国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (24)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第24回は、国連ハビタット スーダン事務所に勤務する横田雅幸さんです。

 

第24回 国連ハビタット

横田雅幸さん


〜不安定な情勢のなかでスーダンの人々の声に耳を傾け、現在と未来を見据える〜

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国連ハビタットスーダン事務所(ハルツーム)にて© UN-Habitat

岐阜県出身。横浜国立大学工学研究科計画建設学 博士(工学)。英国王立都市計画協会・公認都市計画家、一級建築士。2000年から横浜国立大学、(株)首都圏総合計画研究所に勤務。2006年より国連ハビタットに勤務し、コソボクウェート(湾岸諸国担当)、リビアイラクサウジアラビア事務所を経て、現在、スーダン事務所所長。その他、ヨルダン、パレスチナ、エジプト、イエメン等を支援。震災復興アセスメントチーム(PDNA)のセクターリーダーとしてモルドバの水害、ケープベルデの火山噴火復興に関わる。

 

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国連ハビタットがプロジェクトを実施している8州(地図上で青の部分)と、日本政府プロジェクトの位置(オレンジの部分)

 

北アフリカに位置し、またサブサハラ・アフリカ地域にも含まれるスーダンは、様々な文化や民族が交わるアフリカの要所となる国の一つに数えられます。国境を接する国にはアラブ諸国のエジプトとリビアサブサハラ・アフリカ諸国であるチャド、中央アフリカ南スーダンエチオピアエリトリアの計7カ国があり、またサウジアラビアとは紅海にて領海を接する位置にあります。北部から中部にかけては厳しい砂漠気候、南部は熱帯気候に属します。アフリカ大陸の中で3番目に大きな国土に約4,300万人の人々が居住しているこの場所が、私の働いている国、スーダンです。

 

2017年4月に国連ハビタットスーダン事務所に着任してから、既に2年以上の月日が経ちました。着任当時、スーダンは厳しい経済支援制限や金融制裁を受けており、また南スーダン独立後に7割以上の石油資源を失ったことも影響し、国家は経済的に極めて困難な状況に陥り続けていました。更に、スーダンは長きにわたる内戦や民族紛争を経験しており、特に2003年に勃発したダルフール紛争は世界中の人々の知る人道危機となりました。これに加え、周辺諸国での紛争や情勢不安定が追い打ちをかける形となり、スーダンには人道支援を必要とする国内避難民、周辺国からの帰還民・難民等が急増し、総人口の1割を超える困難な状況に直面しました。国際社会からのスーダンへの支援はこうした緊急的援助を必要とする人々に対する人道支援が中心であり、私自身、スーダンにおける経済復興・開発支援への道はまだまだ険しいことを、業務や日常生活の様々な場面で感じていました。

 

一方、2017年のスーダンには明るいニュースもありました。長期間続いてきたダルフールや南部州での紛争の停戦合意がなされ、また一部の経済制裁が解除されました。スーダンの人々は この時期に “新しいスーダン” を思い描き始めました。

 

こうした中、国連ハビタットスーダン事務所は、人道支援から開発支援への橋渡しの役割に力を入れてきました。特に、紛争により今まで住んでいた町や村を追われ、国内避難民となった人々が、紛争終結後、安全かつ安心して暮らせるための支援や、持続的な生活再建をする機会を作り出す支援を継続しています。

 

現在、日本政府の拠出を受け実施しているのが「南ダルフール州アルサラーム地域における国内避難民の帰還に対する緊急支援」プロジェクトです。アルサラーム地域にあるダガリス村の人々は、ダルフール紛争により村を追われ国内避難民キャンプで長期間暮らしていましたが、大量の国内避難民・難民問題が解消されない環境の中で、自分たちの不安定な将来に懸念を強めていきました。その結果、人々はキャンプで住み続けることを断念し、自分たちの意思で元の村に帰還する行動を起こしました。アルサラーム地域、ダガリス村は多くの国内避難民の帰還を受け入れている地域ですが、帰還しても国内避難民の生活は厳しく、基本的なサービスや公共施設、土地所有権も保証されておらず、持続的な生活再建への支援を必要としていました。

 

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ガリス村に帰還しているスーダン人国内避難民リーダーとのミーティング

 

ガリス村の人々は、支援を受けつつも自分たちの手で復興をすすめるアイデアにとても意欲的で、国連ハビタットのスタッフによる説明に熱心に耳を傾けました。自分たちの土地の権利を守るための登記が行われ、自分たちで進める復興のための技術習得の機会や安価で生産が容易かつ環境に優しい建設材料「SSB:Stabilized Soil Block」を生産するための機械や材料が提供されることに笑顔を見せてくれました。SSBは少量のセメントを砂と水に混ぜ、専用の機械で圧縮し、2週間養生してできあがります。生産には正しい知識が必要ですが、通常のレンガのように木を伐採し、燃やして焼く必要がない上に熱や雨にも強い建設資材で、訓練を受ければ誰にでも作れるようになります。こうした自助努力での復興を支援するプロジェクトに対し、ダガリス村の人々は「国際社会が自分たちを置き去りにせず、自ら立ち上がるための支援を提供してくれて心から嬉しい」と感謝の意を表しました。

 

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ガリス村に帰還しているスーダン人国内避難民とホストコミュニティの人々

 

もう一つ、国連ハビタットスーダン事務所が力を入れているのが人間の安全保障と平和構築への貢献です。特に、スーダン流入した南スーダン人難民とホストコミュニティとの間で発生する衝突の要因を減らし、スーダンの人々の生活環境を改善するプロジェクトを実施しています。日本政府の支援を受けた「スーダン白ナイル州ジャバレン市における南スーダン難民並びにホストコミュニティへの支援」が関連プロジェクトの一例です。

 

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日本政府支援プロジェクトを通してSSB生産を学ぶ女性・若者

 

このプロジェクトでは、人々の生活の中心となっている市場並びに公共スペースで、スーダン人ホストコミュニティ、南スーダン難民コミュニティの若者と女性が直接関わり、自分たちの手でSSBを生産し、市場の整備を進めるものです。スーダン人ホストコミュニティ、南スーダン難民双方の若者と女性は、SSBを生産する技術習得に強い意欲を見せ、「自分たちが貢献して市場を整備する機会に恵まれた」と喜びを語ってくれました。また、このプロジェクトはJICAスーダン事務所が技術支援を行った職業訓練センターと連携し、日本政府、JICA、国連ハビタットによる継続的な支援となるように努めました。

 

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自分たちで生産したSSBを使い市場を修復する若者(JICA支援の職業訓練所での訓練も受講)

 

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市場の歩行者スペースを自分たちで整備する若者

 

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SSBによる市場の衛生設備の整備

 

国連ハビタットでは、こうしたプロジェクトをはじめ、スーダンの将来を見据えた広い視野でのプロジェクト、例えば土地法制度の見直しや土地問題への取り組み、都市・住宅政策、中長期的な国内避難民の定住支援戦略、防災都市計画、気候変動対策等への貢献を進めています。

 

2017年、スーダンの人々が “新しいスーダン” を思い描き始めたにもかかわらず、スーダンの経済は改善される兆しがみられないまま現在を迎えています。物価の上昇、ガソリンの不足、現金の不足、電気供給の不足など様々な問題が発生し、これらは国際機関のスーダン支援に多大な影響を及ぼしました。

 

現在、スーダンは新しい局面に入っています。2018年12月、物価上昇に抗議する市民の平和的デモがスーダン各地で始まり、これが政治的色彩の強い市民の抗議行動へと発展しました。2019年4月にはバシール元大統領がスーダン軍により解任・拘束され、2019年7月現在に至るまで、情勢不安定な日々が続き、多大な犠牲者を出しながらも、市民とスーダン軍との間で暫定政府のあり方が様々な形を通して議論され続けています。

 

今この瞬間も、スーダンでは刻々と情勢が動いています。こうした不安定な政治情勢のなかで、スーダンの人々は声を上げ続けています。また一方で、スーダンの人々を支援する私たちには、不安定な状況が悪化しない、辛抱強い対応が求められています。未来を形作っていくのはスーダンの人々です。そのなかで国連ハビタットスーダン事務所は未来のスーダンのためにできること、本質的に朗らかで懐の広いスーダンの人々とともに、同じ目線で、様々な困難に戸惑いながらも前に進む努力を続けています。