~国連政治局アフリカI部 鈴木彩果次長によるキャリア・セッション~
2月18日、国連広報センターは、ニューヨーク国連本部の政治局に勤務する鈴木彩果次長を招き、「『平和をつくる仕事』の舞台裏」と題したイベントを開催しました。すべて英語での講演であったにも関わらず、高校生から社会人まで幅広い年代の方々、約50名が参加しました。前列からあっという間に席が埋まっていき、国連をキャリアのオプションと考える若い人々の熱気を感じる日となりました。
■鈴木次長が取り組む「平和をつくる仕事」
まず鈴木次長から、政治局アフリカⅠ部について説明がありました。平和構築や武力紛争防止を目的とする政治局は、国連本部の中核ともいえます。その一部であるアフリカⅠ部は、ニューヨーク本部に28人、ケニアに2人、ボツワナに2人の職員が配属され、エジプトやソマリアをはじめとしたアフリカの26カ国を管轄しています。
鈴木次長の日常の業務は、部署内4チームの管理、管轄している26カ国の政治分析、報告書などの書類作成というように多岐に渡ります。またアフリカ地域の特別ミッションや新しいオフィスの設立の際には監督的立場も担います。
■「すぐに国連で働こうとは思わなかった」
コロンビア大学時代から国連で働く人々と出会い、現場の話を聞く機会に数多く恵まれた鈴木次長。学生時代に国連本部と3つのNGOでインターンシップを経験しました。「卒業後すぐに国連で働く道を選ばなかったのは、国連よりも小規模の機関で働くことで、ヒエラルキーを気にせず、そしてより直接的で実務的な仕事ができると考えたからです」。その後、地球規模問題に取り組む国際議員連盟(PGA)に移り、「平和と民主主義」や「女性の政治的エンパワーメント」を担当するプログラム・ディレクターとして5年間活躍しました。
国連で働くことになったきっかけは、インターンシップで同じプロジェクトで働き、その後国連に転職した元同僚と一緒に昼食をとっていた時の会話でした。「PKO局で働いている同僚が、新たにPKOを設立するために人材を探しているのだけど、ぜひ応募したらどう?」一晩考えた末、鈴木次長はそれまでのキャリアが活かせることを確信し、そのポストに応募することにしたのです。このようにして国連職員として採用され、PKO局で13年間勤務した後、政治局に移り現在に至ります。
■「セルフ・モチベーションを維持する」
「国連でキャリアを積んでいく上で一番大切なのは、セルフモチベーションを持ち続けること」。鈴木次長が国連に入った当初は、一時的な短期の雇用契約でした。「そのような契約が当たり前なのが政務局やPKO局」と鈴木次長は言います。国連のキャリアとは自分で道を切り開いていくものであり、そうしたリスクを取る覚悟が必要です。鈴木次長は「自分は一体何をやりたいのか、何ができるのか」を自問自答し、自らの信念を貫くことで、希望するキャリアに向かっていったそうです。
■「経験は必ず仕事につながる」
今回の講演で鈴木次長が焦点を当てたのは、国連職員採用試験の「面接」。まず問われるのは、応募するポストに必要な知識や経験です。鈴木次長が所属する政治局アフリカⅠ部の場合、アフリカ全体に関する知識や、実地経験が必要とされます。コンピテンシー(能力)についても言及しました。試験を通過するには主に3つのコンピテンシーが必要です。エントリー・レベルでは、“Planning and Organizing”(企画力と組織力)”そしてチームワーク力が特に重視されます。これまでチームでの活動において困難にぶつかった時、どのように解決したか? ここでは自分の経験を基にした具体的な回答が求められます。「比較的小規模のチームで仕事を進めることの多い国連では、高いチームワーク力が円滑な仕事への鍵なのです」。
その他に本部で働くには第一にドラフティング(書く)能力が重要。例えば総会や安全保障理事会での議事録では要旨を簡潔にまとめなければいけません。また、世界のどこかで緊急事態が起きた場合、急いで事務総長の声明の原稿を書く場合もあります。スピードと同時に質も要求されるため、高いドラフティング能力が必要になるのです。第二に、コミュニケーション能力。これは常に人と関わるこの仕事において欠かせません。第三に、幅広いネットワーキングをつくる能力。特にPKOやSPM(特別政治ミッション)では、自分にとって未知の土地に行くことが頻繁にあるので、いつでも高くアンテナを張り、情報を得たり人とのつながりを広げることが重要です。
「できるだけ多様な経験をしてください」。国連で働き始める前に様々な経験を積んだ鈴木次長。若い人達に、国連という組織にこだわらず、NGO等で実地経験を積む重要性を強調していました。「それらすべてが国連職員に必要な条件をカバーする要素となり、現在の私の仕事につながっています」。
講演に続く質疑応答では、熱心な質問が相次ぎました。「日本の国連職員数が少ないことの原因は?」という質問に対しては、雇用面や収入面で日本人の持つ安定志向を理由として指摘しました。また、「国連に入る前、どのように実地経験を得たのか」「面接ではなにを聞かれたか」といった具体的な質問も目立ちました。国際機関で働きたいと考える人の多くは、国連か、それとも国連以外の国際的な組織に勤めるか、と迷っているようです。今回は、両方のキャリアをもつ鈴木次長に直接質問できる絶好の機会となりました。
国連広報センター・インターン(佐野早希)からの感想
“It is important to do what you feel comfortable with.(自分が心地よく感じることに取り組むことが重要)”と話す鈴木次長が印象的でした。自分のやりたいことがより明確になることでそういった仕事を見つけることができ、やりがいを感じることにつながっていくのだと思います。
「平和」をつくる国連の仕事において、「紛争」「貧困」「開発」といった課題には常に向き合わなければなりません。そんな多くの課題を抱える地域の平和づくりに、強い信念をもって取り組む鈴木次長。国連広報センターでインターンを体験中のわたしを含め、参加したすべての若い人にとって今回のお話はとても刺激にあふれるものでした。
<関連サイト>
●予防外交で平和を:国連政治局の取り組み
●政治局 基本情報
(http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/secretariat/departments_offices/dpa/)
●鈴木彩果さん インタビュー