国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

日本から世界に伝えたいSDGs⑤ 【私たちが何を選ぶかで社会は変わっていく 伝え続ける若き環境活動家】

茨城県笠間市稲田中学校での講演 ©UNIC Tokyo/Ichiro Mae

【略歴】露木しいな 2001年生まれ、神奈川県横浜市出身。高校3年間を「世界一エコな学校」と言われるインドネシアのGreen School Baliで学ぶ。2018年と2019年に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24・25)にも参加。現在大学を休学し、日本各地の学校で若者たちに環境問題について講演する活動を続ける。社会問題を1分で学べる動画も配信。

 

世界の優先課題「気候変動」に立ち上がる若者たち

いま気候変動はあらゆる国に影響を及ぼし、その対策は世界の最優先課題となっています。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「地球はいまだ緊急の治療室にいる」とし、気候危機を深刻化させ、生態系を破壊している、自然に対する「自滅的な戦争」を終わらせなければならないと述べています。

気候変動の影響を切実に受けるのは、ギリギリの生活を強いられている最も脆弱な立場に置かれた人たち、そして未来を担う若い世代です。世界中で若き環境活動家が立ち上がっています。

日本各地で小学校から大学まで若い世代に向けて、環境問題を伝え続ける22歳の露木しいなさんもその一人です。「環境問題は待ってくれない」と、大学を休学し、日本各地200校で30,000人に向けて講演してきました。自分たちの手で変化を起こそうと、行動し続ける露木さん、その道のりと思いを取材しました。

 

大人になるまで待たなくていい 今できることを

去年11月、茨城県笠間市にある稲田中学校の全校生徒約120人を前に、露木さんはいま地球や自然に起こっている問題について講演しました。露木さんはこうした学校での講演を2020年、19歳の時に始めました。

稲田中学校の全校生徒に向けた講演 ©UNIC Tokyo/Ichiro Mae

活動の出発点は、高校3年間を学んだインドネシアGreen School Baliでの経験です。「世界一エコな学校」と呼ばれ、環境問題のリーダーを育てることを理念とし、校舎は竹で作られ、電気は太陽光や水力など自然エネルギーで自給、排泄物は堆肥にするなど、生徒たちは循環するシステムを体感しながら学校生活を送ります。教科書はなく、課外活動など体験から学び、行動することに重点が置かれています。

インドネシアのGreen School Bali  撮影 甲斐昌浩

露木さんは、そこで世界各地から集まった生徒が、環境問題のために行動を起こす姿を目の当たりにしました。10代の姉妹は買い物時のレジ袋をゼロにする団体を立ち上げました。彼女らは、店舗と交渉し、署名活動も行い、最終的に州知事の合意をとりつけ、その地域でのレジ袋の撤廃を実現したのです。そんな仲間の姿に大きな刺激を受けながら、露木さん自身も在学中にCOP24、25 に参加するなど、様々な機会に積極的に出向きました。その経験を、生徒たちにこう伝えました。

Green School Bali のクラスメイトたちと 提供 Zissou

「学校の半分くらいの時間は課外活動でした。行動することに力を入れているので、海洋プラスチックごみについて学ぶとなると、世界で年間800万トンのごみが出ているという情報だけでなく、実際に海に行ってごみ拾いをします。インターネットや教科書の知識にはあてはまらないこともあり、実際に現場を見て何ができるかを考えます。

一番学んだことは、行動したいと思ったら大人になるまで待たなくていいということです。Green School Baliには行動する人たちがたくさんいて、年齢に関係なくできることがあるのだと感じました」

 ©UNIC Tokyo/Ichiro Mae

知ることから始める

露木さんは、50分間の授業の中で、地球温暖化によって洪水や飢餓などの異常気象が世界各地で起きている実例や、生態系の危機、その原因の1つでもある大量消費の社会の現実などを、生徒たちに問いを投げながら話していきます。

人類が自分たちの暮らしのために家畜を増やしたことで、地球上に生息する哺乳類の62%が家畜、34%が人類で、野生動物は4%のみという事実や、世界で必要な食糧援助420万トンよりも多い612万トンの食品が日本で一年間に捨てられていること、世界の衣料品の半分以上が売れずに廃棄処分されていることなどを説明すると、生徒たちには驚きの表情が浮かびました。

©UNIC Tokyo/Ichiro Mae

待ったなしの環境問題に対し、世界ではスウェーデンの活動家グレタ・トゥーンベリさんのように若い世代が立ち上がっています。露木さんは、COPの現場でグレタさんにも会いました。グレタさんが一人で始めた気候変動への対策を求める抗議行動が、1年後には150か国以上400万人に広がり、いまや700万人が賛同するにいたったことを、生徒たちに伝えました。

露木さんは、日本と世界の行動の差はどこから生まれるのか考えてきました。情報の格差が行動の格差になっているのではと感じ、知ることなしに行動は生まれないのではないかと考えて教育現場での講演活動を始めたのです。

2018年COP24に参加した際にグレタさん(中央)と 提供 露木しいな

人にも環境にも優しい商品とは

持続可能な開発目標(SDGs)のゴール13には「気候変動に具体的な対策を」が掲げられていますが、これはほかのゴールにも密接に関わっています。ゴール12の「つくる責任、買う責任」は、限りある地球資源や環境に配慮し、持続可能な生産や消費を目指します。露木さんは講演活動に加え、地球環境に優しい商品の開発も行っています。自らの挑戦を生徒たちに伝えました。

露木さんはGreen School Baliに留学中、化粧品の研究に打ち込みました。その理由は、2歳年下の妹が肌が弱く、化粧品を買った時に「ナチュラル」と書かれた商品を選んだにも関わらず、が赤く腫れてしまったことでした。原材料や製造の過程など、商品の背景を理解して買うことの大切さを痛感したと言います。

妹が使える安全な化粧品を開発したいという願いから、人にも環境にも優しいコスメブランドを立ち上げました。原材料を明記し、動物性原料は使わず、容器や梱包も含めて、人にも環境にも優しい商品とは何かを追及しています。椿油など、昔から継承される知恵や技術について調査に行くなど、Green School Bali で学んだ”行動”を実践しています。

口紅づくりのワークショップも開催し、これまでにおよそ1000人が参加しました。自らの手で作ることによって、それが何で作られているのか、その材料はどこから来ているのか、などの意識が広がると考えたからです。生徒たちにこう呼びかけました。

「私が思うに一番権力があるのは消費者です。企業は消費者に買ってもらえない商品は作れない。毎日どんなものを買うかの判断、選択が、社会の1つ1つをつくっていくのです」

口紅を手作りするワークショップの様子 提供 露木しいな 

私たちは解決の一部になれる

露木さんは、行動する人を増やし、世の中を変えていきたいという願いから、教育の可能性を信じて、学校などで若者たちに語り続けてきました。講演で生徒たちにどんな社会にしていきたいかを投げかけました。

いま、幸せは”便利”というふうにとらえられている部分もあります。”便利”が悪いわけではないけれど、大量にものが作られ、大量に消費され、大量に破棄されています。日本のGDPは昔より上がっているけれど、幸福度は下がり続けています。

世界では幸福度が高い国と環境先進国はだいたい一致しているんです。幸せは”サステナビリティ(持続可能性)”ととらえることもできるのではないかと思います」

国連広報センターの取材に応える露木さん ©UNIC Tokyo/Ichiro Mae

露木さんが勇気づけられているデータがあります。ハーバード大学の研究では、人口の3.5%が立ち上がれば社会は変わるということが明らかになっています。このことを最後に生徒たちに伝えました。

「3.5%が立ち上がれば、歴史上革命が起きてきたのです。私はそれに希望を感じて活動をしています。人間が原因や問題を作り出している中、自分が原因だと思うと悲しくなりますが、行動によって私たちは解決策にもなれるのです」

露木さんのもとには、これまでに講演を聞いた生徒たちから、「給食のプラスチックストローをやめるよう働きかけた」、「規格外の野菜を農家と一緒に商品開発している」など、”行動”の報告が届いています。それは露木さんにとって一番の喜びです。この日、この日講演を聞いた稲田中学校の生徒たちからもこんな感想が聞かれました。

「行動するのに年齢は関係ないという言葉がすごく心に残りました。年齢に関係なく、自分が解決しようと思うことに力を注いでいい、そうしている人もいるのだと心動かされました。アンテナを張って情報を得ていくべきだなと思いました」

SDGs ボードを掲げる稲田中学校生徒会のみなさん ©UNIC Tokyo/Ichiro Mae

より多くの人に届けるための新たな挑戦

より多くの若者にスピード感を加速して伝えていきたい、いま露木さんは新たな伝え方を模索しています。環境問題をはじめ、持続可能な目標(SDGs)に関連する社会問題を伝えるショート動画の制作を去年から始めました。

動画の撮影に臨む露木さん ©UNIC Tokyo/Mariko Iino

若い世代に見てもらえるよう各テーマを1分にまとめSNSで公開しています。クラウドファンディングで集まった資金をもとに、100本を目指し毎週2本を配信しています。

「1年で200日学校を回り、1日2回話したとしても400校です。学校以外の時間でも見てもらえるようにと動画を作ったのですが、先生たちからも学校で活用しているよと言ってもらっています」

リサーチやファクトチェックにも時間をかける ©UNIC Tokyo/Mariko Iino

廃棄食品から作られる堆肥燃料、海洋ゴミを回収する発明品、古い衣料品を利用した家具など、環境に関わる問題から、日本国内の難民支援、政治への女性参加の現場など様々なテーマを、カメラマンと共に各地に取材し、新たな解決のアイデアなど希望となる視点もあわせて伝える動画は、これまでに50本になりました。

動画を配信し始めた当初は再生数が伸びましたが、変化が激しいオンラインの世界でいかに飽きられずに見てもらえるかが、露木さんの悩みです。呼びかけの一つ一つや、映像をどの角度からどう見せるか、など試行錯誤は続きます。

食品ロスから堆肥燃料を生み出す企業の取り組みを取材 提供 露木しいな

環境問題について様々な方法でパワフルに伝えてきた露木さんですが、いつも自分自身に問いかけるのは、「いま、自分にしかできないことは何か」です。自分が選択した行動が本当にベストなのかという葛藤は尽きないと言います。

「手段は無限にある中で、自分が今このタイミングでやるべきことは何かを判断するのはとても大変です。だからこそ、自分の活動には常に疑いを持っています。これでいいのか、これで世の中は変わるのか、これで十分なのか、などの疑問で頭の中がいっぱいです。これからもクリアになることはないと思います」

毎週2回配信しているSDGsについて伝える1分動画

SDGs達成期限である2030年にどんな地球になっていると思うか、露木さんに聞いてみました。

「どうなっているかというより、どうしたいかが大事だと思います。どうなっているかと考える時点でどこか他人事になっているように思います。もちろん、今のこの美しい自然環境を今後も残して次世代の人に見てもらいたいです。

私は自然が好きなんです。そこに負荷がかかっている今の社会が悲しい。自分が好きな場所なのだから改善できることがあれば、改善したいのです」

露木さんは、去年10月、潘基文国連事務総長の率いる財団や研究機関が主催した韓国での国際環境イベント「Trans-Pacific Sustainability Dialogue」に登壇し、世界各国の代表者や研究者に交じって、SDGsの実践の発表を行いました。

韓国で行われた国際環境イベントに登壇 提供 谷本まさのり 

環境をめぐる議論では、先進国、途上国などの間での対立もあります。分断する世界が対話に迎えるような関わりができるよう力をつけていきたい、それも露木さんの未来の目標の1つです。

もし、私たちの行動の選択で世界に変化を起こせるとしたら、あなたは今日何をしますか。