国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

国連ハイレベル政治フォーラム×SDGs×日本 【連載No. 4】

HLPFでの日本の市民社会の情報発信、そしてインタビュー 

 

みなさま、こんにちは。国連広報センターの千葉です。

 

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国連事務局ビルを前庭から見上げて
©UNIC Tokyo Kiyoshi Chiba



今年7月にニューヨークに出張し国連本部で取材したハイレベル政治フォーラム(HLPF)について、ブログを綴らせていただいております。

 

今年のHLPFでは、日本の自発的国別レビュー(VNR)はなかったものの、政府、ビジネス、市民社会など、日本の各セクターの方々がさまざまな形で、日本のSDGsへの取り組みについて情報発信をしておられました。

本ブログでは、そうした情報発信の様子や私が現地でお会いした日本人の方々をセクターごとにご紹介しています。

 

日本の市民社会 -SDGsジャパン

 

今回のフォーカスは、日本の市民社会です。

 

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SDGsジャパンのウェブサイト
https://www.sdgs-japan.net/

 

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*HLPFでの日本の市民社会の活動を取材するにあたっては、SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)の稲場雅紀さんにご相談しました。SDGsジャパンは、日本の市民社会において持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みを進めるさまざまなNGO/NPOが参加するネットワークです。SDGsジャパンが産声をあげたのは2013年。SDGsの形成のための多国間交渉に日本の市民の声を反映させるために「ポスト2015NGOプラットフォーム」として設立されました。その後、SDGs採択翌年の2016年4月に再編成されて、SDGs市民社会ネットワークとして始動。2017年2月には法人格(一般社団法人)を取得され、今年8月現在、およそ100団体が参加するネットワークとして活動を展開中です。アフリカ日本協議会の代表で、SDGsジャパンの代表理事を務める稲葉雅紀さんは、安倍首相を本部長とするSDGs推進本部のもとに設置されたSDGs推進円卓会議のメンバーとして、日本の市民社会の声を代表すべく活動していらっしゃいます。稲場さんから、HLPF開催期間中にSDGsジャパンのメンバー団体が主催するサイドイベントやニューヨークに赴いた方々を紹介していただきました。

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今年のHLPFでSDGsジャパンのメンバー団体が主催するサイドイベントは二つありました。その一つは結核を、もう一つは子どもに対する暴力をテーマにしたものでした。両サイドイベントはいずれもHLPFの前半の週の開催ということで、後半の週にニューヨークに赴く私の参加が叶うことはありませんでしたが、稲場さんは後半の週にもニューヨークに残っていらっしゃるSDGsジャパンのメンバー団体のお二人をご紹介くださいました。

 

その一人は、子どもに対する暴力をテーマにしたサイドイベントの主催団体の一つであるワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)でアドボカシー(政策提言)を担当するシニア・アドバイザーの柴田さん。もう一人は、ジャパン・ユース・プラットフォーム・フォー・サステイナビリティ(JYPS)の運営委員会理事の大久保さんです。

 

子どもに対する暴力撤廃を訴える -WVJの柴田さん

 

まずは、WVJの柴田さんのインタビューからご紹介します。

 

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ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)の柴田哲子さん
©UNIC Tokyo Kiyoshi Chiba

 

実はニューヨークでのさまざまな活動にお忙しい柴田さんとお会いする時間を設定できたのは現地に到着してからでした。なんとかHLPF閣僚会合2日目のお昼前に1時間ほど、お時間をいただけることになり、私はその日のスペシャル・イベント、ビジネスフォーラムの午前中のセッションを少しだけ早く抜け出して、指定の場所へ急いで向かいました。ご指定いただいた場所はVienna Café。実は、私は1日目には国連本部ビル内で、いったいどの建物のどの階のどこら辺にどの会議場があるのか、なかなかわからずに迷ってばかりいましたが、2日目になるとようやくそれぞれの会議場の位置関係が立体的にわかってきて、Vienna Caféもすぐにわかりました。ビジネスフォーラムが開催された会議棟2階の経済社会理事会議場から、総会ビル地下1階のVienna Caféまでは少し離れていましたが、Vienna Café はハイレベル政治フォーラムのVNRsの会場として使われているConference Room 4の近くで、国連職員、外交官やNGOの方がたが利用できる喫茶スペースです。コーヒーやサンドイッチなどもカウンターで購入して食べることはできるのですが、その時間帯は、とても混んでいて、カウンターも長い行列。私はとにかく急いで二人が座れるテーブルと椅子だけを確保して、柴田さんをお待ちしました。当日、Vienna Caféは予想以上にひどく混雑し、人の往来も激しかったので、無事にお会いできるかなと心配しましたが、柴田さんが私を見つけてくださいました。

 

柴田さんは言葉使いがていねいで、凛としながらも物腰が柔らかい、とても素敵な方でした。

 

柴田さんは、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)が世界の子どもを支援するワールド・ビジョン(1950年創設)の想いを受け継ぎ、1987年に設立された国際協力団体であること、またSDGsジャパンにおいては、その他の4団体(国際協力NGOセンター、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、アドラ・ジャパン、アフリカ日本協議会)とともに、途上国開発全般・開発資金ユニットの幹事団体として活動されていることを説明してくださいました。

 

 

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そして、柴田さんは、WVJが今、SDGsの目標のなかでもっとも力を入れて活動していることの一つが、ターゲット16.2 (ゴール16のターゲット2)の「子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問の撲滅」であること、このSDGsターゲットについては市民社会の活発な動きがあり、日本政府も市民社会とともにこの課題解決に前向きな姿勢を示し、積極的な資金拠出などを行なっていることを話してくださいました。

 

今年4月に東京・品川のユニセフハウスで開催された、子どもに対する暴力の撤廃に関する、WVJを含むマルティステイクホルダーのイベントにもお話しは及びました。このイベントは、私も参加し、ブログで詳しく綴っておりますので、ぜひそちらをあわせてご覧ください。

 

子どもに対する暴力撤廃に向けて:『子どものための2030アジェンダ:ソリューションズ・サミット』参加報告会

 

柴田さんは、WVJの優先課題として、その他にも子どもに関する重要な課題がたくさんあるけれど、WVJは今年のハイレベル政治フォーラム(HLPF)で、子どもに対する暴力という課題にフォーカスをあてた情報発信を行うことを決め、国連事務総長特別代表事務所(子どもに対する暴力担当)、子どもに対する暴力撤廃のためのグローバルパートナーシップ(GPeVAC)、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンなどとともに、今年のHLPFのレビュー対象のSDGsゴール11(レジリエントな社会)」を考えて、「平和でレジリエントな社会のためのパートナーシップ:子どもに対する暴力撤廃を通じて」と題するサイドイベントを主催したことを話してくださいました。開催日は前半の週の7月12日、場所は、マンハッタン中心部にあるScandinavian Houseで、セーブ・ザ・チルドレンの堀江由美子さんや共催団体の代表者や中南米の若者とともに、柴田さんもパネリストとして登壇したサイドイベントだったそうです。

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7月12日のサイドイベントで共催者と一緒に
柴田さんは右から3番目
©ワールドビジョンジャパン

前述のとおり、私がこのイベントに参加することは叶いませんでしたが、柴田さんによれば、サイドイベントでは、政府、市民社会、研究者、国際機関など多くの方が参加され、日本における子どもに対する暴力撤廃のアドボカシーについて、とても意義ある発信、関心を喚起することができたそうです。日本の事例について多くの質問、意見交換も活発に行われて盛会だった、と柴田さんは振り返っていらっしゃいました。

 

昨年のハイレベル政治フォーラムにも足を運んでサイドイベントを開催されたという柴田さんが今年あらためて思ったのは、「ああ、やはり、HLPFでいろいろな課題に関して大切なイニシアチブ、政治的な動きが生まれている」ということだったそうです。世界の政府、ビジネス、市民社会の各セクターから多くの人たちが集まってくるハイレベル政治フォーラムのようなところで日本での取り組みを発信することの意義をニューヨークで強く感じていると述べておられました。

 

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サイドイベントで発言する柴田さん
©ワールドビジョンジャパン

さらに、柴田さんは、国連でSDGsが採択されてから、WVJにおける自らの動きかたにある変化がでてきた、と話してくださいました。その一つ目は、日本からニューヨークなどに出向き各国政府や市民社会、国際機関と対話をするなど、国際的なアドボカシー活動に関与する機会が増えたこと。そして、二つ目は、国内外で、今までは疎遠だった分野のNGOとの連携が増えたこと、だそうです。「これまで、WVJはセーブ・ザ・チルドレンなどのような開発・人道分野で活動するNGOとの連携は多くあったものの、ヒューマンライツ・ナウやヒューマン・ライツ・ウォッチといった人権分野で活動するNGOとの連携の機会は殆どありませんでした。でも最近はそうした人権NGOとも連携することが多くなり、それと同時に、WVJと自分自身の活動の幅が広がりました。今も広がりは増していて、そのプラスの影響はとても大きいと思います」と話してくださいました。

 

小学3年生の娘さんがいらっしゃるという柴田さんは最近、2030年というのは自分の娘が成人したころなんだなあ、とよく考えるそうです。一人の親として、大人として、世界の子どもたちにSDGsを達成した地球を引き継ぎたい、SDGsのターゲット16.2を達成するために頑張りたい、との強い思いをあたたかい眼差しで話してくださいました。

 

最後に、柴田さんは、ご自身が今、東京大学の大学院に通って「人間の安全保障」を学んでいることを教えてくださいました。子どもに対する暴力をテーマに論文を執筆し、実践と学問をつなげて貢献したい、との思いからだそうです。前日に星野大使から教えていただいた「人間の安全保障」とSDGsのつながり(連載ブログの第2回で紹介)の一端を私はこの日、柴田さんに見たように感じました。

 

子ども・若者としての意見を述べるーJYPSの大久保さん

 

次は、ジャパン・ユース・プラットフォーム・サステイナビリティ(JYPS)の運営委員会理事の大久保勝仁さんをご紹介します。

 

JYPSは日本の若者たちのネットワーク集団で、大久保さんはその代表です。

 

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日本政府代表のレセプションでJYPSのメンバーと
左から3番目が大久保さん、その左隣が筆者
©UNIC Tokyo Kiyoshi Chiba


大久保さんも柴田さんと同様にニューヨークでの活動に多忙を極めておられましたが、私がニューヨークに到着したその日の夕方であれば、どうにかお時間を割いていただけそうだことで、当日午後6時過ぎ、宿泊先のホテルにチェックインして荷物を置いてから、近辺の簡易食堂でお会いしてお話を伺いました。

 

大久保さんは背が高くて活動的なカッコいい青年であるとともに、気取りのない心優しい人でした。

 

大久保さんは、JYPSが日本の若者たちの緩やかネットワークで、若者の意見がさまざまな政策に反映されることを目的として活動を展開していること、そして、HLPFの場においては、「主要グループとその他のステークホルダー(MGoS)」の中で、子どもと若者の部門であるMajor Group for Children and Youth(MGCY)の中心的なメンバーのひとつとして活動していることについて、いろいろと話してくださいました。

 

持続可能な開発について議論する政府間会議の場であるHLPFにおいては、子ども・若者の主要グループ(MGCY)を含めて、女性、先住民、地方自治体など「主要グループとその他のステークホルダー(MGoS)」の参加が奨励されており、HLPFの開催形式など規定する国連総会決議(A/RES/67/290) によって、それらのグループはすべての公式会合に参加すること、あらゆる公式の情報/文書を入手すること、公式会合で発言すること、文書提出ならびに書式および口頭の貢献を行うこと、提案をすること、国連加盟国と国連事務局との協力によるサイドイベントや円卓会議を主催することを認められています。JYPSは日本の若者を代表して活動しているばかりでなく、世界の170か国の6,000を超える若者グループが参加登録するMGCYの中心的なメンバーとして活動を展開し、HLPFにおいて子ども・若者の声を届けるべく努めているのです。たとえば、昨年のHLPFにおいて、日本政府がVNRsに臨んだ際には、岸田外務大臣(当時)のプレゼンテーションのあと、タイ政府、カナダ政府の代表に続いて、MGCYから、大久保さんの前任者である小池宏隆さんが質問しました。

 

大久保さんは、JYPSがそうやって子ども・若者を代表して、実際にHLPFで意見表明を積極的に行っている存在であることを誇らしげに語ってくださいました。

 

 

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サイドイベントで発言する大久保さん
©JYPS

 

大久保さんによると、最近、JYPSの有力メンバーとして、「Japan National Young Water Professionals(Japan-YWP)」があらたに参加したということでした。Japan-YWPは、International Water Association(IWA)日本国内委員会(IWAの日本支部)の下部組織として、2010年3月5日に設立され、日本水環境学会、日本水道協会などと密接な連携をとりながら、上下水道・水環境に関連する分野の学術的研究・知識の普及・水環境保全への積極的な貢献を目的とした若手中心のプロ集団だそうです。子ども・若者といっても学生ばかりではなく、JYPSは、こうした若い専門家のネットワークも擁しているのです。Japan-YWPの参加もあり、今年のHLPFにおいては、大久保さんがJYPSを代表してSDGsのゴール6(安全な水とトイレを世界中に)に関連するサイドイベントでパネリストの一人を務めたそうです。

 

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最前列の左端が大久保さん
ユース特使は2列目中央の花柄ジャケットの女性
©MGCY

さらに、大久保さんは、他の国のユースとともに、国連のユース特使、ジャヤトマ・ウィクラマナヤケさんとの対談に臨み、世界各国のユースを取り巻く現状などに関する意見交換にも臨んだことを話してくださいました。

 

そして大久保さんは、JYPSのその他のメンバーの方々が活躍していること、サイドイベントのモデレーターを務めるたり、VNRsで発言したりするなどHLPFでいろいろな情報発信に臨んでいたことを熱心に話してくださいました。

 

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世界各国から参加した若者たちの集まり
セントラルパークで
©MGCY

現在、大学院で建築を学びながらJYPSの活動を続ける大久保さんの原動力となっているのは、大学生のときのスリランカへのバックパックの旅にあるそうです。

 

大久保さんがスリランカを訪れたのは大学2年生の冬で、カヌーに乗って行った先は、とても貧しい漁村。大久保さんが感激したのは、現地の人たちの精神的な豊かさでした。大久保さんは現地の人と一緒に食事をしたり、小さなバケツを使って身体を洗ったりして、現地の人に溶け込みながら、とても楽しいときを過ごしました。そして、物質的ではない、とても大切な何かを教えられたという思いをもって日本に帰ってきてしばらくしたころ、大久保さんはその村が台風で壊滅したことをニュースで知ります。大久保さんは、貧しいなかでも自分に対して心やさしく接してくれた村人たち一人ひとりの顔を思い出しました。気がついてみたら、大学を休んで、再びその村へと向かう自分がいたそうです。でも、現地につくと、大久保さんの眼前に広がっていたのは、政府によって封鎖される一方で、インフラも復旧整備もなかなか進まずに、村の人たちに対するケアは十分提供されていない状況でした。大久保さんはとても大きなショックを受けます。制度上の問題がある、と強く思ったそうです。

 

そこから、大久保さんの思いはどんどん強くなり、まもなく、HABITAT for Humanityという居住問題に取り組むNGOに加入するなど、行動を起こすようになったのです。

 

「自分はそんなに優秀な人間ではありません、でも、そんな自分が今、JYPSの代表となり、HLPFで若者の声を代弁しようと努めています。思いを持ち続けていれば、ひとは誰でも、何でもできるのです」と大久保さんは謙虚に、でも力強く話してくださいました。

 

―いまでも、スリランカの気が良くてやさしい人たちの顔が忘れられない、ほんとうに弱い立場の人が意思決定に参加できるしくみ、制度をつくりたい-

 

何度もそう語る大久保さんから、あつい本気がまっすぐに伝わってきました。

 

もう一つのサイドイベント 結核を終わらせるために

 

冒頭に申し上げた通り、今年のHLPFでは、日本の市民社会によるサイドイベントがもうひとつありました、結核に関するサイドイベントです。

 

冒頭に申し上げたとおり、このサイドイベントはHLPF前半の週の開催で、その主催団体であるアフリカ日本協議会の稲場さんも早く日本に戻られたことから、私自身が現地で参加したりお話をお聞きしたりすることは叶いませんでしたが、そのテーマの重要性は言うまでもありません。

 

簡単にご紹介いたします。

 

このサイドイベントは7月11日にニューヨーク日系人会ホール(マンハッタン中心部)で開かれました。

 

持続可能な開発目標(SDGs)はゴール3(すべての人に健康と福祉を)で、結核の流行を終わらせることをターゲットのひとつ(Target 3.3)にしていますが、サイドイベントは、国連総会で今月下旬に結核に関する会合が開催されることを視野に入れるとともに、今年のHLPFがゴール11(住み続けられるまちづくりを)をレビュー対象としたことを踏まえて、「結核への人間中心のアプローチ=より健康な都市と人間居住のために」というテーマのもとに開催されました。

 

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パネリストは、日本政府代表部の別所浩郎大使、ポーラ・フジワラ氏(世界結核肺疾患連合科学ディレクター)、レオ・バルンボ氏(国境なき医師団米国政策ディレクター)、マイク・フリック氏(「治療行動グループ」エイズ結核ディレクター)の皆さんでした。

 

このサイドイベントが視野に入れたのは、今月26日に国連総会で開催される、結核に関する初のハイレベル会合です。その会合のテーマは、「結核を終わらせるための連帯:グローバルな感染症への緊急の世界的対応“United to end tuberculosis: an urgent global response to a global epidemic”」。日本の別所大使が共同議長を務め、世界各国の首脳たちが結核対策強強化を目指して政治宣言を採択する予定です。

 

結核はほんとうに恐ろしい病気です。

 

卑近な話で恐縮ですが、私の母が結核に冒されました。私が8歳のときに父が脳溢血で他界し、それからしばらくしてから。母はまだ30代でした。小さい私は自宅でしょっちゅう母が血を吐く姿を見て育つことになりました。洗面器いっぱいに血を吐いて倒れる母を助けたくてもどうしてよいかわからず、ただ背中をさすってあげることと救急車を呼ぶことしかできませんでした。小さいころの私にとって、結核とは、母を苦しめる怖くて憎い病気であると同時に、すぐそばにいる哀しい母のことでした。病院に長期入院して治ったと思うとまた再発という繰り返しの状態が長い間、執拗に続き、完治したといわれてからも、母の肺が十分に機能することはありませんでした。がんをはじめ、生涯、病気続きだった母はけっきょく結核の痕跡が命とりになりました。

 

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総会ハイレベル会合のウェブページ
https://www.un.org/pga/72/event-latest/fight-to-end-tuberculosis/



今もなお、結核の流行は終わっていません。2016年時点で、世界じゅうで一年間に1,040万人が結核に感染し170万人が命を奪われているのです。

 

SDGsターゲット3.3 ― その達成を願ってやみません。

 

―――

 

ハイレベル政治フォーラム(HLPF)そのものの取材に関するブログは今回で終わります。次回は、ニューヨークで私がお会いした、SDGsを舞台裏で支える日本人国連職員の方々をご紹介します。

(連載ブログ 国連ハイレベル政治フォーラム×SDGs×日本)

第3回 ~ HLPFでの日本企業、経団連の情報発信について
第2回 ~ HLPFでの日本政府の情報発信取材と星野大使インタビュー
第1回 ~ ニューヨーク国連本部でみたハイレベル政治フォーラム

 

 

 

写真で綴る、国連事務総長の訪日 2018


8月7日から9日までの3日間、アントニオ・グテーレス国連事務総長が日本を訪問しました。今回の主な目的は、長崎平和祈念式典への出席です。

昨年7月には国連で核兵器禁止条約(the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)が採択され、発効に向けた議論や取り組みが進められている中、今年5月には、ジュネーブ軍縮アジェンダ「Securing Our Common Future」を発表し、人類を守り、人命を救う、未来世代のための軍縮を訴えたグテーレス事務総長。今回の訪日でも、被爆者の方々との”強い連帯”を示し、2度と原爆の被害者を出さない、というメッセージを日本、そして世界に向けて発信しました。

”No more Nagasaki, never more Hiroshima, not any more hibakusha being necessary”
(ノーモア・ナガサキ。ネバーモア・ヒロシマ。これ以上の被爆者を出してはならない)

 

*** 

 

8月7日夜、グテーレス事務総長が日本に到着!

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グテーレス事務総長を羽田で迎える(右から)デイビッド・マローン国連大学学長、根本かおる広報センター所長、中満泉国連軍縮担当上級代表 @UNIC/Takashi Okano

 

*** 

 

8月8日には早朝からのインタビュー取材の後、国連広報センター所長根本かおるとインターンとパチリ。

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©UNU/Daniel Powell

 

その後、首相官邸に向かい、安倍総理との会談、および共同記者会見に臨みました。

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©UNIC/Takashi Okano

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©UNIC/Takashi Okano

会談では 、唯一の被爆国である日本は「核兵器のない世界」の実現に向け、国連と協力して取り組んでいくことで一致しました。また、北朝鮮から非核に向けた具体的な行動を引き出すためには、安保理決議に基づく措置の完全な履行が必要だという認識を再確認し、日本政府の拉致問題解決に向けた対話をめざす取り組みにも支持を伝えました。

事務総長は総理との共同記者会見で、今回の訪日には被爆者との深い連帯を示すという特別な意味があると述べました。日本について、「多国間主義を支える柱であり、また国連の重要なパートナーである」と評価し、平和や人権を推進する努力に感謝を表しました。

 

その後、政府専用機で長崎へ。

 

8日午後、長崎に到着したグテーレス事務総長は、田上富久長崎市長をはじめ地元の関係者と懇談を行ったほか、被爆者の方々にも面会しました。

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©UN Photo/Daniel Powell

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©UN Photo/Daniel Powell

被爆者からひとりの人間として直接話を聞きたい、という事務総長本人の希望を受けて、対話は車座で行われました。被爆者の方々の話に静かに耳を傾け、思いを受け止めました。

事務総長は、「広島と長崎の原爆を生き延びた被爆者の方々は、ここ日本のみならず、世界中で、平和と軍縮の指導者となってきました」と被爆者の方々に敬意を表しました。「ノーモア広島、ノーモア長崎」という大切なメッセージを広く伝えるため、そして核兵器が二度と使用されぬよう全力で取り組まねばならないとの思いを一層強くしたと述べています。被爆者の方々との対話は、事務総長にとって訪日プログラムの中で最も重要な時間のひとつとなりました。

 

この日は、グテーレス事務総長がかねてより望んでいた浦上天主堂にも足を運ぶことができました。

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若者に迎えられる国連事務総長浦上天主堂にて @UN Photo/Daniel Powell

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高見三明大司教より説明を受ける国連事務総長浦上天主堂にて @UN Photo/Daniel Powell


 

*** 

 

翌9日午前、グテーレス事務総長は、河野外務大臣と朝食会にて会談しました。国連改革や北朝鮮情勢に関して意見交換を行い、軍縮・不拡散に向けて共に協力することで一致しました。

 

続いて、長崎原爆資料館および国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館を訪れました。

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原爆資料館では山里小学校の子どもたちの歓迎を受けました ©UN Photo/Daniel Powell

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子どもたちは平和祈念式典でも合唱を披露しました ©UNU/Daniel Powell

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子どもたちと折り鶴を折るグテーレス事務総長 ©UNU/Daniel Powell

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原爆資料館を見学 ©UN Photo/Daniel Powell

 

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被爆した長崎の街を表現した模型の前で足を止める国連事務総長。彼の隣で説明するのは中村館長 @UNIC/Yasuko Senoo

 

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平和祈念館の追悼空間にて ©UNU/Daniel Powell

 

そして、国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館での記者会見に臨み、核廃絶への強い決意を表明しました。被爆後の惨状を乗り越え活気ある街を作り上げた長崎の不屈の精神を称賛し、「核兵器が二度と使われないようにするのは私たち一人ひとりの義務だ」と訴えています。

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©UNU/Daniel Powell

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©長崎市

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「すべての原爆被害者、そのご家族のみなさま、そして長崎にお住まいの方々との深い連帯を私は表明します。私のメッセージは明確です。勇気ある被爆者の叫びに続くこと ― 長崎を二度と繰り返さないように、と」

(“I express my deep solidarity with all the victims of the atomic bomb, their families and Nagasaki community. My message is very clear repeating the cry of the courageous Hibakusha. Nagasaki never again.”)

記者会見後に残したメッセージには、そう書かれていました。

 

この後、被爆73周年長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に参列しました。式典には、核保有国を含む71ヵ国の代表も参列しました。

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©UN Photo/Daniel Powell

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©UN Photo/Daniel Powell

 "Let us all commit to making Nagasaki the last place on earth to suffer nuclear devastation."
(私たちみんなで、この長崎を核兵器による惨害で苦しんだ地球最後の場所にするよう決意しましょう。)

現役の事務総長として初めて、長崎での平和祈念式典に参列したグテーレス事務総長はスピーチで、全ての国に対して核軍縮に全力で取り組むように呼びかけました。母国ポルトガルとも深いつながりのある長崎への訪問は、事務総長にとっても特別なものとなったようです。

 

***

 

“Peace is not an abstract concept and it does not come about by chance. Peace is tangible, and it can be built — by hard work, solidarity, compassion and respect.”
(平和とは、抽象的な概念ではなく、偶然に実現するものでもありません。平和は人々が日々具体的に感じるものであり、努力と連帯、思いやりや尊敬によって築かれるものです。)長崎平和祈念式典でのスピーチより

 

被爆者の平均年齢は82歳を超え、長年、戦争の悲惨さや平和の大切さを伝えてきた被爆者の減少が懸念されています。

日々生活する中で、頭の隅に追いやられてしまう「日本は唯一の被爆国である」という事実。

もし再び戦争が起こったら。

もしまた核兵器が使われたら。

家族や友人、大切な人を失うことになったら。

 

平和に過ごせるのが当たり前ではないということを噛み締め、平和のために何が出来るのか考えなければいけない、と痛感する3日間となりました。

 

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©長崎市

 

今回の国連事務総長の訪日に関してはこちらもご覧ください:国連と軍縮


インターン 安部・布施)

 

 

国連ハイレベル政治フォーラム×SDGs×日本 【連載No. 3】

HLPFでの日本企業、経団連の情報発信について

 

みなさま、こんにちは。国連広報センターの千葉です。

 

今年7月にニューヨークの国連本部で取材したハイレベル政治フォーラム(HLPF)について、ブログを綴らせていただいています。

第1回 ~ ニューヨーク国連本部でみたハイレベル政治フォーラム(HLPF)
第2回 ~ HLPFでの日本政府の情報発信取材と星野大使インタビュー

 

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国連本部の前で、はためく加盟国旗 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

今年のHLPFにおいて、日本の自発的国別報告(VNRs)はありませんでしたが、日本による情報発信がなかったということはなく、政府、ビジネス、NGOなど、いろいろなセクターで、日本人の方々がそれぞれSDGsに関する情報を発信していらっしゃいました。

 

前回は日本政府のイベントについての取材やインタビューをお届けしましたが、今回(第3回)は、HLPFにおける日本のビジネス界の情報発信についてご紹介したいと思います。

 

ビジネスフォーラムでの経団連

 

ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の閣僚会合2日目の7月17日(火)、経済社会理事会議場で、スペシャル・イベントのひとつとしてビジネスフォーラムが開かれていました。このフォーラムは官民一緒になって、SDGs達成への取り組みについて話し合う場です。国際商工会議所(ICC)、国連経済社会局、国連グローバルコンパクトの共催で、今年が3回目でした。

 

午前9時15分、主催者の国連グローバルコンパクトのリザ・キンゴ事務局長(下写真・右)と国際商工会議所(ICC)のジョン・デントン事務総長(写真・左)が冒頭挨拶に立ちます。

 

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©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

冒頭のセッションでは、国連事務局からアミーナ・モハメッド副事務総長とリュー・ジェンミン経済社会問題担当事務次長、そして経済社会理事会からマリー・チャタルドバ議長が出席して挨拶を述べ、それぞれ、世界の企業に対して、SDGsへの取り組みを訴えていました。壇上には、ビジネス界から、パラグアイとブラジルの両国共同出資会社のイタイプ―のCEO、ジェームズ・スポールディング氏も加わり、世界第2位の規模を誇るダムと水力発電を通じたSDGsへの貢献と取り組みを紹介していました。

 

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冒頭挨拶する副事務総長 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

冒頭のセッションに続いたのは、「ビジネスの力を善のための力として解放する:マルティステークホルダーによるSDGsの実施とビジネスの役割(“Unlocking the power of business as a force for good: Multi-stakeholder implantation of the SDGs and the role of business)」と題するワークショップでした。パネル討論形式で行われ、フィンランド農林・環境大臣のキンモ・ティーリカイネン氏、ラドル(Ladol)のCEO、エイミー・ジェデシミ氏、シュナイダー・エレクトリック・南アメリカゾーン社長のタニア・コセンティーノ氏、ソルベイのCEOジャン・ピエール・クラマデュー氏、国際労働機関(ILO)事務局長のガイ・ライダー氏がパネリストとして参加し、SDGs実施におけるビジネスの役割を活発に議論していました。

 

日本からは経団連の二宮雅也・企業行動・CSR委員長 (損害保険ジャパン日本興亜会長)が参加して、会場から日本企業の取り組みについて発言し、その議論に加わりました。二宮委員長の隣には、スイスのドリス・ロイトハルト連邦参事(現在、環境運輸エネルギー担当大臣で、2017年の大統領)が座り、二宮委員長に続いて発言していました。

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前方のスクリーンに映る二宮委員長 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

二宮委員長はその発言のなかで、日本の代表的な企業約1,370社と、主要な業種別全国団体、地方別経済団体から構成される経団連SDGsの達成に全面的にコミットしていることを紹介し、革新技術を最大限活用することによる経済発展と社会的課題の解決の両立をコンセプトとする「Society 5.0」を通じて、経団連SDGsの達成をめざしていることを説明されました。

 

“Dash to the Goals”と題した英語のブローシャ―を会場に配布。Society5.0とは、人類社会発展の歴史における5番目の新しい社会の姿であり、経団連はSociety5.0の実現を企業の社会的使命であると考えていることを述べておられました。

 

 

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経団連作成のブローシャー表紙



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経団連作成のブローシャーから


 

また、二宮委員長は、2017年11月に経団連が企業行動憲章を改定し、経団連に加盟するすべての企業がこれに遵守することに合意し、日本政府、学界、NGOsなどが広くSociety 5.0の実現に協力していることを紹介されました。

 

そして、経団連がつくった企業実践の事例集をウェブ化し、ビジネスフォーラムが開催されたまさにこの日にローンチしたことを発表しておられました。

⇒ URL:https://www.keidanrensdgs.com/

 

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経団連SDGsウェブサイト

 

経団連の二宮委員長、経済社会問題担当事務次長と懇談

 

17日(火)のビジネスフォーラムで会場から発言した経団連の二宮委員長は、翌18日(水)の午前中、国連事務局のリュウ・ジェンミン経済社会問題担当事務次長を表敬訪問されました。

 

二宮委員長は、同事務次長に対して、あらためて経団連の取り組みを説明し、今後の協力について意見交換されていらっしゃいました。

 

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©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

ジェンミン事務次長からは、経団連の取り組みへの歓迎の言葉がありました。経団連の会員企業はみな影響力のある企業であり、より活発にSDGsの達成に向けて取り組みを進めてもらいたい、他国の取り組みを支援してほしいと日本企業への期待を述べました。

 

昨年のビジネスフォーラムにも出席された二宮委員長はそれ以降、国連の多くの幹部職員と会って、詳しく話しを聞いてきたことによって、経団連SDGsへの理解を深め、それが企業行動憲章の改定にもつながったと述べられました。日本の企業も中長期計画のなかにSDGsを組み込み、その推進の動きがでてきているとし、日本の企業の取り組みの事例を掲載した小冊子を手渡して説明され、来年再会するときには、さらに事例をもって増やしてお見せできるようにしたい、民間の活発な取り組みへの事務次長の期待に応えたいと述べられました。

 

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©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

ビジネスとSDGs -日本企業の情報発信

 

18日(水)には、“Business and SDGs ―Insights from Chief Sustainability Officers & sustainable champions”をタイトルに冠したスペシャル・イベントが開催されていました。このイベントは、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)と国連経済社会局の共催です。

 

**WBCSDとは、持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO主導の組織で、持続可能な世界への移行を加速化するために協働しています。参加企業はすべてのビジネスセクター、すべての主要な国にまたがり、収益を合計すると、8.5兆ドル、社員は1900万人に及びます。

 

このスペシャル・イベントでは、日本語の同時通訳も提供されていました。

 

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サイドイベント“Business and SDGs” ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

同イベントにおいては、朝9時から10時20分まで、「SDGソリューションズ・ワークショップ」と題するセッションで、WBCSDのマネジング・ディレクターのフィリッポ・ベグリオ氏が司会進行し、UPMキュンメネのエグゼクティブ・ヴァイスプレジデントのピルコ・ハレラ氏、ネスレのシニア・マネージャーのヘレン・メディナ氏、ヴァーレ・インターナショナルのエグゼクティブマネージャーのグローザ・ジェズエ氏、DSM ヴァイス・プレジデントのジェフ・ターナー氏、そして富士通総研から生田孝史主席研究員がパネリストとして参加し、それぞれの企業内の取り組みを共有し、SDGsの統合に関して課題と解決の模索を議論していました。

 

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生田主席研究員 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

生田主席研究員は、富士通の理念・指針である「FUJITSU Way」はSDGsの精神に合致するものであることを述べました。そして、富士通グループが以前から人間を中心に置いた「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」の実現を目指して、テクノロジーを活用するとともに新たなイノベーションを創造しており、その活動とSDGsの方向性は一致していることを強調しておられました。また、2017年3月、国連開発計画(UNDP)と東北大学・災害科学国際研究所が設置した災害統計グローバルセンター(GCDS)に新たに設置される、「グローバルデータベース」の構築・運営に関するパートナーシップを締結したこと、このパートナーシップを通じて、世界の自然災害に伴う損害の削減に取り組んでいることなどを紹介されていました。

 

前日のビジネスフォーラムと同様、同イベントの会場にも、経団連の二宮委員長をはじめ、日本の企業の方々が足を運び、熱心に聴講しておられました。SDGsをどのように企業活動に根付かせていくのかを学ぼうとする企業の皆さんの熱心さがつよく伝わってきました。

 

次回は、HLPFにおける市民社会の情報発信とインタビューをお届けします。

 

国連ハイレベル政治フォーラム×SDGs×日本 【連載No. 2】

HLPFでの日本政府の情報発信取材と星野大使インタビュー 

 

みなさま、こんにちは。国連広報センターの千葉です。

 

前回に引き続き、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の取材のためのニューヨーク出張について、ブログを綴らせていただきます。

 

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国連総会ビル(左)と事務局ビル(右) ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

前回のブログでご説明したとおり、今年のHLPFにおいて、日本の自発的国別レビュー(VNRs)はありませんでしたが、日本による情報発信がなかったということはなく、いろいろなセクターで、日本の方々がSDGsに関する情報を発信していらっしゃいました。

 

今回から、HLPFを起点として、私がみた日本関連のイベントやお会いした日本人の方々を政府、ビジネス、市民社会など、それぞれセクターごとにご紹介してまいりたいと思います。

 

今回のブログは、日本政府関連のイベントやインタビューをお届けします。

 

HLPFの閣僚会合が開催されていた16日(月)~18日(水)、日本政府代表部と環境省がそれぞれに中心となってイベントを主催されていました。まずは、それらのイベントを簡単にご紹介します。また、日本政府代表部をお訪ねして星野大使にインタビューをすることができましたので、最後に、その貴重なお話しを共有させていただきます。

 

日本政府代表部レセプション

 

ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の閣僚会合がスタートした16日(月)は午後6時15分から国連総会ロビーで、日本政府代表部が主催した「Designing Future Society for Our Lives; Expo 2025 towards achieving SDGs」と題するレセプションが開催されました。SDGsをメインテーマに掲げた2025大阪・関西万博の招致をPRするためのレセプションです。

 

私はその日の午後には国連本部近くにある政府代表部などをお訪ねしたあと、少し早めに会場に着きましたが、会場では政府代表部の方々が関係者とともに忙しそうに準備にあたっておられました。

 

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開始時刻。司会の方からレセプションの開始を宣言すると、ステージ上にビデオ映像が流れ、別所浩郎大使がご挨拶を述べ、岡本三成・外務大臣政務官をご紹介されました。

 

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岡本政務官は、安倍晋三首相が今年6月のSDG推進本部会合でSDGsを日本の国家戦略の主軸とすることを決意し、政策の強化拡大を示したとして、その3つの柱を説明されました。まず第1に、企業と連携した科学・技術・イノベーションを通じたSDGsを促進し、人間を中心に据えた社会の実現を図り、Society 5.0などによって、経済成長と社会課題の解決の双方を達成することをめざすこと、それと同時に、日本が共同議長を務めたSTIフォーラム(multi-stakeholder forum on science, technology and innovation)での議論を踏まえて、“SDGs for STI”の推進に主導的な役割を果たしていくこと。第2に、日本国内においてSDGsによる地方創生を促進するとともに、そうした地方の努力を世界に向けて伝えていくこと。第3に、SDGsの主要プレイヤーである女性と次世代のエンパワーメントを図るべく、保健や教育の分野での国際協力を強化すること。これらが3本柱で、2025年、大阪に万博を誘致し、その実現を図りたい、と岡本政務官は流暢な英語で述べておられました。2025年という年は、今からおよそ7年後、SDGsの達成期限となる2030年までにあと5年というときです。

 

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岡本政務官に続いて、吉村洋文・大阪市長がステージに立ち、万博の誘致、それを通じたSDGs、持続可能な未来社会の実現への貢献を訴えました。さらに、二宮雅也・経団連企業行動・CSR委員長もご挨拶され、Society 5.0を通じた経団連の取り組みを紹介するとともに、乾杯の音頭をとられました。大阪市長も二宮委員長も岡本政務官同様、雄弁な英語でのスピーチをなさっておられました。

 

ゲストの方々のスピーチの間に、SDGsの普及啓発に全社をあげて取り組む吉本興業に所属するKAMIYAMAさんが参加して、会場に設置されたステージで、「SDGs×大阪万博×パントマイム」というテーマでつくったオリジナルのパフォーマンスを披露しました。バーンスタイン作曲のラプソディー・イン・ブルーの音楽が会場に流れると、KAMIYAMAさんがステージに登場。パントマイムとマジックを融合させて創作したちょっと不思議でおしゃれなKAMIYAMAさんの世界が繰り広げられました。

  

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KAMIYAMAさん ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

最初はきょとんとしていた小さなお子さんたちもKAMIYAMAさんのパフォーマンスに次第に引き込まれていくのがわかりました。パフォーマンスの最後には、SDGsの17の目標をあらわすさまざまな色のカードで高く組みあげたお城がステージ中央に現れ、会場に華やかさが加わりました。

 

私はパフォーマンスを終えたKAMIYAMAさんにお話を伺ってみました。KAMIYAMAさんはとても謙虚なお人柄で、今回このレセプションで、SDGsをテーマに演技を披露できることをたいへん光栄に思います、とおっしゃっておられました。芸術家の故・岡本太郎さんが大好きで、その芸術作品におおいに触発されているというKAMIYAMAさんは今後、SDGsへの貢献をさらに考えるとともに、それに着想を得たパフォーマンスをもっと開発していきたいと意欲を示しておられました。

 

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ゲスト写真撮影©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

レセプションの後半では、ピカチュウも参加して、スピーチを終えた方々、そしてKAMIYAMAさんと全員一緒に写真撮影。そのあと、ピカチュウは会場に来られていたたくさんのお子さんたちと交流し、人気を集めていました。

 

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子どもたちに囲まれるピカチュウ ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

日本の官民一体となったSDGsへの取り組みを情報発信したレセプションは国連総会ロビーに集う人たちを笑顔にしていました。

 

環境省イベント 

翌17日(火)と18日(水)には、環境省が中心となって、今年のハイレベル政治フォーラムのテーマ別レビューの対象となった6つのゴールのうちの2つに焦点をあてたサイドイベントが行われていました。ゴール11(住み続けられるまちづくりを)に関連したサイドイベントとゴール12(つくる責任、つかう責任)をテーマにした2つの会議です。

 

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まず、ゴール11(住み続けられるまちづくりを)にフォーカスした会議が、17日(火)の午後6時半―8時に開かれました。「アジア太平洋地域における持続可能な都市に向けて("Toward Sustainable Cities in Asia-Pacific")」をタイトルに冠した会議でした。日本政府が国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、地球環境戦略研究機関(IGS)、慶應大学SFCと共催しました。アジア太平洋地域の都市が直面する課題についての議論です。高橋康夫・環境省地球環境審議官が冒頭挨拶で、諸課題解決のために国を超えたパートナーシップの必要を訴え、慶応大学の蟹江教授が基調講演において、地方での諸行動が国およびグローバルな活動の成否のカギを握るとの旨を強調されていました。続くパネル・ディスカッションでは、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の竹本和彦所長がモデレーターを務め、そのなかで、内閣府岡本事務局次長が、日本における「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」発足などについて述べられていました。また、北九州市から北橋市長も参加し、同市が過去に公害を克服した歴史などの説明をされました。

  

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ゴール12にフォーカスしたサイドイベントは、18日(水)の午後6時半―8時に開催。日本政府が、インドネシア政府、タイ政府、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、アジア太平洋SCP円卓会議(APRSCP)、PECoP-Asia(環境研究総合推進費戦略研究S-16)、地球環境戦略研究機関(IGES)と共催した会議です。タイトルは、”SCP in Asia and the Pacific for Accelerated Achievement of SDGs”。前日のサイドイベントで冒頭挨拶を述べられた環境省の高橋地球環境審議官がここでは、日本のSCP(Sustainable Consumption and Production)に関連する国家戦略として、第5次環境基本計画、第4次循環基本計画を策定、実施することを通じて、取り組みを進めていることを紹介していました。また、国立環境研究所・主任研究員の田崎智宏さんも参加し、持続可能な消費と生産の取り組みを進めていくうえで、政策担当者が創造力を発揮することの必要を述べておられました。

 

インタビュー:星野大使

日本政府代表部のレセプションが行われた16日午後、私は国連本部近くにあるニューヨーク日本政府代表部をお訪ねして、星野俊也大使(次席常駐代表)にお話しをお伺いすることができました。

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星野俊也大使 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

星野大使は 今年6月5日(火)~6日(水)にニューヨーク国連本部で開催された、「第3回STIフォーラム(the third annual multi-stakeholder forum on science, technology and innovation)」の共同議長を務められた方です。各国政府代表、科学者、イノベーター、テクノロジー専門家、ビジネスリーダー、起業家、市民社会組織代表など、多様なステークホルダーが参加し、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を後押しする科学技術やイノベーションの役割を討議する場で、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)を前に、毎年2日間の会期で開かれます。政府代表部のレセプションでのスピーチで岡本外務大臣政務官がその重要性を指摘したのがこのSTIフォーラムです。今年が3回目で、参加者数はこれまでを上回り、およそ1,000人に達したそうです。

 

日々超過密なスケジュールでお忙しいのにもかかわらず、星野大使はお優しい笑顔とゆったりした雰囲気で迎えてくださいました。

 

とても興味深いお話しをお聞きすることができましたので、ご紹介したいと思います。

 

星野大使は、まず、日本政府がその推進に努力する「人間の安全保障」の理念が持続可能な開発目標(SDGs)に反映されていることの意義にふれ、誰一人取り残さずに持続可能な世界を実現するためには、SDGsと人間の安全保障が「車の両輪」となっていくことが大切、とりわけ、「誰一人取り残されない」という目標を目指しながらも、恐怖や欠乏、尊厳の欠如のなかに取り残されていたり、取り残されかねない状況におかれていたりしている世界の人々を実際に保護し、潜在力を高める人間の安全保障のアプローチはこれからますます重要になると強調されました。

 

大使は、また、今後、人口知能(AI)をはじめとする最先端の科学技術がわたしたちの日常生活に入り込むなか、人間にしかできない役割や人間の存在理由そのものにかかわる根源的な問いかけにこたえていく視点としても人間の安全保障の理念が役立つのではないかと述べられました。

 

そして、SDGsについては、それが政治的な交渉を経て生まれた妥協の産物であることから不備がないわけではないわけではないにしても、幅広いステークホルダーを巻き込み、加盟国の間のハイレベルでの合意を通じて国際社会の共通の目標を設定するという国連ならではの外交の成果物としての正統性が最大の強みであり、それを最大限に活かすべきと指摘しておられました。かつてリンカーン米大統領ゲティスバーグ演説で、人民の人民による人民のための政治を訴えたが、今はまさにSDGsこそ、人々の、人々による、人々のための取組であると考えて、各国政府も自治体も民間セクターも市民一人ひとりも、全員参加で、SDGsを合言葉に共同して行動することが大切であると強調されました。

 

SDGsの実現に果たすビジネス界の大きな役割をさらに前進させるため、星野大使は、企業の方にお会いになるたびに、SDGsの目標やターゲットを自社の本業に取り込むこと、本業との接点がすぐに見えなければあえて結びつきを探るなかに新しいビジネスチャンスやイノベーションに見出されるはずとお話されるそうです。大使は、さらに、SDGsは2030年を当面のゴール年にしてはいますが、大切なのは2030年を超えた先の世界で人々が持続可能な生活を送れているかどうかだと述べ、わたしたちが2030年を超えた未来への思いを胸に現在の日々の暮らしや活動を見直し、必要な行動をとる意義を語ってくださいました。

気がつけば、あっという間に30分以上の時間が経っていました。貴重なお話しとともに、星野大使のあたたかく気さくなお人柄も強く印象に残った30分でした。
 

―――

今回のニューヨーク出張に際して、私は日本政府代表部の岸守一参事官(下写真)にとてもお世話になりました。
 

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日本政府代表部の岸守参事官  ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

岸守参事官は冷静かつ誠実にお話しになる方です。そして誰に対しても分け隔てなくお優しい方で、ニューヨークを訪れるのが初めてで、ひとり不安な私を昼食にお誘いくださったり、また代表部を恐縮するほどていねいにご案内してくださったりしました。星野大使のお話しを伺うことができたのも岸守参事官のご配慮によるものでした。

 

日本政府代表部の報道官としてお忙しい日々を送っていらっしゃるはずなのにと思うと、感謝の念に堪えません。この場をお借りして、あらためて岸守参事官に深い謝意をお伝えしたいと思います。

 

次回のブログは、HLPFにおける日本の企業の情報発信に関する取材をお届けします。 

(参照)
第3回ブログ ~ HLPFでの日本企業、経団連の情報発信について
第1回ブログ ~ ニューヨーク国連本部でみたハイレベル政治フォーラム

 

国連ハイレベル政治フォーラム×SDGs×日本 【連載No. 1】

ニューヨーク国連本部でみたハイレベル政治フォーラム

 

こんにちは。国連広報センターの千葉です。

 

7月15日(日)から19日(木)まで、4日間の日程で、ニューヨーク国連本部に出張してきました。

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ダグハマーショルド図書館側から臨む国連事務局ビル ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

その目的は、同月9日(月)―18日(水)に国連本部で開催されていたハイレベル政治フォーラム(HLPF)と日本関連のイベントやSDGs達成のために汗をかく日本人の方がたを取材して日本のみなさまにお伝えすることでした。

 

昨年のHLPFは岸田外務大臣(当時)が出席してSDGs達成をめざす日本の取り組みを報告したり、日本政府からSDGs推進大使に任命された「ピコ太郎」さんがその開催期間にあわせて国連本部を訪れてSDGs風にアレンジしたPPAPのパーフォマンスを披露したりするなどして、メディアにもかなり取り上げられたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。ちなみに、昨年は、国連連広報センターが主催する「Spotlight SDGs展」が、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)が始まる7月10日(月)から1カ月間開催され、「ピコ太郎」さんも見学に来られました(下写真)。

 

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でも、最近の電通の調査で、SDGsの認知度がわずかに15%前後であったことを考えれば、日本の全人口を分母とした場合、現時点で、政治という言葉を含み、すこし堅苦しさのある名称のイベントをよく知っているという方は決してそう多くはいらっしゃらないのではないかなと思います。

 

そこで今回はまず、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)そのものについて簡単にご説明し、その後、次回から数回にわたって、HLPFを起点とする日本関連のイベントと私が出会った素敵な日本人の方がたを政府、ビジネス、NGOなどセクターごとにご紹介してまいりたいと思います。

 

多くの方にHLPFに関心をもっていただくきっかけとしていただければ幸いです。

 

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ハイレベル政治フォーラム閣僚会合 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

ハイレベル政治フォーラム(High-level Political Forum = HLPF)とは、一言で申し上げれば、グローバルなレベルで、2030アジェンダSDGsのレビューとフォローアップを行う場です。HLPFで、世界の国々がSDGsの達成をめざすべく、さまざまなステークホルダーの関与のもとに、進捗状況を報告して経験を共有したり、SDGsを目標ごとにレビューしたりするのです。

 

その開催期間中には、市民社会やビジネスなどから、たくさんの方々がニューヨークに参集します。

 

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冒頭セッションは参加者が限定され、信託統治理事会議場で傍聴 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

ハイレベル政治フォーラムとは ー VNRs、MGoSって何?

 

ハイレベル政治フォーラム(HLPF)という名称からだけでは、SDGsとの連関を類推することは困難かもしれませんが、その前身は、国連経済社会理事会の機能委員会のひとつ、53か国構成の持続可能開発委員会(CSD)です。それは、1992年の地球サミットをフォローアップすべく、持続可能な開発という新しいコンセプトに関する初の画期的な国連機関として設置されたものでした。主要グループなどの幅広い参加を可能にしたことなど、目に見える成果をあげてきた委員会でしたが、そのうちに持続可能な開発の3側面を代表する人々が幅広く集まるというよりも、環境分野の人々が集う「環境委員会」として認識されるようになってしまったということなども指摘され、20年後の2012年には、CSDに代わって、全加盟国が参加する、より実効的でより高い政治レベルのフォーラムへと格上げして設置されました。その後、2015年には、前述のフォローアップとレビューのため、各国が自国の取り組みについて、グローバルな場で自発的に報告するVoluntary National Reviews =VNRsというしくみなどをつくるなどして今にいたっています。日本が昨年、自国の取り組みを報告したメカニズムこそ、このVNRsです。

 

HLPFは毎年、経済社会理事会のもとに開催されますが、4年に一度は、国連総会のもとに首脳レベルでも開催されます。そこが、HLPFがHLPFたる所以なのですが、HLPFは単に経済社会理事会のもとの機能委員会の一つとしてつくられたCSDとは違うのです。来年がこの4年に一度の年であり、経済社会理事会と総会という国連の2つの主要機関のもとで、それぞれ7月、9月に開催されることになります(会期はそれぞれ8日間と2日間)。来年は、日本は首脳級のHLPFを見据えて、自国の取り組み状況の確認と見直しを実施するということがSDGs推進本部の実施指針にも明記されており、世界と日本の取り組みにおいて、注目の年と言えるでしょう。

 

さて、今年のHLPFは、「持続可能でレジリエントな社会への変容」というテーマのもと、7月9日(月)~18日(水)に開催されました。参加者の総数は、市民社会やビジネス界、その他のステークホルダーからおよそ2,200人(政府首脳、閣僚が125人)に上りました。

 

前半の9日(月)~13日(金)はテーマ別レビュー。今年のテーマ別レビューで、フォーカスをあてて扱った目標は、6(安全な水とトイレを世界中に)、7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)、11(住み続けられるまちづくりを)、12(つくる責任つかう責任)、15(陸の豊かさも守ろう)、17(パートナーシップで目標を達成しよう)でした。

 

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エクアドルキリバスリトアニア、マリのVNR ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

私が出張した後半の16日(月)~18日(水)の3日間が閣僚レベル会合で、前述のVNRsが行われていました。VNRsについては毎年、次第に参加国が増えており、今年は46カ国がVNRsに臨みました。これは第1回(2016)の22カ国の約3倍。VNRsに臨んだ国は今年で110か国を超えました。2030アジェンダの基本的な原則はプロセスが参加型で包摂的であることですが、VNRsはまさにパートナーシップを体現する場で、MGoS(主要グループとその他のステークホルダー)も参加して、成功、課題、教訓といった経験を共有します。

**MGoSとは、Major Groups and other Stakeholdersの頭辞語です。1992年で採択された「Agenda 21」が、社会の9つのセクター(女性、子ども/若者、先住民、NGO地方自治体、労働者/労働組合、ビジネス/産業、科学技術界、農業従事者)を主要グループとして、持続可能な開発に関連する国連活動への広範な人々の参加の促進を謳いました。現在、その他のステークホルダーが加えられ、MGoSと呼ばれるようになっています。政府間プロセスにおけるMGoSの参加の様態を決めるのは加盟国です。

私がみたVNRs初日の16日(月)はエクアドルキリバスリトアニア、マリなどの国がパネル方式で、ギニアギリシャ、メキシコ、アラブ首長国連邦が個別方式で、報告を行い、他国やMGoSなどからのさまざまな質問に答えていました。
 

昨年に自主的な報告を行った日本は今年、このVNRに臨む国のなかに入っていませんでしたが、現地では、日本の政府、ビジネス、市民社会の方々がサイドイベントやレセプションを催したり、そこに登壇して、それぞれ情報発信し、あるいはそれらに参加して、各国の取り組みに学んだりされていました。

 

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SDGメディアゾーン  ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

フォーラム期間中を通じて開催されたスペシャル・イベントは全部で8つ、サイドイベントは昨年より4割増えて260件です。スペシャル・イベントは、世界の企業の代表たちが集まる「ビジネスフォーラム」や、世界の市長たちが集まる「地方・地域政府フォーラム」(今回初開催)など。サイドイベントは多種多様で、国連広報局もSDGメディアゾーンを設置して、16日(月)と17日(火)の二日間にわたって、NGOや企業の代表者、著名人などのインタビューを生中継していました。HLPFは、まさに年に1度のSDGsに関するグローバルな祭典といえるものだと感じました。

 

SDGsの達成に欠かせないビジネスの役割

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ビジネスフォーラム ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の開催中、もっとも強く印象に残ったことのひとつは、ビジネスフォーラムとそこに参集していた多くの企業のプレゼンスでした。ビジネスフォーラムとは、SDGsのレビューを行うハイレベル政治フォーラム(HLPF)の期間中、同フォーラムと並行して開かれ、世界の企業や政府、国連などを代表する人々が登壇して、官民一緒になって、丸一日、2030アジェンダ/SDGsについて議論する場です。国際商工会議所(ICC)、国連経済社会局(UN-DESA)、国連グローバルコンパクトの共催です。2016年にはじまって今年が3回目。今年は7月17日(火)に開かれました。国連事務局から副事務総長、経済社会問題担当事務次長、経済社会理事会から議長がそろって出席していることからも重要な位置づけのイベントであることがわかります。ちなみに、ビジネスフォーラムが開催された会場は経済社会理事会議場でした。世界各地からビジネスフォーラムに集う企業の方々を見ていると、あらためてSDGsの達成においては企業の役割が死活的に重要であることを思うともに、企業にとっても今後の企業活動においてSDGsを本業に深く組み入れていくことが不可欠になっているのだということをつよく実感しました。

 

HLPFの最終日には、政治的に交渉された閣僚宣言が採択されましたが、採択の直前には、グテーレス事務総長が演説し、多国間主義こそが、私たちが直面している複雑で互いに絡み合った長期的課題に立ち向かうための唯一の方法である、と訴えていました。

 

日本を含めてHLPFに参加した国々による採決に付された閣僚宣言は、賛成164、反対2(米国、イスラエル)、棄権0という圧倒的な賛成多数で採択されました。私の座った傍聴席には、全会一致とならなかったことを残念に思っている人が多くいましたが、議長が壇上から閣僚宣言の採択を告げると、会場全体から大きな拍手が沸き起こりました。31のパラグラフで構成される宣言は、持続可能な開発のための2030アジェンダの実効的な履行に取り組んでいくことをあらためて確認していました。

 

今年の閣僚宣言全文

 

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ハイレベル政治フォーラム最終日、事務総長演説 ©UNIC Tokyo/Kiyoshi Chiba

 

"このままのペースでは間に合わない"

 

経済社会理事会の議長が今年のHLPF総括サマリーを発出していますが、それによれば、今年のHLPFでは、SDGsに対するコミットメントが強くなっていることが明確でした。多くの国々において、SDGsがその国の開発計画や戦略に組み込まれ、2030アジェンダ、パリ協定、仙台枠組み、アディスアベバ行動計画などとの一貫性を図る努力がなされ、SDGsのゴールとターゲットに関連する多くの分野で進展があったのです。しかし、同時にまた、数々の前向きな傾向にもかかわらず、SDGs達成に向けた道のりはまだ長いという、SDGs進捗状況に関する事務総長報告が発したメッセージはそのまま今年のHLPFの重要なメッセージともなったようです。誰一人として取り残さないための取り組みが順調に進んでいるとは決して言えず、とくに、極度の貧しさに喘ぐ人たちは、不平等の拡大、技術発展の負の影響、気候変動などによって、さらに取り残されているのです。

 

今回、私がハイレベル政治フォーラム(HLPF)に実際に参加して各所で強く感じたのも、SDGsの達成に向けてこのままのペースでは間に合わない、急がなければならない、という雰囲気でした。

 

次回は、HLPFにおける日本政府のイベントやインタビューをお届けします。

(参照)

→ 第3回ブログ ~HLPFでの日本企業、経団連の情報発信について

→ 第2回ブログ ~HLPFでの日本政府の情報発信取材と星野大使インタビュー

女性と女児に対する暴力を「自分ごと」でとらえるために

 

女性と女児に対する暴力。

自分の身近で起こっているかもしれない、そう思ったことはありますか。

 

身体的暴力や心理的暴力、セクシャルハラスメントなどを思い浮かべるでしょうか。

実は、人身売買や児童婚、女性器切除などの文化的慣習も「暴力」に含まれます。

 

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国連平和維持要員に救出された少女(紛争中に13歳でレイプされ妊娠)とその赤ちゃん ©UN Photo/ Eskinder Debebe

 

今年は世界人権宣言70周年。

そして、6月19日は国連総会で制定された「紛争下の性的暴力根絶のための国際デー」。

 

これに合わせて、国連広報センターと駐日欧州連合EU)代表部は6月19日、国内外の女性と女児に対する暴力撤廃に関するハイレベル・セミナーを開催し、世界、日本、そして欧州それぞれの視点から国内外の女性と女児に対する暴力について考えました。

プログラムやパネリストの詳細は、こちらをご覧ください。

 

***

 

セミナーの冒頭には、プラミラ・パッテン 紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(ビデオメッセージ)、ダーク・ヘベカー 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表、そしてヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ 駐日EU大使によるスピーチがあり、ジェンダーにもとづく暴力は基本的人権の侵害であり、ジェンダーの平等や女性のエンパワーメントを掲げるSDGsや人権など普遍的価値のもと、早急に包括的なアプローチを取ることの重要性を訴えました。

 

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(左から)パッテン 事務総長特別代表(ビデオメッセージ)、ヘベカー UNHCR駐日代表、そしてイスティチョアイア=ブドゥラ EU大使 ©UNIC

 

***


続くパネルディスカッションでは、日本政府やEU代表部、国連機関、企業のパネリストが、女性と女児への暴力に対する各分野からのアプローチについて、点と線でつなぐように活発な議論を交わしました。

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パネルディスカッションのモデレーターを務める、根本かおる 国連広報センター所長 ©UNIC

 

パネルディスカッションの冒頭にまず、立教大学大学院教授・難民を助ける会(AAR Japan)理事長の長 有紀枝さんが、紛争の現場で見た性暴力サバイバーについて話しました。

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南スーダン難民の少女を紹介する長さん ©UNIC


特に、長さんがウガンダで出会った、軍の兵士にレイプされた14歳の女の子、ローダさんの言葉が重く響きました。

 

「レイプで生まれたこの子を育てる以外に私に何ができますか」

 

紛争下の暴力を、遠くのどこかで起こっていることだと、つい思ってしまうけれど

「向こう側にいるのは私だったかもしれない」

そういう意識を持つことがはじめの一歩になるのだ、というメッセージは

心に訴えるものがありました。

 

***

 


「なぜ、性暴力はいけないことなのか?」

 

この根本的な問いを投げかけたのは、UN Women日本事務所の石川 雅恵さんです。

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石川 雅恵 UN Women 日本事務所 所長 ©UNIC


「女性であるから」「暴力を受ける」。

 

これはジェンダー平等と人権という普遍的価値に反する、二重の侵害なのです。

さらに、こうした「暴力」による社会的な損失は世界全体で150兆円に上る、という衝撃的な事実があります。

ジェンダーに基づくあらゆる暴力の根絶には、社会全体で取り組まなければならない、
ということを改めて実感しました。

 

***


では、女性と女児に対する暴力に対して、実際にどのようなアプローチが取られているのでしょうか。

 

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たとえば、スポットライト・イニチアチブ

国連とEUが一緒に、女性と女児に対する暴力という、隅に追いやられがちな問題にスポットライトを当てて、皆で取り組むことを目指しています。

  

そして、HeForShe

ジェンダー平等は女性だけで達成できるものではありません。

「男性100人のうち99人は女性のことを思って声を上げてくれるのではないか」

そんな考えのもと、男性もジェンダー平等への変革の主体となってもらおう、と2014年にUN womenが始めた社会全体を巻き込むキャンペーンです。

 

  

***


紛争下での性的暴力は、しばしば女性を傷つけるだけでなく、家族や地域社会を引き裂く「武器」として用いられます。現在では、国際法上の犯罪やジェノサイドをも構成しうるとの判断が下されています。

すなわち、性的暴力は平和構築や安全保障に深く関わる重大な問題なのです。

国連安全保障理事会は、2000年に紛争下でのジェンダーにもとづく暴力を撤廃することを決議し、国連総会も2006年に女性に対するあらゆる暴力の撤廃を決議し、この問題に国際社会が体系的・包括的に取り組む決意を打ち出しました。

 

EUも、性的暴力を平和と安全保障と結び付け、またジェンダー平等と人権を普遍的価値と捉え、性的暴力の撤廃に向けて取り組んでいます。

EU代表部のファビアン・フィエスキさんが紹介したのは、EUの 共通安全保障・防衛政策(CSDP)です。

CSDPでは、平和構築や紛争予防、仲裁支援を通して、性的暴力の被害者のカウンセリング支援や児童婚の撤廃に取り組んでいます。

 

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ファビアン・フィエスキ 駐日EU代表部政治部 部長 ©UNIC

その経験から、世界中のあらゆる性的暴力を撤廃しなければならないこと、またそのためには予算や制度を整えることが重要だと強調しました。


***

 

日本でも、女性と平和・安全保障の関連に注目が集まっています。

外務省 総合外交政策局 女性参画推進室 室長である北郷 恭子さんが紹介したのが、国際女性会議 WAW!  です。

2014年から毎年、女性と平和・安全保障をテーマの1つにしています。

「女性が保護されるべき存在としてだけでなく、平和を築く主体となる」

その考えのもと、日本政府は、紛争下での性的暴力をなくすために、被害者支援や、性的暴力をきちんと裁くための法制度整備などの支援をアフリカなどで行っています。

 

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WAW!の紹介をする外務省の北郷さん ©UNIC

また、安保理決議1325 に基づいて策定された日本の行動計画では、紛争後の地域社会の再建などの取り組みを自然災害への対応に活かし、避難所や防災計画の意思決定に女性の視点を取り入れることを盛り込みました。

 

国外で起こっていることを「自分ごと」として考える意識を持とう。

そんな思いを胸に刻みました。


***


女性に対する暴力撤廃を目指す取り組みでは、国際機関や政府だけではなく、企業も重要な役割を担っています。

複数の会社を経営する佐々木 かをりさんは、ビジネスの観点から女性のエンパワーメントを目指し、国際女性ビジネス会議ダイバーシティの「見える化」に取り組んでいます。

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佐々木 かをり ユニカルインターナショナル、イー・ウーマン代表取締役社長 国際女性ビジネス会議 実行委員長 ©UNIC

佐々木さんが大切にしていることは、

頭であれこれ考えて理解するよりも、多くの人に出会い多様性に触れて、「肌で感じる」こと。


これに対して、EU代表部のファビアン・フィエスキさんは、

「女性の権利は、子どもの権利に比べてコンセンサスを得るのが難しい。なぜなら、小さい頃は誰もが子どもだったけれど、女性であることは男性が直接経験できないことから。」

と、多様性を肌で感じることは、違う立場で物事を考え、女性の権利への理解を促すのではないか、と呼応しました。

 

身近なところで個人一人ひとりの意識を変えていくことは、民間セクターが一緒に取り組んでこそ実現できるのだと感じました。


***

 

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長の島田 由香さんは、グローバル企業でのダイバーシティ経営について紹介しました。

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25個のアイコンから成るユニリーバのロゴを説明する島田さん ©UNIC

 

ユニリーバが企業行動原則で大切にしていること、それは「尊重、尊敬」です。

自分が尊重されていないと感じたら、それを自由に伝えられる。

また、通報者を守りながら調査し、二度と同じことが起きないようにする、そんなシステムが整っています。

 

その背景にある大切な価値が「be yourself」

「自分らしくある」ためには、まず「自分が『自分』であるということを受け入れる」。

社員から、その子どもたちへ、そして多くの企業が一緒に取り組むことで「be yourself」の輪を広げ、社会全体を変えられるのではないか。

 

一見すると性的暴力の撤廃と遠い存在かもしれないけれど、企業が果たす役割は決して小さくなく、ビジネスの面からもグローバルに変化を促せるという強い思いが、ひしひしと伝わってきました。


***

 

セミナーの最後には、上川 陽子法務大臣が閉会の言葉を述べました。

女性の人権尊重と女性が活躍する社会の実現という2つの視点から性的暴力の根絶に取り組んできたことや、女性や女児に対する暴力の根絶につながる法務省の施策として、性犯罪対策の推進や小中学生に対するSOSミニレターの配布などの取り組みを紹介しました。

法の支配の担い手として、女性や女児に対する暴力の根絶、そして誰一人取り残さない包摂的な社会を実現する、という法務省の強い決意が表明され、セミナーは幕を閉じました。

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上川 陽子 法務大臣 ©UNIC

 

***

 

女性と女児に対する暴力が、自分の身近に起こっているかもしれない。

紛争下の性的暴力も、向こう側にいたのは自分だったかもしれない。

 

そんな、ジェンダーにもとづく暴力を「自分ごと」としてとらえる意識を持つ、

そして女性も男性も加害・被害者の関係を超えて、変革の主体として、

国際機関や各国政府、企業、個人それぞれが自分の足元から、

性的暴力の根絶へ、共に歩んでいく。

 

 

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女性に対する暴力撤廃の国際デーに演説するグテーレス国連事務総長 ©2017 UN Photo

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、性的暴力を絶対に許さないこと( zero-tolerance )を強く訴えています。 

 

今回のセミナーは、国連の重要課題である「女性と女児に対する暴力」について各界で活躍する方々の意見を聞く、大変有意義な機会となりました。

個人的にもその思いを強く確かなものとし、セミナーで学んだことを心に留めて、この課題に引き続き注目したいと考えています。

 

 ***

 

あなたも、社会を、そして世界を変える一人になりませんか。

 

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その一歩として、ご紹介したいのが世界人権宣言70周年のビデオ・キャンペーンです。

セミナー会場でもキャンペーンの撮影ブースを設け、多くの方にご参加いただきました。

人権について考え、その理念を世界に広める一歩はこちらから↓

http://www.unic.or.jp/news_press/info/24523/

 

 (インターン 布施)

 

 

 

【故郷を後にして70年。今も試練に直面し続けるパレスチナ難民と彼らを支援する国連機関UNRWA No.6】

連載第6回・最終回 顔の見える支援で日本とパレスチナが繋がる

 中東でパレスチナ難民が発生して今年で70年となります。彼らの多くは今も故郷に戻ることができず、ヨルダン、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸地区、およびガザ地区で主にUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関、「ウンルワ」と呼ぶ)から最低限の支援を受けながら暮らしています。難民としてのこれほど長い歴史は、彼らの「人間としての尊厳」が脅かされてきた歴史でもあります。

イスラエルにとって今年は建国70周年。米国政府が聖都エルサレムイスラエルの首都と認め、2018年5月14日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移しました。これが大きなきっかけとなり、パレスチナでの緊張が一挙に高まり、和平への道のりはさらに遠くなりつつあります。国連広報センターの妹尾靖子(せのお やすこ)広報官は、2018年4月16日からの約二週間、UNRWAの活動現場であるヨルダン、西岸地区およびガザ地区を訪問し、難民の暮らしと彼らを支えるUNRWAの活動をはじめ日本からの様々な支援を視察しました。

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2018年3月13日、1,000人以上のパレスチナ難民の子どもたちがガザ地区のハンユニスの職業訓練所に集まり、日本とパレスチナの連帯を祝して凧揚げを実施。2011年の東日本大震災以降、毎年この凧揚げが実施されている © 2018 UNRWA Photo by Rushdi Sarraj

 

日本とパレスチナ、対等のパートナーとして信頼を醸成

今回の視察では、UNRWAの活動を中心に日本からのパレスチナ難民に対する大小様々な支援を見てきました。その中で気づいたのは、一つひとつの支援に魂を注ぐためには、対等なパートナーとして支援される側とする側が信頼を醸成していくことが必要だということです。日本は政府、JICA、市民団体など幅広いレベルで様々なアクターがパレスチナ支援を行っています。私がこの視察で感じる限り、関わる人々は支援される側の複雑な気持ちや深刻な状況を把握し、きめ細かくサポートしていました。欧米のようにパレスチナの歴史に直接的に関わった経験は日本にはありません。その意味でより中立的な立場でパレスチナに関わることができるのは支援するうえで利点になるかもしれません。しかし、現場を視察してみると、パレスチナ難民に日本からの支援が継続的に高く評価され、感謝されている所以は、支援に関わっている日本人がパレスチナ難民を対等のパートナーとして応援しているからだと気づきました。

 

ガザの空高く舞う凧、日本とパレスチナの連帯の象徴

日本とガザとの強い絆を表すものとして、毎年3月にガザ南部のハンユニスで行われている凧揚げがあります。これは、2011年の東日本大震災の犠牲者を追悼し、被災地の復興を祈るために、2012年から毎年3月にUNRWAが催しているものです。今年も3月13日、1,000人以上のUNRWAの学校に通う難民が参加しました。「今年になってガザの状況が悪化したので、凧揚げは中止かと心配していましたが、先生がこれまで通り実施すると言ったのでとっても嬉しかったです。地震津波で大きな被害を受けた岩手県釜石市の高校生ともインターネットで交流しました。釜石もガザもつらい経験をして、共通点があります。」と、凧揚げに参加したUNRWAアルアマル女子中学校のラマ・シャクーラさん(12歳)は日本と日本の人々への感謝や日本とガザの連帯について語っています。(UNRWA記事資料より)

ガザと釜石市との交流は、2015年11月、ハンユニスのUNRWA 女子中学校のラーウィア校長と3名の難民生徒が訪日した際に深まりました。(連載第2回 パレスチナ難民の子どもたちの未来を切り開く「教育」を参照)

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2015年11月、ガザから訪日したラーウィア校長(右端)と3名の中学生はピエール・クレヘンビュールUNRWA事務局長(右から3人目)と清田保健局長(右から2人目)と共に野田武則釜石市長(右から5人目)を表敬した。© 2015 UNRWA Photo

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ラーウィア校長(中央)と生徒たち。ハンユニスのUNRWAの女子中学校で ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

幾度の戦闘を経験しているガザの人々は、地震津波の甚大な被害を受けた日本の痛みがわかるのでしょう。これだけ多くの難民の子どもたちが参加する凧揚げが毎年実施されていることは、日本の人々にどれだけ知られているでしょうか。支援する側の日本がいつの間にかガザの人々に心配され、熱い声援を受けているのです。人と人との繋がりから生まれたこの絆は、今後も大切に育んでいかなければならないと強く感じました。

 

日本人職員の存在で、絆がより確かなものに

実は日本とガザの交流の実現には、一人の日本人女性の活躍がありました。当時、特定非営利活動法人 日本リザルツの職員として釜石でガザとの交流プロジェクトを担当しており、現在はUNRWAガザ事務所の渉外・プロジェクト調整官を務める吉田美紀さんです。彼女は2016年にJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)としてUNRWAガザ事務所に入り、今年4月にJPO終了後、UNRWAの正規職員として引き続きガザで勤務しています。吉田調整官は、ガザに駐在する唯一の日本人です。今回の私のガザにおけるUNRWA活動の視察は、彼女の協力なしには実現しませんでした。

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吉田美紀UNRWA渉外・プロジェクト支援担当官。「Gaza Japan 2018」と記された今年の凧揚げ用の帽子をかぶって ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

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ハンユニスの凧揚げでの吉波佐希子UNRWA 上席渉外・プロジェクト担当官(中央)とサングラスをかけたラーウィア校長。今回のヨルダン川西岸地区での視察では、吉波上席渉外・プロジェクト担当官にお世話になった ©UNRWA Sachiko Yoshinami

 

パレスチナ難民のアイデンティティーである伝統刺繍へのきめ細かい支援

パレスチナと聞くと度重なる紛争で悲惨なイメージがつきまといがちですが、難民女性たちは70年という長い間、自分たちの文化をさび付かせないよう大切に育んでいます。その一例がパレスチナ刺繍です。今回の旅でパレスチナ刺繍を用いて素晴らしい作品を生み出している難民女性に多く出会いました。そこには、支援を惜しまない日本人の存在がありました。

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刺繍グループが自宅で作ってきた刺繍作品を点検するJVCエルサレム事務所の山村さんと刺繍グループのコーディネーターのマナールさん ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

イエス・キリストの生誕地ベツレヘム近くにあるUNRWA のベイト・ジブリン キャンプでは、難民女性のグループが刺繍をして生活の一助にしています。特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(JVC)は、ここでの刺繍プロジェクトに開始当初から関わっており、刺繍作品の数々はJVCを通して日本で販売されています。

「日本で販売するには高い質を維持することが求められます。大きなものは値段がはるので小物を多く作るよう提案しています。色やデザインも日本人の好みに合わせてもらっています。作り手もそれなりに自負があるので、素直に私たちのアドバイスを聞いてくれるとは限りません」と、JVCエルサレム事務所の現地代表を務める山村順子さんはプロジェクトの苦労を語ってくれました。山村さんは頻繁に難民キャンプの女性グループを訪ね、今では自分のお母さんほどの年齢になる女性たちを前に時には厳しいことも言える間柄になっています。「競争が激しい日本市場の現実を知ってもらうのは彼女たちのためになり、本当の支援となるはずです」、と対等のビジネスパートナーとして付き合うことの大切さを山村さんは強調しました。

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左からJVCエルサレム事務所の山村さん、刺繍グループのコーディネーターのマナールさん、メンバーのナフィーサさん、JVCインターンたち ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

難民女性に話を聞いてみると、刺繍は単に収入源になるだけではなく、孤立しがちな彼女たちに生きる楽しみを与えているようでした。「夫は女性グループの刺繍で出かけると言うと、安心して外出を認めてくれるのよ」、「刺繍のために集まっておしゃべりをしていると、日ごろのつらいことも忘れるわ」など、手も口も忙しく動きます。コミュニケーションを上手く用いて日頃のストレスを解消するのはどうやら万国共通の女性の技のようです。

UNRWA直営の唯一のパレスチナ刺繍センターがガザにあります。UNRWAの創設直後に設けられたスラーファ刺繍センターです。このセンターの製品を日本で販売しているのが、滋賀県在住の北村記世実(きたむら きよみ)さんです。19年前、ガザでボランティア活動に参加した北村さんは、パレスチナ伝統工芸品の通販を通してガザの難民女性の自立を支援しようと2013年にパレスチナ・アマルを起業しました。「『パレスチナのモノでおしゃれを楽しむ』をコンセプトに、ガザの女性たちが自信と尊厳をもって人生を輝かせることができればと願っています」と、今ではオンライン販売の他に全国各地で展示や販売会も積極的に行っています。

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2018年4月にFM草津に出演し、刺繍を通したガザの難民女性への支援について語る北村さん ©パレスチナ・アマル Kiyomi Kitamura

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ガザのUNRWAスラーファ刺繍センターのブランドブック。北村さんによって作成されました ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

スラーファには18歳以上の約300名の難民女性が参加し、その中には夫を亡くした女性や離婚者も多く含まれます。「毎日6,7時間は刺繍に没頭して、嫌なことも忘れます。私の家族には失業した男性が何人もいて、ここでの儲けは貴重です。多くて一ヵ月200シェキル(6千円ほど)ですが、先月は薬代に使いました」と59歳のウンム・ファワードさんが作業の手を止めることなく話してくれました。「外に出る機会があまりない難民女性たちにとって、刺繍は自宅でできる数少ない収入を得る仕事です。加えて、パレスチナの伝統を守ることは自らのアイデンティティーを強め、自信を与えています」とスラーファの責任者、アイーシャさんが教えてくれました。

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ウンム・ファワードさんはスラーファでのベテランのひとり。仕事は誰よりも早く丁寧だと一目置かれている ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

 

国際協力機構(JICA )による大規模な支援

冒頭にあるようにガザでは毎年凧揚げが行われ、日本からの支援に対する感謝と日本との連帯が表明されています。では具体的にどのような支援が行われているのでしょうか。ジェリコの農産加工団地(JAIP)というパレスチナ全体を支援するダイナミックなプロジェクトが動き出しています。これは日本政府の「平和と繁栄の回廊」構想の代表的な事業で、民間セクターの参加を促すことでパレスチナを含む地域の持続的な経済開発をめざしています。その実施を担っているのはJICAです。古代都市として有名であるジェリコ死海の近くに位置し、世界で最も標高の低い町です。4月でも40度を超える真夏日が続き、冬でもとても暖かく暮らしやすい場所です。2018年5月初め、パレスチナを訪問中の安倍晋三内閣総理大臣夫妻もJAIPを視察しました。

2018年5月現在、広大なJAIP の敷地内で37社のテナントが入居契約を済ませ,うち12社が稼働しています。若い女性起業家のラシャ・タリフィさんが、ナツメヤシから糖分を抽出してサプリメントにして販売するというビジネスのフル稼働に向けて準備をしていました。「乾燥したパレスチナの地でもよく育つナツメヤシに着目しました。昨今、ナツメヤシはミネラルが豊富で健康食品として人気があるんです」と、自らのビジネスの展望について熱く語りました。

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ナツメヤシから糖分を抽出する機械を前に自らのビジネスについて語るタリフィさん ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

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ナッツ販売を企画するテナントが導入したパッキング用の機械。パレスチナのでは生活習慣病予防のため、ナッツの摂取が推奨されている。JICAパレスチナ事務所の平田知美さん(左)がパッキングの出来具合をチェックする ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

 日本の支援は農産加工品を通した経済支援にとどまらず、JAIPを含む周辺地域から出る汚水処理のための下水道施設の建設にも及んでいます。「ここ西岸地区には、下水道施設が整備されていないところが少なくありません。多くの家庭では、汚水は各家庭の敷地にある浸透槽に貯められます。しかし、未処理のまま地下に浸透するので地下水が汚染されてしまいます。ご存知のように降水量が極めて少ないジェリコにとって、地下水は私たちの生活に不可欠です。この下水道施設のおかげで地下水の汚染が抑えられます」と、この施設の主任オムラン・カラフさんが説明してくれました。

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下水道処理施設が2016年に完成。左から本プロジェクト担当のJICAパレスチナ事務所の千葉真梨子さん、妹尾、本施設の主任カラフさん、UNRWA パレスチナ西岸地区事務所の安藤 秀行(あんどう ひでゆき)オペレーションサポート・オフィサー ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

 カラフさんの案内で下水施設の屋上に行くと、処理されてきれいになった水が農業用水に使われ、周辺にはこれまで存在していなかった緑が広がっていました。

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下水施設と周辺の広がる緑地 ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

難民の日々の生活の中でひときわ目立っているJICAの支援があります。JICAが2010年にパレスチナで導入したアラビア語版の母子手帳です。年間約9万人生まれるというパレスチナ難民の子どもたち全員に提供され、母子の健康管理に貢献しています。その後JICAはUNRWAと共にこの母子健康手帳の電子化に取り組み,2017年4月にスマートフォンのアプリケーションとしてヨルダンで配信が開始されました。この電子版母子手帳は、より多くのパレスチナ難民家庭の健康を守るため今後さらに普及される予定です。

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JICAが導入したアラビア語母子手帳を大切に持つ子ども。日本の支援で建てられたガザ南部のハンユニスの「ジャパニーズ・クリニック」で ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

 

日本からの支援、人と人の繋がりで質の高いものに

日本のパレスチナ難民への支援の礎には、長い年月を経て培ってきた人と人との信頼関係があります。言いにくいことでもはっきりと物申す方が受益者のためになる、ということを現場ではよく耳にしました。風通しの良い現場には、そのような人間関係が必ずあることに気づきました。 パレスチナ難民にとってこの70年という月日は、私たちの想像を絶する試練の日々であり、「人間としての尊厳」が脅かされてきた歴史だと言ってよいでしょう。パレスチナの政治的解決は楽観できるものではなく、昨今、ますます多くの難民たちが貧しさに苦しみ、数々の問題を抱えながら暮らしています。そんな難民に少しでも元気を与えるものとして、遠い日本からの人と人を繋ぐ支援があります。そのような質の高い心のこもった支援が、今後も引き続きパレスチナ難民のもとに届くことが期待されています。そのためには一人でも多くの日本の方々に現場の支援活動、支援を受ける難民たち、そして支援をし続ける日本の人々について知ってもらいたいと強く感じました。

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今回の視察に協力してくれたUNRWAガザ事務所の職員。左から3人目は、吉田美紀UNRWA渉外・プロジェクト支援担当官。ホンムス(ひよこ豆のペースト)、ムタッバラ(焼きナスのペースト)、ファラフェル( ひよこ豆のコロッケ)など典型的なパレスチナの家庭料理で視察最後の日、朝食を共にした ©UNIC Tokyo Yasuko Senoo

 

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「 #尊厳を守る ( #DignityIsPriceless )」キャンペーン( https://www.securite.jp/unrwa

UNRWAはパレスチナ難民の尊厳と希望を守るため、皆さんの支援を求めています。

 

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