医療機器から、食料、ITサービスまで、「調達」は国連の多様な現場での活動を支える重要な役割を担っています。国連事務局活動支援局で勤務する望月美納子調達官に、3月に日本で開催され、多くの企業が参加した「国連調達セミナー」での経験や、日本企業が国連と連携する際のポイント、調達担当官としての経験などについて寄稿頂きました。

【略歴】大学卒業後、民間企業勤務を経てフランスへ語学留学し、フランス語を習得。子育て期間を経て、1999年よりグローバル金融機関にて調達業務(Procurement)に従事する。約10年間の経験を積み、2006年8月ニューヨーク駐在員として2年間グローバルプロジェクトに携わった後、2008年9月に国連調達部へ採用される。国連調達部では多岐にわたる調達活動に従事し、エボラ危機における緊急調達業務にも対応。コロナ禍においては、国連ソマリア支援事務所(United Nations Support Office in Somalia)において、現地調達員と連携しながらリモートによる調達代行チームのリーダーを務め、緊急調達を支援した。現在は車両およびFLEET管理分野を担当し、国際連合事務局 活動支援局 サプライチェーンマネージメント部 調達部の調達官(Procurement Officer)として勤務。
2026年3月16日および17日に外務省主催で開催された「国連調達セミナー」に登壇する機会をいただきました。本セミナーは、日本企業に対して国連の調達活動や参入機会について理解を深めてもらうことを目的としており、今年は、全体セミナー参加企業数:63企業、総参加者数:76名が参加されていました。私自身、この場での経験を通じて、国連の現在の役割、調達の仕組み、そして企業との協働の重要性について改めて考える契機となりました。
近年、国連の役割は大きく広がっています。従来の平和維持活動や人道支援に加え、持続可能な開発目標(SDGs)の推進、気候変動対策、パンデミックへの対応など、国際社会が直面する複雑かつ多層的な課題に包括的に取り組んでいます。特に新型コロナウイルスの世界的大流行は、保健、経済、社会のあらゆる側面に影響を及ぼし、国連機関の役割をさらに重要なものとしました。このような状況下で、迅速かつ効率的に物資やサービスを提供する「調達」の重要性は一層高まっています。
国連システム全体での調達規模は年間数兆円にのぼり、医療機器、食料、インフラ、ITサービスなど対象分野は多岐にわたります。特徴的なのは、その多くが緊急性や不確実性の高い環境下で行われる点です。紛争地域や災害被災地など、通常のサプライチェーンが機能しにくい場所においても、必要な物資を確実に届ける必要があります。そのため、国連調達では単なる価格競争ではなく、品質、信頼性、持続可能性、そして倫理性が重視されています。

ここで重要となるのがサプライチェーンの視点です。近年、グローバルサプライチェーンは効率性を追求する一方で、その脆弱性も露呈しています。パンデミックや地政学的リスクによる供給途絶も少なくありません。国連はこうしたリスクを踏まえ、多様な供給源の確保、現地調達の強化、デジタル技術の活用などを通じて、よりレジリエントな調達体制の構築を進めています。
また、環境や社会への配慮も欠かせない要素となっています。いわゆる「持続可能な調達(サステナブル・プロキュアメント)」の考え方に基づき、環境負荷の低減や人権の尊重、多様性への配慮などが調達基準に組み込まれています。近年では、女性が所有・経営に主導的役割を持つ企業や、障害者雇用を推進する企業への関心も高まっており、調達においても社会的価値を重視する流れが強まっています。これは企業にとっても重要なポイントであり、単に製品やサービスを提供するだけでなく、その背景にある生産プロセスや企業姿勢が問われる時代となっています。



この他にも、日本国内の国連関連機関の施設や運営にあたっては、オフィス業務サポート、国際会議やイベントの運営、広報活動支援、WEBサイトや動画制作、旅行手配など、多岐にわたる分野で日本企業にとって引き続き大きなビジネス機会があります。
また、セミナーで多くの関心が寄せられましたが、日本企業が国内外でどのように国連と関わり、連携していけるのかについて、いくつか重要なポイントがあると感じています。
第一に、国連のニーズを正確に理解することです。国連調達は一般市場とは異なる要件や手続きが存在するため、事前の情報収集と準備が不可欠です。例えば、ベンダー (UNGM)登録や入札プロセス、各機関ごとの調達方針などを理解することで、参入のハードルを下げることができます。
第二に、自社の強みを明確にし、それを国連の課題解決にどのように結びつけるかを考えることです。日本企業は品質の高さや技術力に強みを持つ一方で、それを国際的な文脈でどのように対応するか課題となる場合もあります。現場のニーズに即した形で提案する力が求められます。
第三に、パートナーシップの構築です。国連との協働は単発の取引にとどまらず、長期的な関係構築が重要となります。また、他企業やNGO、現地組織との連携を通じて、より効果的なソリューションを提供することも可能です。複雑な課題に対しては、単独での対応よりも協働によるアプローチが有効である場合が多いです。
一方で、日本企業が国連調達へ参入・拡大していく上では、いくつかの課題も存在します。日本企業は高品質で信頼性の高い製品・サービスを提供する力を有していますが、その強みを国際競争の中で十分に発信しきれていないケースも見受けられます。また、国連特有の調達制度や英語による入札対応、価格競争力、継続的な情報収集への対応が負担となる場合もあります。
国連調達の現場では、防災、医療、インフラ、環境配慮型技術、デジタル分野など、日本企業が強みを持つ領域への関心が高まっています。すべての案件に包括的に応札する必要はなく、一部の分野や専門性に特化して参加することも可能です。日本企業の皆様には、ぜひ積極的に国連のニーズを理解し、国際入札へ参加していただきたいと考えています。

私自身、日本出身の調達担当官として国連の現場に携わる中で、日本企業や日本の技術・品質に対する国際的な信頼の高さを実感する場面が数多くありました。一方で、その強みが十分に国連市場へ届いていないと感じることもあります。セミナーでは、日本企業の皆様が非常に真摯に国際貢献を考え、積極的に質問や意見交換をされていたことが印象的でした。
また、私自身、民間企業で調達業務に携わっていた頃は、積極的な市場調査や企業訪問を比較的自由に行うことができましたが、国連調達員は公的機関としての厳格な規則のもとで業務を行っているため、こちらから企業の皆様と直接意見交換できる機会は、セミナーや展示会など非常に限られています。その意味でも、今回のセミナーのように多くの企業の皆様から直接ご意見を伺い、製品や技術をご紹介いただける機会は大変貴重でした。こうした対話を今後も継続していくことが、私たちの活動の向上にもつながると感じています。
最後に、2025年、大阪・関西万博の国連パビリオンに調達の立場から携わり、構想段階から最終的な運営計画に至るまで、そのプロジェクトの一端を担当する機会をいただきました。しかし、実際に完成したパビリオンを自分の目で見る機会はこれまでなく、今回初めて家族とともに訪問することができました。
(大阪・関西万博の国連パビリオンでは、国連のマーヘル・ナセル総代表ら国連チームが筆者家族を歓迎)
実際にパビリオンの中を歩き、形となったプロジェクトを目の前にしたときには、大きな感動を覚えました。特に、多くの関係者とともに積み重ねてきた努力が一つの形として実現していることを実感し、胸が熱くなりました。
また、日頃は家族に仕事内容を具体的に見せる機会が少ない中で、自分が携わった成果を家族と共有し、その喜びを分かち合えたことは、私にとって非常に特別で忘れがたい経験となりました。調達という仕事は表に見えにくい分野ではありますが、その先に実際の活動や人々の体験がつながっていることを改めて実感しました。
国連調達は、単なるビジネス機会にとどまらず、国際社会への貢献に直接つながる大きな可能性を持っています。今回の登壇経験を通じて得た学びを活かし、今後も日本企業と国連との橋渡し役として、双方の連携と相互理解に貢献していきたいと考えています。