国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (28)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第28回は、国連開発計画(UNDP)カメルーン事務所に勤務する金野裕子さんです。

 

第28回 国連開発計画(UNDP)

金野裕子さん


カメルーンで日本との連携を強め、平和で安定した社会を目指して~

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極北州での稲作研修の参加者と。ドレスは衣料ビジネスを開始した若者から購入した現地スタイルのもの(前例、右から3番目が筆者)©UNDPカメルーン

民間企業(物流)から大学院(開発経済)を経て、国際協力業界へ。日本の組織(日本大使館、JICA)で援助協調、第三国研修等の二国間協力を経験した後、UN Womenで人道支援に携わり、2016年より現職。

 

カメルーンは中部アフリカに位置する共和国で、ナイジェリア、チャド、中央アフリカ共和国コンゴ共和国ガボン赤道ギニアの6カ国と国境を接しています。日本の1.3倍の国土におよそ2400万人が住んでいますが、200以上の民族及び言語が存在し、自然等の多様性からアフリカのミニチュアと呼ばれています。英語とフランス語が公用語で、国内10州のうち、8州がフランス語圏、2州が英語圏です。

 

政治的に比較的安定したカメルーンは、経済的にも中部アフリカを牽引してきました。しかし近年は、東部では中央アフリカ共和国危機、北部ではボコ・ハラムをはじめとする暴力的過激主義グループによる誘拐、殺害、市民に対する暴力や治安部隊との衝突が発生しています。また、英語圏地域では2016年後半から教員及び弁護士を中心としたフランス語圏優位に対する平和的抗議が一般市民に広がり、その後、いくつかの武装グループが形成され、政府の治安部隊の衝突などが発生しています。これらの危機の結果、多数の難民や国内避難民が発生し、カメルーン国内で430万人が支援を必要としています。

 

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Cameroon-Humanitarian Needs Overview 2019

 

こうした状況を受け、UNDPは2015年よりカメルーンの人道危機に対応した支援を実施しています。特に、暴力的過激派集団であるボコ・ハラムの攻撃に繰り返し晒されている極北州は、カメルーン10州のうち最も貧困率が高い地域で、保健や教育面での開発も他地域と比較して遅れています。元々住んでいた人たち(受け入れコミュニティ)が貧困に苦しんでいたところに、ナイジェリアからの難民や国内避難民、避難先から戻ってきた帰還民が増加する中、限られた資源・サービスを分け合わなければならず、生活環境はさらに厳しいものとなっています。そこでUNDPは、難民、国内避難民、帰還民と受け入れコミュニティの平和的共存を目指し、若者や女性に対する経済面でのエンパワーメント支援や、暴力的過激主義予防・対応を中心とした支援を実施しています。

 

暴力的過激主義予防では、コーラン学校の機能強化を支援しています。極北州では、初等教育を受けている比率は他の州より低く、イスラム教徒の子供や若者たちの中にはコーラン学校にしか通っていない状況が多く見受けられます。そのため、コーラン学校で、コーラン以外にも、市民としての自覚や生計を立てることの重要性を伝えられるように、コーラン学校教師等と共に教員ガイド本を作成し、教員向けに研修を実施しています。

 

また、平和構築ではカメルーン国民に愛されるスポーツが重要な役割を示しています。スポーツのチームワークを通じて、難民、国内避難民、帰還民及び受け入れコミュニティが宗教や民族間の平和的共存の精神を育んでいます。若者の中で乱用が危惧される危険薬物の使用撲滅や暴力的過激主義に対するメッセージを発信しています。

 

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スポーツを通じた平和構築では、特にサッカーが人気。男性も女性もサッカー、ハンドボール等様々なスポーツを通じて楽しみながら平和的共存の精神を育んでいる ©UNHCRカメルーン

 

更に、これらの支援活動は2015年より日本政府の支援を受けており、国際協力機構(JICA)や日本の民間企業との連携が一つの特色となっています。

 

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極北州ミナワオのナイジェリア難民キャンプ ©UNDPカメルーン

 

特に、治安が悪い極北州へはJICA及び日本企業の職員による渡航が制限されているため、単体での活動はなかなか難しい状況にあります。そうした中、極北州に拠点を持つUNDPと連携し、能力強化というUNDPらしい人道支援から開発支援を繋ぐ活動を実施することで、双方の強みや専門性を活かす活動を展開しています。

 

最も貧困率が高い極北州ですが、実はカメルーンの中でも米どころであり、2016年よりJICAのコメ振興プロジェクトと連携し、稲作栽培に関する講義や実技研修を行っています。当初は、日本人の稲作専門家が活動する首都ヤウンデに、極北州から農業普及員を呼び寄せ、播種、脱穀、精米など「コメ作り成功のポイント」を伝える研修を実施。その後、極北州の現場で、カメルーン農業・農村開発省の担当者が現地の農家に対しフォローアップをしています。2019年からは、日本人専門家の指導を受けた農業・農村開発省の担当者が現場である極北州で研修を実施しました。2016年よりJICAと連携を開始し、4年目にして農業・農村開発省のカメルーン人担当者だけで開催した研修に参加した際には、能力強化に貢献している実感を得ることができました。今後も、JICAとの連携のもと、現場に根ざした研修を実施し、カメルーンの稲作振興を目指す政府を後押ししていく予定です。

 

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ヤウンデ市内でJICA稲作プロジェクトの日本人専門家と共に実施された稲作研修。農業普及員が現場で研修を再現しやすいように、コメづくり成功のポイントが詰まった紙芝居も活用されている ©UNDPカメルーン

 

JICAとは2017年より、日本で広く普及している「カイゼン」手法を取り入れた研修も実施しています。「カイゼン」とは「改善」を指し、5つの「S」、すなわち整理・整頓・清掃・清潔・しつけを心がけ、無駄をなくし効率を上げ、安全性を高める手法のことです。日本語の「改善」という言葉がそのまま「kaizen」として現地でも使われています。この支援活動では、JICAの中小企業振興プロジェクトと連携し、JICAの研修によりカイゼンコンサルタントとなったカメルーン人を極北州に招き、これからビジネスを開始する若者・女性向けに5Sや・カイゼン手法による起業家研修を実施しています。特に、小売業での5S/カイゼン手法の活用は目に見えやすく、研修に参加した若者の小さな商店では、商品がきちんと整理整頓され、商店内も清潔が保たれて、村では人気のお店となっています(写真下・2枚目)。

 

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カイゼン・コンサルトによる5S/カイゼン手法の起業家研修 ©UNDPカメルーン

 

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5S/カイゼン手法の起業家研修を受けた若者。5S/カイゼンの考え方に強い印象を受けKAIZENという言葉を店の看板として掲げた ©UNDPカメルーン

 

また、カメルーンでは企業との連携も進めています。カメルーンではトヨタのブランドの車は大人気で、特に、道路環境の厳しい極北州では多くのトヨタ車が走っています。しかし、極北州にはトヨタを取り扱うCFAO(フランス系商社、株主は豊田通商)は支店を持っておらず、街の修理工場に頼るか、別の州にあるCFAOの支店まで車を走らせるしかありません。そこで極北州での自動車整備士の養成は需要が高いと判断し、雇用・職業訓練省とCFAOとの連携のもと、極北州の自動車整備士の養成講師を商業都市ドゥアラにあるCFAO研修センターに派遣し、養成講座の講師としての研修を実施しています。失業率が高い極北州で既存の職業訓練校がより質の高い自動車整備士を養成できるようになれば、地元での自動車整備士の需要が高まり、若者などが手に職をつけ生計を立てられるようになり、また道路の安全性も高まります。

 

更に、極北州では、パナソニックから寄贈していただいたソーラーランタンを小学校や職業訓練学校、保健センターに届ける活動も行いました。カメルーンの農村部の電化率は低く、特に極北州ロゴンヌ・ビルニ地区では、電化がほぼ進んでおらず、多くの人々は薪や電池を使ったランプなどで灯りを確保しています。

太陽光で充電できるソーラーランタンを使い始めたことで、薪を拾いに行く時間に火事の危険性がなくなり、燃料・電池代が節約できるなどの効果が出ています。また、保健センターでは夜間でも対応が可能になり、学校では先生が夜間でも授業の準備を行えるようになったことで、地域の人々の健康と教育の充実につながっています。

 

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日中の業務に忙殺されがちな保健センターでは充電中のソーラーランタンの管理が難しいため、近くの小さな商店で充電をお願いしている。ソーラーパネルは商店の屋根の上に設置。地元の人々の協力により、ソーラーランタンを使って夜間でもサービスの提供ができるように ©UNDPカメルーン

 

このようにUNDPカメルーンではJICAや日系企業などと連携し日本の知見を活かした支援を数多く実施しています。日本政府とUNDPを中心に共同でこの夏日本で開催されるTICADでは、引き続き日本とUNDPの連携を強化しつつ、カメルーンを始めとするアフリカ諸国の若者や女性等の脆弱な人々のための議論が行われることを期待しています。個人レベルでは、引き続き危機に直面している人たちと共に、解決策を考え、その対応を実施して行きたいと思っています。