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「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(19) 野田章子さん(後編)

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第19回は、野田章子さん(国連開発計画(UNDP)インド常駐代表)からの寄稿の後編です。

 

コロナ危機におけるリーダーシップ: インドからの現場報告(後編)

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2019年5月よりUNDPインド常駐代表。それ以前は、三菱総合研究所を経て、1998年からUNDPタジキスタン事務所に勤務した後、UNDPのコソボユーゴスラビア(現セルビア・モンテネグロ)の各事務所を経て、2002-2005年は UNDP本部でマーク・マロック・ブラウン元総裁のもとでプログラムスペシャリストを務める。その後、国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)、パキスタンの国連常駐調整官事務所での勤務を経て、2006年からUNDPモンゴル事務所にて常駐副代表、2011年からUNDPネパール事務所にて国代表、2014年10月より2019年4月までモルジブ国連常駐調整官兼UNDP常駐代表を歴任。慶応義塾大学大学院修了(政治学修士) ©︎ UNDP

 

インドでの感染者数は9月上旬現在、世界第2位。13.7億人の人口から考えると、他の国の感染率に比べると最悪の状態とは言えませんが、2か月の都市封鎖の時期も含め確実に毎日感染者数は増加し、減少傾向には至っていません。このような中、UNDPオフィスのスタッフの中にも感染者が何人かおり、また死亡に至るケースもありました。UNDPに20年近く勤務した彼。コロナへの恐怖と偏見からか検査に行かず自宅で経過を観察していましたが、病状が急激に悪化し、オフィスに連絡が入った時点では受け入れ先の病院の手配が間に合いませんでした。コロナが確認されたのは死亡後でした。自宅待機期間を終えたご家族を慰問しましたが、稼いだお給料は出身州での家の建設にあてていたらしくデリーでの生活は大変貧しいもので、一室に奥さんと子供3人が残され途方に暮れていました。今でも時折、あの慰問の光景がフラッシュバックします。


この辛い経験をもとに、スタッフにはコロナの疑いのある病状があればすぐに病院に相談する重要性をミーティングやメールで何度も強調し、またスタッフには小型のパルスオキシメーター(血中酸素飽和度を測定する機器)を配布し日頃から自分と家族の健康に留意するようお願いしました。また亡くなったご家族にはスタッフ有志で寄付を募り、これからの教育費にと渡しました。


都市封鎖の間、デリーでは大気汚染が49%削減され、窓の外からは楽しそうな鳥のさえずりが聞こえ、色鮮やかな蝶々が飛んでいるのも目に入ります。メディアでは、ここ30年程見えなかったヒマラヤ山脈が200キロ以上離れたウッタルプラデーシュ州のサハランプールという町から見えた映像や、車が影を潜めた道路をゾウが優雅に歩いている姿などがニュースになりました。人間の経済活動が一時的に縮小されただけで、これ程明らかに環境によいインパクトが与えられるとは、考えもしませんでした。

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都市封鎖により、閑散とする4月のニューデリーの道路。 ©︎ UNDP/Shoko Noda


環境面からみると効果的な結果が見られますが、反対にこれまでの経済成長最優先の影で、次の食事がいつできるかも分からない多くの人々がコロナ危機にあたり失業してしまった姿は、写真などで見ていても胸が締め付けられる思いです。労働人口の85%以上を占めるインフォーマルセクターで働く労働者たち。彼らは一生懸命働いて工場を動かし続け、ビジネスが利益を享受できるようにし、経済成長を進めてきた人々です。しかしながらインドの現状の雇用制度では、彼ら自身は経済成長の真の利益者となっておらず、このコロナ危機に直面し、都市封鎖の中、真っ先に雇用を切られました。今後、ポスト・コロナの復興を考える際に、より環境に優しく、また最も脆弱な労働者やその家族へのより充実した社会保障制度の拡充を視野に入れた政策が必要になってきます。


このような今までにない危機に直面し、UNDPはインド政府、州政府、ドナー各国、企業、市民社会、コミュニティ、その他の国連機関と緊密に連携して、パンデミックによって影響を受けた人々を支援しています。中でも日本政府からの支援はその中核を占めています。支援の内容はまず、最前線で我々の生活や健康の基盤を支えている医療従事者と最も脆弱なコミュニティに焦点を当てます。具体的には、マスク、手袋、手指消毒剤、石鹸を含む安全キットを1万8,000人以上の貧困層のごみ収集分別者に提供し、都市封鎖中に約10万の食品パッケージと50万キロの穀物を配布しました。またUNDPは、最前線の医療従事者を新たな感染から保護するために、医療施設での医療廃棄物の安全な廃棄をリアルタイムで監視する簡素なスマートフォンアプリの開発を支援しています。

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マスクや手指消毒剤の支援物資の確認を行う、ニューデリーのUNDPの職員。 ©︎ UNDP

 

パンデミックの拡大に伴い、支援の焦点を地域のネットワークを動員する方向に転じ、インフォーマルセクターの労働者や最も脆弱な労働者に手を差し伸べ、彼らがさまざまな社会保障制度にアクセスできるように尽力しています。また、コミュニティ組織と協力して、最も影響を受けている人々が、家族経営の農業、商店、その他の小規模ビジネスといった新しい仕事を始めたり、生計を立てる機会を得たりできるよう手助けしています。目標は、125万人にこのような支援を届けることです。


UNDPインドのチームの強みは、新型コロナウイルス対策にデジタルソリューションを使えることです。 2万8,000を超える医療施設で、個人用保護具(PPE)のサプライチェーンを追跡するために、既存の電子ワクチン情報ネットワーク(eVIN)に追加機能を設計しました。また、ウッタルプラデーシュ州政府に対しては、州外から戻ってきた出稼ぎ労働者の教育レベルやスキルといった情報を、州政府当局が収集できる新しいアプリの導入も支援しました。アプリによって情報が照合できると、新たな労働力の情報に基づいて経済回復計画を立てるのに役立つと考えられます。コロナに関する正しい知識を身に着けてもらうために、コロナに関する簡単なオンラインゲームも開発し、インドをはじめ数か国で広めています。

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電子ワクチン情報ネットワーク(eVIN)を利用し、在庫確認を行う医療従事者。 ©︎ UNDP


コロナの拡大のため、このプログラムを施行するのは決して容易ではありません。UNDPは各州にスタッフが駐在しており、彼ら彼女らを通じて、また地域に密着したNGOと連携しプログラムを動かしています。その際にもスタッフの安全が第一です。出張申請がスタッフから提出されるたびに、コロナ対策はしっかりできているか確認します。私自身もスタッフと一緒に最前線でコミュニティ支援を行う機会があります。先日はUNDPのプラスティック再利用のプロジェクトに従事しているごみ収集分別者の女性たちに支援物資を渡しました。使い捨てのマスクや決して安全ではないゴミを収集して生計を立てている彼女たちに、心から感謝の意を届けました。

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コロナ危機の中にありながら、環境のために日々貢献しているゴミ収集分別者に、支援物資と感謝の意が贈られた。 ©︎ UNDP India


この記事が公開される9月中旬の時点で、UNDPを含むインドの国連のスタッフは基本的には在宅勤務を継続しています。先日、所用で久しぶりにオフィスに立ち寄る機会がありました。あんなに賑やかでインド独特のカラフルな服をまとったスタッフでいっぱいだったオフィスが、まるで幽霊屋敷のようにガランとしていたのにはとても寂しく感じました。

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在宅勤務が引き続き実施されているUNDPインド事務所。 ©︎ UNDP/Deepak Gera


世界の中で、またインドで国連としてどこまで貢献できるだろうか。期待に応える仕事ができているだろうか。日々、試行錯誤しながら自分自身に問いかけています。このような状況のなか、スタッフ全員が常にひとつにまとまり、健康でやる気を失わずに今まで通りの仕事の結果を出してもらうのは決して簡単ではありません。このような危機であるからこそ、よりスタッフに寄り添ったリーダーでありたいと心掛けています。


このコロナ危機がある程度収拾したときに、私も丹羽さんがおっしゃるように、最終的には問題解決に少しでも貢献できたと誇りをもって言えるように、これからも努力していきたいと思います。

 

インド・ニューデリーにて

野田 章子

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(18) 野田章子さん(前編)

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第18回は、野田章子さん(国連開発計画(UNDP)インド常駐代表)からの寄稿の前編です。

 

コロナ危機におけるリーダーシップ: インドからの現場報告(前編)

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2019年5月よりUNDPインド常駐代表。それ以前は、三菱総合研究所を経て、1998年からUNDPタジキスタン事務所に勤務した後、UNDPのコソボユーゴスラビア(現セルビア・モンテネグロ)の各事務所を経て、2002-2005年は UNDP本部でマーク・マロック・ブラウン元総裁のもとでプログラムスペシャリストを務める。その後、国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)、パキスタンの国連常駐調整官事務所での勤務を経て、2006年からUNDPモンゴル事務所にて常駐副代表、2011 年からUNDPネパール事務所にて国代表、2014年10月より2019年4月までモルジブ国連常駐調整官兼UNDP常駐代表を歴任。慶応義塾大学大学院修了(政治学修士)。 ©︎ UNDP

 

インド全土でのロックダウンが宣言されて2日目の3月26日。「Shoko、今晩中にTikTokにビデオを上げたいから、これからピアノを弾いて、一言二言みなさん家にいましょうと呼び掛けてビデオに撮って送ってくれる?全部で45秒ぐらいね。」これから夕食という時に、オフィスのソーシャルメディア担当者からこの様な指示。すでに空腹な夫に頼み、角度の調整や練習で結局1時間ほどかけて撮影。TikTokインドとUNDPインド事務所のコラボで行われた#StayHomeIndia (#GharBaithoIndia)キャンペーンで、私のビデオはモディ首相や人気ボリウッド俳優のメッセージと並びトップページに掲載されました。

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#StayHomeIndia (#GharBaithoIndia)キャンペーンを通して、家にいるよう呼び掛けている。
©︎ UNDP India


ビデオでは「Let’s stay at home(家にいよう)」と笑顔で言ってはみたものの、内心はコロナ対応プログラムの早期立ち上げのプレッシャー、自宅勤務となった総勢600人超のスタッフをどう統括するか、そして日本にいる両親のことなど、国連勤務23年目にして今まで経験したことのない危機に直面し、正直不安でいっぱいでした。3月上旬からはUNDP本部からのメールはすべてコロナ関連。夜型の広報チームから来る連絡や内容確認事項は早くても夕食の時間帯。ズーム会議もUNDP本部のあるニューヨークに合わせた時間と、何かと勤務時間が不規則になり、また本部のスピード感と流動的な現場での状況に挟まれ、週末もなく夜遅くまでパソコンに向かう毎日でした。

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UNDP本部のあるニューヨークの時間に合わせ、様々な会議が開かれている。 ©︎ UNDP/Hajime Kishimori 


UNDPインド事務所のスタッフは幹部3人を除いては、全員インド人です。これまでに紛争や大規模な自然災害のような危機に直面した状況でのプログラムを動かした経験がほぼないオフィスに、危機感を持たせコロナ対応のプログラムを早急に立ち上げ、既存のプログラムの軌道修正を行わせることには苦労しました。それを在宅勤務という形態で行うことは、以前に国連常駐調整官になるために受けたテストでも試されないような全く想定外の危機対応能力を求められました。


在宅勤務に入った当初のスタッフの勤務習慣はばらばらでした。また在宅勤務への適応も、各人の性格、家族構成、男性、女性、ITを使いこなせる若い世代とそうでない世代などによって様々です。前述のように広報担当のスタッフたちは皆、当初は典型的な夜型でした。またスタッフの中には働きすぎて自己調整ができなくなり、燃え尽き症候群状態で2、3日ダウンしてしまう人もいました。一人暮らしのスタッフも結構多く、彼らとは、ミーティングや「ズーム」ランチをして、日頃の調子や仕事の進捗を聞く機会を設けました。睡眠障害に陥っている人、オフィスが恋しい人など、家族と同居しているスタッフとはまた違った問題を抱えています。

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スタッフとのオンライン・ミーティングはチームの結束力のために欠かせない ©︎ UNDP/Swetha Kolluri


またスタッフの要望や問題を吸い上げるため、定期的にオンラインのアンケートを行いました。アンケートの結果から分かったことは、例えば女性はやはり家事全般を行うというプレッシャーがあり、女性スタッフは在宅勤務で自宅にいることで勤務時間中も家事や食事の準備を期待されてしまい、さらに負担が大きくなる傾向にあるという点です。私同様、ズーム会議疲れを感じているスタッフも見受けられました。そのため12時から14時まではミーティングをなるべく避ける時間帯と設定しました。自宅勤務のため、仕事と生活の区切りをつけるのがより難しく、ワークライフバランスが崩れる傾向にあるので、有給休暇の取得を促しました。またスタッフの健康を考えて、インドらしくヨガの先生によるオンラインのクラスやその他の趣味講座を設けました。ストレス対処方や家庭内暴力に関するウェビナーも随時、開催しています。

メンタルヘルスは体の健康と同等に重要です。#MentalHealthAwareness(メンタルヘルスへの関心)について、UNDPインド事務所は心の健康を保つためのヒントについて、フェイスブックメンタルヘルスの専門家とのライブ対談を開催します。」スタッフに対するケア以外に、専門家を招いたメンタルヘルスを取り上げたウェビナーも随時開催。

 

スタッフにはワークライフバランスの重要性を説きますが、有言実行につなげるのは決して簡単ではありません。私の通勤時間は、通常であれば1日1時間弱。これに相当する時間をなるべくジョギングやヨガに使うようにしています。ジョギングに関しては、毎月の合計距離を100キロに目標を定め、今のところ何とか達成しています。ヨガではカラスのポーズを習得できました。在宅勤務で一番嬉しいのは、飼い猫のたまとふじと過ごす時間がぐっと増えたことです。たまは午前中の昼寝を終え午後になると、私のズームミーティングやフェースブックライブの途中に、パソコンの周りを優雅に歩き回り愛嬌を振りまきながら登場することもしばしば。こういう息抜きがあってこそ、長時間に及ぶ在宅勤務もなんとかこなしています。

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長時間に及ぶ在宅勤務の癒しである、飼い猫のたま。この日は膝に乗って画面を凝視しています。©︎ UNDP/Shoko Noda


また5月には息抜きとインスピレーションを求め、お正月休みに日本で買ったUNDPの大先輩の丹羽敏之さんの「生まれ変わっても国連」を手に取りました。470ページに渡る本なので、読破できるか心配でしたが読み始めると結局、睡眠時間を削るほど集中して読めました。輝かしいキャリアをお持ちの丹羽さんですが、正直にご自分の成功、葛藤を描かれています。あとがきに「自信と不安、希望と失望、満足と落胆、信頼と裏切り、成功と嫉妬の連続であった。そうしたなかで、つねに試行錯誤をし、問題解決の道を探ることは価値のあることでもあった。」とあったのが大変印象的でした。


この「ニューノーマル」も5か月を過ぎると、ポジティブな効果も見受けられます。例えばUNDPでは主にズームで会議を行います。ズームの画面では、同じ大きさの四角形の枠に参加者が映し出されます。インドのような階級社会では日本のように上下関係がしっかり根付き、より上席のポストに付いているスタッフに気を使いながら話す傾向がありますが、ズーム会議になってからは、役職に関わらずやる気がありアイディアが豊富なスタッフの活躍がより明確に見えてきます。中間管理職の煩わしい管理を飛ばし、直接連絡をしてくるスタッフの中には、この「ニューノーマル」の勤務形態で上下関係の煩わしさからの解放感を有難く思える人もいるようです。またほぼすべてのミーティングがオンラインで行われるため、出張や移動の時間が大幅に短縮され効率化も図ることができ、今までの出張やセミナーに充てられた経費が節約され、少しでも多くの予算を受益者への支援に再編成できることも利点です。

 

後編では、UNDPインド事務所が様々な制約の中でどのような支援活動を行っているかについてお伝えします。

 

インド・ニューデリーにて

野田 章子 

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(17) 本田桂子さん

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第17回は、本田桂子さん(米国コロンビア大学国際公共政策大学院の客員教授・客員研究員)からの寄稿です。

 

コロナを契機により良い世界にーピンチをチャンスにして発展途上国との共生を

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米国コロンビア大学国際公共政策大学院の客員教授・客員研究員。発展途上国における政治的リスクに対し保証を提供する世界銀行グループの機関、多数国間投資保証機関(MIGA)の長官CEOを2019年10月末までつとめた。それ以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニーのアジア部門で初の女性シニア・パートナーとして、企業戦略M&Aや提携などに関する助言を24年にわたり行った。ベイン・アンド・カンパニーおよびリーマン・ブラザーズにも勤務。2020年より三菱UFJファイナンシャル・グループとAGC株式会社社の社外取締役一橋大学客員教授を務める。国連投資委員会委員。

 

コロナはグローバル

日本でも感染者が増えているようですが、罹患なさった皆様にはお見舞いを申し上げます。中国で発生したコロナは、イタリアをはじめとする欧州で猛威ふるい、私の住む米国ニューヨークにもやってきました。この原稿を書いている8月16日時点で、米国は、大変残念なことに、ジョンズホプキンズ大学によると、累積コロナ陽性確認者数が541万人超で世界トップ、一日の新規陽性確認者が42,000人と世界で第二位となっています。コロンビア大学でも学生が一人と職員が一人亡くなりました。

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ニューヨークの病院で、新型コロナウィルスに感染した疑いのある患者の対応にあたる医療従事者たち。©︎ UN Photo / Evan Schneider

 

昨年まで世界銀行グループの多数国間投資機関(MIGA)に在籍していた私が気になるのは、世界の国々、特に医療機関が充実していない国は大丈夫だろうか、という点です。ジョンズホプキンズ大学は、米国のみならず、世界各国のデータを集めていますので、みてみました。

 

コロナの、この7-8か月でのグローバル展開には驚くべきものがあります。既に、188の国と地域で感染者が確認されています。世界銀行の加盟国が189か国ですので、ほぼ世銀全加盟国を席巻したといってもよい状況です。加えて、コロナは、老若・人種・性別を差別することなく、感染を拡大しています。

 

コロナ下でのグローバル連携進捗-官も民も

コロナ以来、国際機関の在り方について、課題の指摘が相次いでいます。しかし、グローバル連携を、特に官民あげてのグローバル連携を確認できたのも、コロナを通じてでした。

 

最初に私の目についたのは、各国中央銀行と国際金融機関の連携でした。IMF国際通貨基金)、世界銀行グループなどが対策を打ち出す中、各国の中央銀行は、市場に大型の資金供給を行うことを、揃って示しました。その結果、資本市場は落ち着きをみせました。これは情報が世界各国にあっという間にいきわたった賜物だと思います。世銀IMF総会などは対面では開催できなくなりましたが、どんどんオンラインに移行し、時差の壁はあるものの、それを乗り越えて議論の場は設定され、世界的に連携してのコロナ対応は進んでいます。これは主にパブリックセクター、官のグローバル連携でした。

 

医療関係の論文は、オンラインで、しかも査読前の論文を、私でも読めるようになりました。また、それらの論文に関する、その分野の専門家の意見・感想も読むことができます。これは医療関係者が、コロナに感染した患者の治療にあたり、その知見を共有化する、という観点から大きなプラスだったと思います。加えて、感染がおこった状況も供給され、予防として何を行うべきかも共有されました。さらには、薬やワクチンの開発も、複数の国の機関が共同で行うものが目につきます。こちらは私は沢山の官民を超えた、個人も含めた連携だと感じました。

 

教育の分野でも、コロンビア大学をはじめてとして多くの大学が、オンラインへ移行しました。私のESG投資のクラスもすべてオンラインになり、学生は、ニューヨーク、サンフランシスコやフランスから参加してきました。加えて、これまで多忙だった方々が、移動の時間がなくなったということで、私の授業にゲストスピーカーで、ドイツなどからも参加いただけました。これにヒントを得て、コロンビア大学では、日本関連のウェビナーを企画し、実行しております。78日には、フィリピン・マニラの浅川アジア開発銀行総裁、米国・ワシントンの古澤IMF副専務理事とパネルディスカッションをご一緒し、伊藤隆敏教授が東京からモデレートして下さいました。500人を超える方々、それも日本と米国だけでなく、英国、インド、ブラジルなどからもご参加いただきました。遠隔な方々とオンラインでつながり議論ができるは、わかってはいましたが、いままではあまりやっていませんでした。コロナのおかげで、世界の遠いところにいる方々とつながり、意見交換できる、は大きな発見でしした。DX(デジタルトランスフォメーション)を肌で感じた次第です。これも官民連携できる分野だと考えます。

 

コロナの主戦場は発展途上国

世界中に広がったコロナですが、どこが主戦場なのでしょうか。34月は、先進国が新規患者の過半をだしていたのですが、8月15日時点の陽性確認者数でみると、77%が発展途上国で、先進国の23%のうち19%は米国なので、米国を除くと大半の新規感染者は発展途上国ででていることがわかります。

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世界銀行によると、2019年時点で、世界の人口は約77億人のうち、84%発展途上国に住んでいます。約64.4億人です。そのうち、インド、バングラデシュ等の南アジアに18億人、サハラ砂漠以南のアフリカに11億人が住んでいます。

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発展途上国との共生を進めるーピンチをチャンスに

発展途上国は、経済成長率が高いだけではなく、人口も多く、市場として有望なところも多いのです。そのため、民間による発展途上国向けの対外直接投資(FDI)が増え、2017年には官によるODA3倍を超えていました。日本企業にも、製造の一部移転だけではなく、新たな市場を求めて、発展途上国へ事業を拡大されているところが沢山あると思います。加えて、発展途上国の成長性のため、純粋な投資先として投資を進められているところも多いと理解しています。

 

ニューヨークでは、3、4月はICUや病院のベッドに加え、人工呼吸器、マスク、医療用ガウンなどの確保に大わらわでした。世銀グループMIGA時代に、発展途上国を多くまわり、かつそういう国で病院の設立を民間が投資する支援をさせていただく機会もありましが、ECMO(体外式膜型人工肺)は勿論、人工呼吸器やICUは十分にありません。こういうところが、コロナの主戦場になっている現状を大変憂慮しています。

 

最も気になるのが、コロナ罹患防止に有効で安全なワクチンができた場合の配布です。先進国中心・優先になってしまうと、医療体制が脆弱な発展途上国での犠牲者が増えてしまいます。また、コロナは国境を越えます。発展途上国での感染を抑えないとそれが先進国に流入してきます。発展途上国にも配慮した、ワクチンの配布を強く望みます。

 

コロナの長期化に伴い、日本の皆様には、大変お疲れのことと存じます。毎日の罹患防止と仕事・勉強で精一杯というのも、よくわかります。しかし、コロナ後を見据えると、日本だけで物事は完結できません。グローバル化は日本にとっては不可欠です。困ったときに助けてもらったことは多くの人は忘れません。この非常時だからこそ、ウィズコロナ時代とコロナ後に発展途上国といかに共生していくか、を考えませんか。

 

愛する祖国日本の皆様が、コロナを乗り越えられますように。加えて、コロナを契機として、グローバル化、特に発展途上国と共生においてよりよい形をうちだされますように。

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新型コロナウィルス対応の最前線にいる医療従事者に敬意を表してライトアップされたエンパイアステートビル。©︎ UN Photo / Evan Schneider

 

米国・ニューヨークにて

本田 桂子

写真でつづる中満泉 国連事務次長・軍縮担当上級代表の訪日 (2020年8月3日―11日)

国連広報センターの根本です。中満事務次長が訪日し、広島・長崎への原爆投下から75年という重要な節目で行われる式典にグテーレス国連事務総長の名代として参列しました。滞在期間中は、被爆者や若者、政府、市民団体などと意見交換を行ったり、オンライン・イベントにも参加しました。

  

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8月9日、長崎での平和祈念式典で ©︎ 長崎市

 

2017年に軍縮担当に就任して以来、毎年参列を欠かさず、被爆者の方々にも今の立場にある限り毎年出席することを約束していました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡がる中、訪日前にアメリカでPCR検査を受け、日本到着後、入国時にも再度PCR検査を受け、2週間の自主隔離をした上での出席です。並々ならぬ参列への並々ならぬ決意を感じます。国連広報センターにとっても、COVID-19の感染拡大が始まって以来、初めての国連の高官の訪日となります。

日本での自主隔離中も精力的にメディアのインタビューに応じた

 

東京

広島での平和記念式典を控えた8月3日には、東京都内で茂木敏充 外務大臣を表敬し、日本の国連への大きな協力と貢献に対して感謝を表明。同時に、安全保障環境の悪化が続く中での軍縮・軍備管理の果たす役割と日本への期待などについて意見交換を行いました。コロナに関しても、多国間での協力は不可欠、ワクチンなどで国際支援を続けることは日本として当然という茂木外務大臣の言葉を、中満事務次長は心強く受け止めていました。

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©︎ UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

 

また、小泉環境大臣への表敬訪問では、現在の厳しい安全保障環境における軍縮の役割、軍縮における日本への期待や、今後の多国間主義なども含めて幅広い課題について意見を交わしました。

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©︎ UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

 

8月4日午前には、最後に、世界保健機関(WHO)のUHC親善大使を務める武見敬三参議院議員を表敬し、新型コロナ感染症(COVID-19)対策へのグローバルな政策協調と国際協力の必要性について意見交換しました。

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©︎ UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

 

尾身朝子外務大臣政務官との昼食会でのディスカッションは、軍縮分野を越えた幅広い議題に及びました。

 

午後には山口那津男代表はじめ公明党の議員の方々と、現在の安全保障環境や軍縮をめぐる課題について、核兵器禁止条約に日本がどう向き合うべきかも含めて意見交換。

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©︎ UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

 

その日のうちに広島に移動し、5日からは分刻みのスケジュールが始まりました。

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広島にて ©︎ UN Photo/Kanako Kimura

 

広島 

広島・長崎への原爆投下から75年の重要な節目において、国連として核兵器のない世界の実現に向けた決意を発信するとともに、被爆者をはじめとする多くの市民の方々と語らいました。

 

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松井一實広島市長を表敬(8月5日) ©︎ UN Photo/Kanako Kimura

 

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市民社会が企画した超党派の国会議員らとの討論会。来年へ延期された核不拡散条約(NPT)再検討会議への対応、核兵器禁止条約の署名・批准に向けた条件、核兵器をめぐる東アジアの地域情勢、被爆体験の継承のあり方などを主たる議題に、核兵器廃絶へ日本はいま何をすべきか、その政策について討論(8月5日) ©︎ 核兵器廃絶日本NGO連絡会

 

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中満事務次長からは「安全保障環境は悪化の一途を辿っている、そして質的に非常に複雑になり変化をしている」と指摘した上で、①安全保障は様々なツールからなり、軍縮はそのツールの1つであるという認識が必要であること、②対話と外交を通じた安全保障への復帰と日本の役割、③延期されたNPT再検討会議の成功への協力、④核兵器禁止条約との関係は日本が決めることだが、ドアを閉めることはせず問題点を完全に共有しているという姿勢を示して欲しい、という4点について強調。議論の録画はこちら。 ©︎ 核兵器廃絶日本NGO連絡会

 

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広島市の平和記念式典にて、グテーレス国連事務総長の名代として献花(8月6日) ©︎ 広島市

 

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広島平和記念式典では、グテーレス国連事務総長のビデオメッセージが流れた。「核兵器の危険を完全に排除する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶すること」と強調。メッセージ全文はこちら。  ©︎ 広島市

 

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国際平和のための対話イベント「UN75 in Hiroshima」(広島県主催)。湯崎英彦広島県知事とともに、公募で選ばれた若者を含め様々な世代・バックグラウンドを持つ参加者とともに、真剣勝負の対話。中満事務次長も、若者がリードするデジタル・テクノロジーを活用した平和プロジェクトといった若者だからこその取り組みなどに大いに勇気づけられた。当日の模様を収録した動画はこちら。(8月6日)  ©︎ UN Photo/Kanako Kimura

 

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国連ユニタール広島事務所と(一社)国連ユニタール協会主催「原爆投下と国連創設から75年―コロナ禍の今、核なき世界をどう実現していくのか」にも登壇。録画は、日本語英語(8月6日) © UNITAR

 

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広島県核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)主催「2020年度 核兵器と安全保障を学ぶ広島-ICANアカデミー 」公開ベント。湯崎広島県知事とともにオンラインで登壇し、核軍縮の停滞をどう打破するのかを議論。 概要とアーカイブ映像はこちら。(8月6日) ©︎ 広島県(Hiroshima Prefecture)広島-ICANアカデミー実行委員会事務局(The Executive Committee of Hiroshima-ICAN Academy for Nuclear Weapons and Global Security)

 

長崎

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田上富久長崎市長を表敬。批准した国が表敬の時点で43、発効のために必要な批准した国の数が残り7か国となった核兵器禁止条約についても意見交換(8月8日) ©︎ UN Photo/Kanako Kimura

 

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長崎平和祈念式典にて、グテーレス国連事務総長のメッセージを代読。「私たちは、核軍縮のための共同の努力を再開すべく、第10回核兵器不拡散条約運用検討会議を活用しなければなりません。私たちは、核実験に反対する規範を擁護しなければなりません。そして、国際的な核軍縮体制を保持し、強化しなければなりません。私は、新たにその重要な一部となる核兵器禁止条約の発効を心待ちにしております」メッセージ全文はこちら。 

 

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原爆死没者追悼平和祈念館にて、「核兵器廃絶1000万人署名」運動で集められた署名を受け取る(8月9日) ©︎ UN Photo/Kanako Kimura

 

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赤十字国際委員会主催の被爆75年オンラインイベント「核兵器が存在することは人類にとって何を意味するのか~コロナ危機の最中に考える」では、長崎を拠点にジュネーブ、ソウル、ワシントンDC、東京とを結んで議論。潘基文国連事務総長やベアトリス・フィンICAN事務局長も。(8月9日)

 

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地元の大学生らと語り合う機会も ©︎ ICRC

 

東京

東京に戻り、11日午前には日本記者クラブで記者会見。

 

午後には赤坂御所にて天皇・皇后両陛下とのご接見があり、中満事務次長からは、広島・長崎の式典への参列を踏まえ、核軍縮の現状や被爆体験の継承などについて説明しました。両陛下から愛子様の中学卒業文集「世界の平和を願って」が中満事務次長に手渡されました。

 

天皇・皇后両陛下へのご接見が今回の訪日の締めくくりとなりました。日本にとって戦後75年、国連にとって創設75年の節目。国連総会の初めての決議が核軍縮に関するものだったということにも、核軍縮が国連にとって非常に重い課題であることが表れています。来年予定されているNPT再検討会議を成功に導くためにも、中満事務次長の多忙な日々は続きます。

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全ての日程を終えて、記念にホテルのロビーでパチリ。左はこの間、中満事務次長をアシストした木村華奈子さん。これから国連軍縮部でのインターンシップがオンラインで始まります。 ©︎ UN Photo/Kanako Kimura

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(16) 小林いずみさん

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第16回は、小林いずみさん(ANAホールディングス株式会社社外取締役三井物産株式会社社外取締役、株式会社みずほフィナンシャルグループ社外取締役、元 多数国間投資機関(MIGA)長官)からの寄稿です。

 

新しい価値社会とその実現に向かって

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 ANAホールディングス株式会社、三井物産株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループ社外取締役、元 多数国間投資機関(MIGA)長官を勤める。それ以前は、大学卒業後化学メーカーに勤務した後、1985年にメリルリンチグループに転職し主にデリバティブ市場業務に従事。2001年、メリルリンチ日本証券株式会社代表取締役社長に就任。2008年11月から2013年6月まで、世界銀行グループ、多数国間投資機関(MIGA)の長官。2013年以降国内外法人の社外取締役、アドバイザー等を主に活動。2002年から2008年まで大阪証券取引所社外取締役、2007年から2009年、2015年から2019年4月公益財団法人経済同友会副代表幹事。 ©︎ Izumi Kobayashi


日本の私たちの生活がCOVID-19によって変わり始めた今年3月初め、まだダウンジャケットを着ていました。だんだんと仕事の会議がリモートになり、友人との交流もSkypeやzoom, スポーツジムも閉鎖され日々の運動は毎日のウォーキングと室内でのトレーングという生活になりました。緊急事態宣言が解除された後、対面の会議がいくらか復活してきましたが、地下鉄の昇り降り、ビルからビルへの移動の運動量には到底及ばず時間が許せば歩いていくようにしています。江戸時代の人々はこうしてどこでも歩いて(私は時には自転車も使いますが)行っていたのだと自分に言いきかせると徒歩の活動範囲が急拡大し、これまで気づかなかった地形の様子、街の成り立ちや知らなかった歴史建造物や街並みを発見します。元々は移動に伴う感染の予防と運動不足解消が目的でしたが、結果遥かに大きな気づきを得ることになりました。

 

3月半ばに早咲きの桜が咲き、薄手のジャケットに着替えた頃に桜が満開になると4月の一週目には八重桜と共に早くもツツジが咲き始めました。

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不忍池の関山 ©︎ Izumi Kobayashi

 

上着が要らなくなった頃、梅が実をつけ始め銀杏の枝から小さな葉が顔をだし、ハナミズキ、紫陽花と自然は我々が感染症に恐れ慄き家にこもっていることなど気にせずいつも通り流れていきます。そして今は熱中症を心配しながらマスクをつけて歩いています。6月には庭の小さな山法師の木にヒヨドリが巣を作り十日間雛の成長を毎日楽しみに観察することができました。4ヶ月半が経過し気づいたことは、自然の力の大きさと、今都会に住む私たちが感染症の拡大によって感じているストレスを、長い間人間は自然に与えていたのだということです。人間が活動を制限すれば、或いは活動の仕方を変えれば自然へのストレスは減少し、結果的には人間も自然の一部としてその豊かさを享受できるはずなのです。

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初夏に咲き誇っていた紫陽花 ©︎ Izumi Kobayashi

 

勿論環境問題はこの状況が起こる前からグローバルに大きな問題とされていました。資源を海外からの輸入に頼っている日本の企業ですら二酸化炭素排出や化石燃料の開発に関し踏み込んだ対応を表明し始めています。今回の感染症の発生も人間の環境破壊の結果であるという意見もあります。その因果関係については更なる検証が必要と思いますが、少なくとも我々が活動を制御することによって失われた地球の自然が回復するということは全ての人に明確に示される結果となりました。そして大勢の人たちがこれまでの生活を見直す必要性に気付いています。


人間が生きていくためには経済活動を止めることはできません。しかし「経済の継続=これまでの経済活動」ではないはずです。経済界が模索を始めたポスト・コロナのニュー・ノーマルの柱はデジタルです。社会のデジタル化によりこれまでできなかったことが可能になります。しかしいくらデジタル化が進んでも私達の考え方、行動の仕方が変わらなければ本当の変化は起こりません。デジタルは行動変化を可能にする道具であり、我々が社会のあり方を本質的に問い直してこその価値を活かすことができます。ニュー・ノーマルとは単にこれまでの生活や仕事の仕方をデジタルを活用したリモートに置き換えることではなく、経済の回し方、個々の人々の生活のあり方の優先順位を問い直し、自然と共生しながらバランスをとっていく道を見つけることであると考えます。一人一人が自分の生活、これまで現実的ではないと考えて排除してきた生活スタイルや働き方をタブーとせず実現していくための扉を開くことです。「できない」はなく、「どうやって実現するか」を考えるのみです。そして経済活動を支える企業にも同じことが求められます。

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新型コロナウイルス感染症対策として、フィジカル・ディスタンスを保つために芝生に円が描かれたニューヨークの公園。ニュー・ノーマルはもう始まっている。 ©︎ UN News/Daniel Dickinson

 

世の中の価値観が変わると言われている今、企業が持続的な価値創造を実現するためには従来の「できない」を捨てることが必要です。都会の企業に勤めていたら地方には住めない、対面でなければ相手を理解できない・チームワークは育たない、生活の利便性と地球環境の改善は相反する等々。これまでの人類の発展は概ね生活の利便性を向上させるために優先順位をつけて技術を発展させる一方で様々な物を諦め、排除してきました。そしてこのアプローチは一定のレベルの利便性の実現という意味では成功しました。例えば我々の生産や活動には常に「移動」が伴ってきました。より速く移動することを考え様々な交通網を発展し、私たちは移動に関わる時間をどんどん短縮しました。しかし「移動」不要になったら、あるいは30%、50%減した状態が通常となったら何を変えなければならないのか。これは交通機能の後退を意味するのではありません。外に出ること、他の地域に移動することの主たる目的が変わるのであって、交通機関の重要性が変わるわけではないのです。

 

ただし利用の仕方と目的が変われば、これまでの価値観と生活様式を前提としたビジネスモデルでは持続できません。ニュー・ノーマルへの思考は、これまでの価値観の延長で行動の変化を捉えるのではなく、新たに生まれてくる異なる価値観によるニーズに応えるサービスや機能を創造・提供することだと考えます。これまで無理と思っていたことを無理と思わず、どうやったら実現できるか、という姿勢でアプローチを続けなければ解を得ることはできないでしょう。


企業は投資家との対話を求められています。企業の行動変革を促す最も大きな原動力を持つのが投資家です。私が関与している金融機関では、石炭火力発電所建設プロジェクトを融資対象から外すこと、関与する事業の二酸化炭素排出レベル開示の深掘りなど環境に関わる開示を高度化しましたが、こうした変化は明らかにグローバルな投資家を意識した取り組みです。投資家は今や短期の利益ではなく中長期の価値向上を求めていると言われていますが、投資家全般を見渡せば現実はまだまだ道半ばです。

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新型コロナウイルス感染症の影響により、世界中で株価が低下した。投資家は、グローバルなビジョンや中長期的な視点がより求められている。 ©︎ UN Photo/Mark Garten

 

今回COVID-19という人間にとっての禍が否応なしに多くの人が持続的な地球のあり方を考えるスイッチを入れました。人々が求める社会を作り、機能し、持続的に発展する為のサービスや技術、働き方を提供する組織とビジネスモデルに大転換できなければ企業も地球もそして人間も生き残っていくことはできないでしょう。私たちは今地球規模での感染症との闘いの真っ只中です。油断は許されません。が、長い目で見た時この禍を人類にとって喪失の時代とするかより良い未来のための出来事とするかは我々の価値観の転換と行動変容にかかっています。「以前の生活を取り戻したい」という気持ちはあります。

 

しかし「新しい形の充足感と幸福」への期待もあります。国家にとっては目の前に起こっている問題を解決することが最優先です。残念ながら感染症の問題は国レベルで解決することはできません。国を超えた地球レベルの転換には企業活動や投資のあり方を一から考え直し前に進めることが有効です。既に多くの企業がESG活動に関する自社の取り組みを見直し開示も進んでいます。実際200社をこえる日本の企業や機関がTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)への賛同を表明しており、日本は今や世界最大のTCFDサポーターです。しかし実際のビジネスとなると、資源関連ビジネスをコアとするビジネスモデルから脱却しESGを柱とする新規ビジネスモデルの確立に取り組む例もありますが、まだまだ限定的な取り組みで本当の意味での事業化はこれからです。そして多くの企業ではESG/SDGsは本来の事業戦略とは別枠の取り組みとして位置付けており、先進的な企業でさえ気候変動関連の一部など対象範囲は限られています。ESGやSDGsに関わる取り組みは事業価値の向上と一体として考えなければなりません。人々の行動変容と価値観の転換が起こる時にこそ新しいビジネスのチャンスが訪れます。COVID-19との闘いの出口はまだまだ見えてきません。

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(UNFCCCウェブサイトより)

 

しかし私たちにはこの禍を乗り越え、自然と共生していく知恵があるはずです。もちろん知恵は政治や学術、行政等々あちらこちらで出されることでしょう。しかし私は民間企業の力はそれを凌駕する広がりを実現できると考えています。今こそ企業と投資家は長期的な目線で新しい社会の姿を議論し、人々の新しい生活を支える事業を発展されることを望んでいます。

 

日本・東京にて

小林 いずみ

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(15) 水鳥真美さん

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第15回は、水鳥真美さん(国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連防災機関長)からの寄稿です。 

 

気候緊急事態下におけるコロナ禍からの復興

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2018年3月、国連防災機関(UNDRR)のトップとして、国連事務総長特別代表(防災担当)に就任。それ以前は、外務省で大臣官房会計課長、在英国日本大使館公使・広報文化センター所長、総合外交政策局安全保障政策課長、総合外交政策局国連政策課長、北米局日米地位協定室長などの要職を歴任後、2011年から英国イースト・アングリア大学付属セインズベリー日本藝術研究所統括役所長を務めた。一橋大学法学部卒、スペイン外交官学校で国際関係ディプロマ取得。 ©︎ UNDRR

         

コロナ禍により世界は、前例のない厳しい状況に直面しています。日本では緊急事態宣言が解除され、私が住むスイス・ジュネーヴでも生活は徐々に新常態に移行しようとしていますが、収束に至る道筋は平坦ではありません。世界全体を見ると7月下旬に感染者数は1,500万人、死亡者数は60万人を越えました。特に米州、南アジアでは新型コロナウィルスは依然として猛威を振るっており、アフリカ大陸では、第一波のピークは来年になるとも言われています。世界はまだまだコロナ禍第一波の渦中です。そして、パンデミックの恐ろしさは、世界のどこかに克服できていない地域が存在する限り、誰にも、どこでも、安全・安心は確保されないことです。


そういう厳しい状況の中ではありますが、我々はもう一つの緊急事態下にあることを忘れてはなりません。それは、「気候緊急事態(climate emergency)」です。コロナ禍同様これも世界的な現象であり、過去20年間に発生した自然災害の9割は気候変動に関連しており、その数は倍増しています。日本では太古の昔からどちらかと言えば、地震津波、火山噴火といった、いわゆる、地質災害が恐れられて来ました。その日本でも近年、毎年のように台風、豪雨、洪水の頻度と強度が増しています。今年もまた、九州に始まり各地で記録的な豪雨が続き、多くの尊い人命が失われ、甚大な経済的損失が発生しています。亡くなられた方々、そのご家族の方々、そして住居、生活の糧を失われた方々に心よりお見舞いを申し上げます。

熊本、鹿児島、宮崎に甚大な被害を与えた洪水により、愛する人や家を失ったすべての人たちに想いを寄せています。避難所でのCOVID-19感染防止の取り組みとともに、懸命な救助活動が行われています。


災害ほど人々の生活に大きな爪痕を残し発展を阻害する現象はありません。その災害の大半が気候変動に関連している以上、気候変動からのリスクを軽減できず、そこからの被害発生を食い止めなければ、2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現は不可能です。例えば、目標1:貧困の撲滅について見れば、毎年世界中で2,600万人が災害により貧困層に陥っています。また、目標8:経済成長に関しては、災害による全世界の経済的損失額は毎年5,200億ドルに及びます。いずれも世界銀行の統計です。また、気候関連災害による全世界の経済的損失額は上昇傾向にあり、2017年には3,000億ドル以上となりました。

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1980年から2019年までの気候関連災害の発生数とそれによる経済損失を表したグラフ ©︎ Swiss Re and UNDRR


このような状況に鑑み、2015年に日本を含む国連加盟国が採択した、防災・災害リスク軽減策としての「仙台防災枠組」、気候変動対応策である「パリ協定」、そして「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を三位一体のものとして達成しなければならない、そういう認識が国際場裡では確固たる方向性となっています。そして、日本でもこの機運が盛り上がっています。6月末、私が長を務める国連防災機関(UN Office for Disaster Risk Reduction, UNDRR)は、環境省内閣府と気候変動に強靭な世界の実現を目指して公開シンポジウムを共催しました。


このシンポジウムを通じて発信されたメッセージは、「気候変動適応策と防災・災害リスク削減策という二つの政策の統合性、シナジーを確保することが不可欠」ということです。これは具体的に、何を意味するのでしょうか。気候変動対策には、大きく分けて2つあります。一つは、気候変動の元凶である温室効果ガスを削減するための緩和策です。緩和策無くしては、人類は気候変動によってもたらされる危機的状況、climate emergencyを乗り越えることはできず、コロナ禍が霞んでしまうほどの大きな社会的、経済的困難に直面することは必至です。しかしながら、緩和策の進捗が未だ危機を回避するに十分ではない中で、気候変動によって受ける影響を少しでも和らげるための適応策への注目度も近年増しています。


昨年9月にグテーレス国連事務総長が招集した気候行動サミットにおいても、社会の強靭性を増すための適応策推進の必要性が強調され、世界銀行、緑の気候基金開発途上国の適応策支援を増やしています。

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2019年に行われた気候行動サミットのオープニングでスピーチするグテーレス事務総長 ©︎ UN Photo


気候変動適応策と災害リスク軽減策の間には、多くの共通した政策目標があります。例えば、洪水対策としての堤防強化、宅地のかさ上げ措置は、両政策の目的を同時に達成する術です。にもかかわらず、多くの国では、気候変動適応策は環境担当省、災害リスク軽減策は防災担当省が担当し、政策の統合性確保、予算の効率的使用が実現できないという、いわゆる、縦割り行政の弊害が見られます。


一方で統合性の実現に成功している例もあります。興味深いのは、南大洋州島嶼国の事例です。この地域の国々はすべからくハリケーン、洪水といった気候変動関連の災害の脅威に晒されています。ツバル、キリバスマーシャル諸島は、海面上昇によって国全体が海中に没してしまうという存亡の危機にすら晒されています。一方でいずれの国も人的、財政的資源が乏しく、縦割り行政を許す余裕もない中、これを逆手にとって気候変動対応策と災害リスク軽減策を一つの省庁に担わせ、持続可能な開発目標達成につなげるという三位一体を政府機構、政策実現のあり方に反映させています。Joint National Action Plan for Climate Change and Disaster Risk Management、通称JNAPSと呼ばれるこの方針は、2009年にトンガで初めて策定され、2017年以降はPacific Resilience Partnershipという域内全体の方針になっています。


小泉環境大臣、武田防災担当大臣が国連防災機関とともに、気候変動と防災のシナジーに関するシンポジウムを開催することを決められたことからは、省庁の壁を乗り越えてこの二つの問題、更には持続可能な開発目標の達成に一致して取り組もうという両大臣の強い決意が伺われ、国連としても心強い限りです。

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新型コロナウイルス感染症の影響で筆者(中央画面)はオンラインで公開シンポジウムに登壇し、小泉環境大臣(左)と武田防災担当大臣(右)ととも熱い議論を交わした ©︎ UNDRR


気候変動は、このまま対策が進まなければ世界に未曾有の影響を与える緊急事態ですが、コロナ禍ほどの切迫感を持って対応できていないのが現状です。パンデミックの即時の影響と比較して、気候変動の影響はじわじわと時間をかけて現れて来るためでしょうか。しかしながら今年もまた日本が見舞われた大規模豪雨災害を見れば、気候緊急事態は待った無しの危機であると言えるのではないでしょうか。


防災、災害リスク軽減の分野における日本の知名度は世界的に確立しています。数多くの大規模災害に見舞われてきた日本の強靭性強化分野における取り組みは世界的に評価されています。建築基準制度の整備、強靭なインフラ建設といったハード面のみならず、毎年の防災白書の発行、包括的防災戦略の策定、そして防災教育の普及、啓発活動の充実を進めていることはつとに知られています。また、日本は防災分野に特化した国際協力に力を入れている数少ない援助国の一つです。その日本において、近年気候変動関連の災害で人命が失われ、多大な経済的損失が発生していることは、驚きをもって受け止められています。日本ですら対応できないほど気象災害の猛威が加速度的に強まっていることについて大きな懸念が持たれています。そして、日本が今後、どのようにして気象関連災害への防災対策を強化して行くのかを世界は注目しています。


防災分野における日本の世界的知名度に限らず、環境分野においても日本は京都議定書の策定を可能とした国です。また、世界のどこに出張しても日本ほど多くの方が官民を問わずSDGsのバッジを胸につけている国はありません。コロナ禍が猛威を振るい、気候変動が世界中の人々の生活を脅かしているにもかかわらず、一致してこの危機を乗り切ろうという連帯が欠如しているのが現在の国際社会の現実です。持続可能な開発目標の達成には大きな赤信号がともっています。


日本を含む全ての国にとり、コロナ禍からの復興、特に経済、社会問題の克服が待った無しの課題であることは疑う余地もありません。一方で、コロナ禍が明らかにしたことは、世界中の国々の繁栄、その繁栄を阻害するリスクは、いずれもつながっているということです。


我々の生活を脅かすあまたのリスクがつながっているという点につき、再びコロナ禍に視点を戻して考えて見ましょう。新型コロナウィルスは何らかの野生動物が感染源であると考えられています。背景として、世界の人口が増え続けている中で、野生動物の搾取、森林破壊、生態系の破壊が進むことにより、人と野生界が接触する機会が増えていることが指摘されています。国連環境計画のアンダーセン事務局長は、このままでは「今後数年間で動物からヒトへ移る感染症は絶え間なく発生することになるのは、科学的に明らかだ」と警告を発しています。そして森林破壊、そして自然を破壊した上で無秩序、無制限に拡大する人間の居住地域は、多くの途上国において、洪水被害の増大、深刻化にもつながっています。


災害について語る時、「自然災害」という言葉がよく使われます。しかしながら近年我々を襲っている災害の頻度、強度は「自然」に増しているわけではなく、人間の営みが背景となっています。コロナ禍につぐ第2、第3の感染症の世界的発生をくい止めるためには、我々の営み、経済活動のあり方を考え直すことが不可欠です。気候緊急事態も産業革命以来の人類の活動が発展と繁栄をもたらしてきた一方で、もはや地球の正常な営み、持続可能な開発が達成できない状況に我々を追い込んでいます。人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える新しい地質時代、「アントロポセン(人新世)」に我々は突入してしまったのです。

新型コロナウイルス感染症も災害も、予防が一番の解決策だ ©︎ UNDRR 


コロナ禍からの復興がコロナ禍以前の状況に戻ってはならず、より強靭、よりグリーン、かつ公平な新常態への復興とならなければいけないのは、こういう危機的な状況を背景としているからです。


戦後、一貫してグローバル・アジェンダの実現を引っ張ってきた日本が気候変動、災害リスク軽減、生態系の保存、そして持続可能な開発達成において、国際社会で指導力を発揮することを世界は再び待ち望んでいます。


スイス・ジュネーブにて
水鳥 真美

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(14) 秋山信将さん(後編)

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。読者の皆さまに今後の日本と世界を考えてもらう一助となるよう、執筆者には組織を代表するのではなく個人の資格で、時には建設的な批判も含めて、寄稿いただいています。第14回は、秋山信将さん(一橋大学大学院法学研究科/国際・公共政策大学院教授)の寄稿の後編として、国際機関の体制や機能、また他ステークホルダーとの連携の有用性について考えます。

※文中の写真はいずれもイメージで、文章と直接関係はありません。

 

コロナ危機は新しい、実効的な多国間主義を考える契機である(後編)

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一橋大学大学院法学研究科/国際・公共政策大学院教授。2018年より同大学院院長を務める。それ以前は、2016年から2018年まで外務省に出向し、在ウィーン国際機関日本代表部公使参事官として、核セキュリティ、原子力安全を中心に国際原子力機関IAEA)での原子力・不拡散外交に携わる。また、2010年、2015年の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議には日本政府代表団アドバイザーとして参加。最近では、外務省の「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」メンバーを務める。一橋大学博士(法学)© ︎Nobumasa Akiyama

 

新たな多国間主義のあり方を目指して 

今後の多国間主義を通じた国際協力を考えるにあたって二つのカギとなる考え方を示したい。一つは、グローバル・ガバナンスの「重層化」である。そしてもう一つが、「マルチ・ステークホルダー」化である。いずれも国際機関をめぐる議論においては目新しい概念ではない。しかし、今回のパンデミックの中でのマルチラテラリズムの危機を目の当たりにし、改めてガバナンス改革の方向性としてこの二つの重要性を確認したい*1

 

今回の感染症パンデミックのようなグローバルな規模の危機への対処の実効性を高めるためには、対策のループホール(抜け穴)を作らないという点で国際的な協調が不可欠である。例えば、今回の新型コロナは、感染力が比較的強いために、時期は相前後するものの世界各地に蔓延しており、また免疫のメカニズムも明らかになっていない。一方で人の往来を完全に遮断し続けることは不可能である以上、世界規模での対応が必要であり、そのためには、グローバルな対応における「ウィーク・リンク(弱い鎖の輪:一つの輪が弱ければ鎖は役に立たないことの喩え)」を作らないことが重要である。その国際協調を実現するプラットフォームは、国際機関、今回の場合には世界保健機関(WHO)が中心となるが、国際機関のキャパシティやマンデートを考えると、国際協調をその枠内で追求するだけでは不十分である。

 

今回、WHOに対して、その危機対処ぶりに関して各国から多くの不満が寄せられていた。中国との間で、とりわけ初期段階において情報共有が円滑にできていなかったのではないか、またWHOから提供された新型コロナウィルスの特性や対処方法に関する情報が不適切であったのではないか、といった不満である。こうした不満が出るのは、新型コロナが新しい感染症であったことや、主権国家の集合体である国際機関の宿命として効果的に業務を遂行するためには、当事国たる加盟国と協調的な姿勢を取る必要があったということで理解できるが、そのことは、WHOの統治体制の見直しやエンパワーメントが不要ということを意味しない。

 

しかし、主権国家の集合体としての国際機関の側面を考えると、国際機関そのものの能力を強化するという国際協調体制改善の方向性の限界も認識したうえで、国際機関の強化と並行し、国際協調の重層化とネットワーク化を通じた、グローバル・ガバナンスの能力強化の方策を志向することも必要である。具体的には、有志国家間での協力体制の強化や、民間レベルにある専門知識や情報ネットワークの活用のために、エピステミック・コミュニティ(Epistemic community: 知識共同体、専門知を持つ人々の集団)/市民社会といった多様なステークホルダーのコミットメントを高め、国際機関と連携を取りつつ、国際社会全体としての能力向上を図るという方向性である*2。新型コロナの危機における国際社会の対応ぶりは、こうした形のガバナンスの改善が必要かつ有効であることを示している。

 

新型コロナは未知の感染症で、感染力や症状などが解明されておらず、また、効果的な治療法はいまだ確立されていない。そのような中で、政府の持つ情報や能力だけでは対応が追い付かず、各国政府の対策の策定にあたって感染症の専門家の役割に注目が集まった。さらに、感染者数や感染のパターン、あるいは症例などのデータが出始めると、政府や政府と密接に連携している専門家だけでなく、大学や研究所などに所属する研究者が、SNSなどを通じて情報や知見を交換しながら、様々な知見が蓄積されていくという現象がみられた。しかも、このような情報の交換と知の蓄積は、医学界、疫学の専門家という狭いコミュニティに留まらず、数理統計学や心理学、人工知能(AI)によるビッグデータ解析など多様な領域の専門家を巻き込む形で広がっていった。

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新型コロナウイルスのワクチン開発が世界中で進められている ©︎ UN Photo/Loey Felipe

 

このような専門家のコミュニティ(エピステミック・コミュニティ)は、政府の対策に対する「ピア・レビューワー(peer reviewer: 一種の査読者)」の役割を果たし、またある時には政府外の専門家の知見や情報が、政府内部の政策形成過程の中に取り入れられ、手探りの中で進められていた感染症封じ込め対策の改善に貢献したと言っても良いであろう。

 

また、言うまでもなく、感染症の症例に真っ先に触れるのは医師であり、そのほかの医療従事者である。新型コロナ危機において、中国政府からの情報提供のあり方に関する不満や不信感が国際社会に充満したが、従来の政府の担当窓口を通じたWHOへのコミュニケーション(通報や情報提供)が国家の利害関係の中で適切に機能しえないのであれば、医師や研究者といった非政府や市民社会の主要アクターが直接参加し、情報を提供・共有できるようなネットワークを構築することも一つの方策であろう。

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アフガニスタンイスラムカラで、新型コロナウイルスによる脅威に最前線で対応する医療従事者たち ©︎ UNOCHA

 

このようなエピステミック・コミュニティのネットワークを通じた早期通報、情報共有、そして集まってくる情報の科学的検証をネットワーク上の集合知にも一部頼りながら、公的なチャネルで活動するWHOを補完し、関係国やWHOに対し、蓄積されたデータによるエビデンスをもとに代替案を提示しつつ対応を促したりすることを可能にする。エピステミック・コミュニティのチャネルに情報が流れ、様々な、しかし専門的な知識に裏打ちされた情報や知見が社会に共有されることにより、国際機関や各国は、ある種のピア・プレッシャーも受けることとなり、国際機関や各国政府は、自らの危機への対応力(responsiveness)、情報公開等における透明性(transparency)や政策の妥当性や適切性に関するアカウンタビリティ(accountability)を高めていかざるを得なくなり、結果として国際社会全体での危機対応能力が向上することが期待できる。

 

その際に留意すべきは、このようなエピステミック・コミュニティのメンバーで、ネットワークを通じ早期通報を行った者が、国家の利益を損ねたという理由から当該国政府により罰せられるというような可能性もあるという点である。例えば感染症の情報というのは、国家安全保障に直結すると考えられており、そのような情報を漏洩することを禁じる国もある。また、政府の威信や国民からの信頼を維持するという観点から、政策の失敗ともとられかねない感染症の流行に関する情報の提供を躊躇する政府も出てくるであろう。しかし、国境を越えて影響が広がるパンデミック危機においては、一国の国益よりも国際公益を優先させるべきである。さらに言えば、国内においても、ある地域での感染症の流行を隠ぺいすることにより、国内の他の地域での感染症の蔓延を引き起こすリスクもある。そこで、そのような「公益通報」行為を行った専門家(whistleblower: ホイッスルブローワー)の権利保護の方法についても考える必要性があるだろう。その意味では、安全と人権の衡平性を確保する観点からも人権や民主主義の専門家の関与も欠かせない。

 

他方で、災害時に見られる社会的な現象に「インフォデミック(infodemic)」がある。ソーシャルメディア上などで真偽や出所不明な情報、あるいは「フェイクニュース」と呼ばれるような虚偽の情報が流通し、これらの情報が人々をパニックに陥れることによって社会的な混乱が生じるような状況が、今回の新型コロナのパンデミックでも、世界各地で生じていた。そのためには、誤った情報が否定され、その代わりにより確度の高い、出所の明らかな情報が流通されるべきであるが、エピステミック・コミュニティのネットワークを通じて発信される情報に、そうした「フェイクニュース・バスターズ」的な役割も期待しても良いのではないだろうか。

 

このようなネットワークはまた、医療機器や防護服など緊急時対応のための資機材の備蓄や生産拠点の所在に関する情報をあらかじめネットワークに登録しておき、緊急時には、感染症の流行状況やトレンドを適切に把握・予想して、資機材を相互に融通するためのプラットフォームとして活用しえるかどうか、検討しても良いであろう。新型コロナ対応で世界的に医療資機材が不足し、奪い合いになったことは記憶に新しいが、もしこのような危機対応時における資機材の相互融通が効率よく行えるようなネットワークが構築されれば、各国ごとに備蓄や生産体制を囲い込むよりも効率的かつ、おそらく迅速に物資の供給が可能になるであろう。

 

おわりに

新型コロナ危機によって、国際機関を通じた多国間協力への悲観論が高まっている。しかし、国際社会は、グローバルな取り組みを必要とする問題が深刻化している(そして、そうしたグローバルなイシューを単独でリーダーシップをとって解決できるような超大国が存在しない)今こそ多国間主義を必要としている。そこには、主権国家の集まりとしての国際機関が抱える制度的制約という構造的な問題が立ちはだかるが、それを悲観もせず、また理想論に固執することもなく、どう乗り越えるかを、従来の思考の枠組みを超えて柔軟かつ複眼的に考えていくことが求められよう。

 

本稿では、一つのアイディアとして、多国間主義の実効性を確保するためには、国際機関自体のガバナンスを改革していくことも重要であるが、その国際機関が政策領域のグローバルなガバナンスを、エピステミック・コミュニティ/市民社会のネットワーク化を通じた重層性を確保していく形で強化・改善していく方向性について述べた。このような重層性は、開発支援や、国際保健の分野でも公衆衛生など、すでに様々な政策領域においてみられる現象であるが、今後、政策の専門的技能や情報を国際機関などの公的セクターが独占することは一層困難になるであろうし、それを考えると、いかに民間(市民社会)という別のレイヤー(層)の国際協調ネットワークを構築し、公的レイヤーの国際協力との間での相互補完性を高めていくことは自然の流れのように思える。加えて、このような国際協調の重層化は、多様性と民主的価値を重視するリベラルな国際秩序における規範との親和性も高い。その観点からは、こうした多国間主義の重層化(ネットワークの構築)を、民主主義の有志国が支援に動いても良いのではないだろうか。

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UNDPの支援のもと、バングラデシュのコミュニティーワーカー達は、衛生用品の配布と新型コロナウイルス予防の啓蒙活動を行なっている ©︎ UNDP Bangladesh/Fahad Kaizer

 

さらに言えば、ともすれば、米国と中国という、対立を激化させている超大国の間にあって、パワーポリティクス的パラダイムで国際政治を見がちな日本ではあるが、同時に、日本ほどあらゆる面で国際社会との繋がりがなければ成り立たない国家はない。そのような国にとっては、より強靭且つしなやかなグローバル・ガバナンス、すなわち重層的なガバナンスは、良好な国際環境を構築・維持するうえで大きなメリットでもあるわけで、日本がこのようなネットワークづくりをスポンサーするくらいのビジョンがあっても良い。なお、これは、現下のパンデミック危機の中で浮上した別の重要なテーマである、データのフェアで公正な取り扱いに係るルールや規範作りという、ポストコロナの社会経済生活あるいは国家と個人の関係を規定しかねない大きな課題にも連なるテーマであると言える。

 

本稿で述べたガバナンスの重層化は、多国間協調のあり方をよりよくしていくための、一つのアイディアに過ぎない。しかし、今後、より良い多国間協調、あるいはグローバル・ガバナンスの制度設計と実現について、多くの人々がアイディアを出し合い、相互にレビューすることは、実はグローバル・ガバナンスを改善するうえで、多くの人たちのコミットメントを促すことにもつながり、それ自体にも重要な意義があると考える。

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Forum of Small States (FOSS) は、6月に国連憲章署名75周年記念イベントを開催し、多国間主義の重要性について議論した ©︎ UN Photo

 

日本・東京にて

秋山 信将

*1:新型コロナウィルスに対するWHOの対応とそこから導かれるガバナンス改革の在り方についての詳細は、拙稿「新型コロナウィルス対応から見る世界保健機関(WHO)の危機対応体制の課題」、日本国際問題研究所レポート、2020年5月17日を参照。

*2:エピステミック・コミュニティについては、International Organization, Vol. 46. No. 1. (Winter 1992)の特集号を参照。