げるまでの3ヶ月は文字通り不眠不休で疾走していましたが、今振り返ると、自分の行動によって多くの人の命が救える状況において努力を惜しまないということは、企業、政府、援助機関の所属を問わず、この事業に係わったすべての人が共有した率直な感情であったと思います。そしてこの感情こそが困難が多い人道支援において、結果を出すための最大の原動力であると痛感しました。

 

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ポリグルの技術をソマリア人技術者に説明し、事業内容に関して政府、地域住民、NGOと協議する筆者

 

ソマリアディアスポラの人材活用

 

このような官民連携事業に加え、IOMはヨーロッパやアメリカなどに居住するソマリアディアスポラ(在外ソマリア人)の中で、高度な技術や能力を有した者を専門家として防災庁などの省庁へ派遣し、災害や緊急援助に迅速に対応できるよう、政府機関の能力向上事業を実施しています。これは人の移動(移住)の問題を専門に扱う国際機関としてIOMならではのソマリア人の力を生かす事業であり、緊急援助時における政府の調整能力の改善という点ですでに効果が出ています。

この他にも、ケニアやエチオピアから帰還を希望しているソマリア難民の中で、人道支援や開発分野で生かせる技術や能力をもつ人材を予め登録し、援助機関間でその情報を共有し、帰還後のコミュニティでの雇用に繋がるようなシステムの構築を目指しています。

現場に近いIOMらしく、既存の支援の形態や枠組みに囚われず、現場のニーズをよく理解し裨益者と一緒に知恵を絞り、引き続きより効率的・効果的な人道支援を目指していきたいと思います。

 

国際移住機関(IOM)について、詳しくはこちらもご覧ください。

 

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