災害の多い日本では、災害の影響をどのように減少させるか、そして災害の後、どのように復興を進めるかが大きな問題となっています。この問題に建築の面から取り組んでおられる建築家の坂茂(ばん・しげる)さん。国連防災世界会議開催中、潘基文国連事務総長とともに訪日された夫人と坂茂さんとの懇談会に、国連広報センターのインターン小林が参加しました。
坂さんは、国内外の多くの国々で災害後、仮設住宅を建築するなど、災害後の人々の生活を支えています。坂さんの建築について注目すべきなのが、その建築手法です。紙のチューブや現地で採れる材料を使用したりと、運びやすく心地の良い素材を使い、現地の環境にやさしい建築を行っています。
坂さんが建築した仮設の教会をご覧になり、「仮設の建物とは思えない」と感心する事務総長夫人
坂さんの作品の写真パネルを前に、”beautiful!”と感嘆の声を上げられた事務総長夫人。坂さんに、「お金のためでなく、多くの人のために働かれており、すばらしい」と言葉をかけておられました。
坂さんの説明に熱心に耳を傾ける事務総長夫人
また、懇談会中には、実際に被災地の避難所に設置された間仕切りを組み立てるデモンストレーションも行われました。あっという間に組み立てられる間仕切りを目にし、夫人は、間仕切りの支柱である紙のチューブを触りながら、”it is really strong.”とその丈夫さに関心していました。
坂さんが東日本大震災の際に被災地の仮設住宅で使用した間仕切りを、あっという間に組み立てる
懇談会の中で、坂さんは建築についてこう語ります。「今までの建築は、権力に寄り添って発展してきました。「目に見えない」ものである権力を、豪華な素材や絢爛な様式の建物を建てることで「見える」ものにする技術ばかりを発展させてきたと言えます。しかし、これからは傷ついた人々の役に立つ方向の建築技術を発展させていくべきだと思います。今回の被災地に建築したものは、その試みのひとつです。」
災害を完全に無くすことは不可能でも、災害の後、被災した人々にどのように寄り添うかで、人々の心のあり方は大きく変化するはずです。坂さんの言葉は、被災した人々に寄り添う、新たな建築のあり方を示すものといえるのではないでしょうか。その手法とデザインは、混沌とした被災地の中にあって、「美しい」とまで感じさせる空気感をかもし出している、そう私は感じました。
坂さんの事務所の韓国人インターンに、韓国語で励ましの言葉をかける夫人
坂さんの作品と彼の姿勢に共感する夫人の懇談会の様子から、被災した人々をいたわることの大切さを実感させる懇談会となりました。