国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (6)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第6回は、国際移住機関(IOM)レソト事務所代表の西村絵里子さんです。

 

第6回 国際移住機関(IOM) 

西村絵里子さん


~人の移動を貧困削減・開発課題につなげる~

 

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立命館大学国際関係部学士・修士号を取得。東アフリカ地域を拠点として平和構築・紛争解決・開発分野におけるプロジェクト管理・評価、そして民間部門での起業にも関わった経験を持つ。2014年に国際移住機関(IOM)ルワンダ事務所で勤務開始、2017年7月にIOMレソト事務所長に着任。

 

 

 

私が初めてアフリカに来たのは、15年ほど前です。自分がまた学生だった時代、アフリカに関する本は極めて限られていたこともあり、アフリカは紛争と貧困に苦しむ最も遅れた大陸で、アフリカの人たちにも怖いという漠然とした印象がありました。当時はまさか自分が将来アフリカで働くとは思いもしませんでしたが、現在、IOMに勤務してすでにアフリカ2カ国目となるレソトで働いています。今となっては、私にとってアフリカは第二の家。アフリカに長く生活していると、人々は非常に穏やかで優しく、都会はどんどん成長していて生活に不自由は感じません。日本のようにインフラが整っている訳ではありませんが、働く環境も悪くなく、居心地が良い所です。

 

レソト王国とは?

レソト王国、通称レソトは、周囲を南アフリカ共和国に囲まれた世界最南の内陸国です。多くの日本の方々には“不安定な国内情勢を抱えた国”という位にしか知られていないかもしれないので、この機会に少しだけご紹介します。

 

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注: 国連やIOMによる領土の法的地位に関する判断や国境線の承認・容認を示すものではありません。

 

レソト1966年イギリスから独立し、公用語は英語です。政治的混乱を経て2017年6月、第一党である全バソト会議(ABC)のタバネ党首が再び首相に就任し、現在も同党による政権が続いています。人口はおよそ200万人。低中所得国とされていますが、人口の半分以上が基本的な貧困線以下で生活しているとされ、貧困格差が世界で9番目に高い国です。政府は貿易赤字の解消のため、農業以外に繊維加工業に注力しています。近年では、アフリカで唯一スキーが楽しめる国として観光業にも力を入れており、地方にはのびのびとした自然、温かな人々、独特の岩でできた山や素晴らしい水の風景が広がり、エコ・ツーリズムを強みとした観光国になる可能性もあります。

 

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美しい自然ときれいな湖、カチャス・ダム ©IOM

 

経済的に南アフリカに大きく依存しており、南アからの輸入品が約7割を占めるほか、南ア鉱山への出稼ぎ労働者からの送金が大きな収入源となっています。2017年11月のレソト政府開発計画省の報告書によれば、国内総生産GDP)の17.5%が出稼ぎ送金です。また、2016年の国勢調査によれば、人口の8.9%に当たる179,579人が海外在住でした。

 

政府のオーナーシップを重視しつつ労働移住を促進

IOMレソト事務所の開設は2017年ですが、それ以前から様々な移住関連の事業を実施し、現在に至ります。

労働移住に関しては、レソト政府のキャパシティー向上とオーナーシップ(当事者意識)を重視しながら、政府主導で法制度や業務が整備されるよう尽力しています。例えば、労働省労働組合、移民に関する全国諮問委員会(NCC)に対するトレーニングを実施し、移住労働者とその家族、受け入れ社会の基本的人権の保障、労働保護、健康および社会的権利の実現に向けた各種の政策支援を行いました。また、南南協力促進の観点から、労働交換プログラム実現への取り組みを支援。具体的には、労働省内務省、教育省、外務省、保健省の職員からなるレソト政府代表団をモーリシャスに派遣し、モーリシャスにおける労働移住の現状と課題について労働省から説明を受け、国内の民間企業、職業訓練センターを見学してもらいました。代表団の滞在中に、両政府間で『レソトモーリシャス間の労働交換に関する覚書』について交渉が開始され、現在、交渉の最終段階に入っています。

 

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レソト政府代表団がモーリシャスの観光学校を視察 ©IOM

 

高中所得国で若者の大多数が大卒と高学歴社会のモーリシャスでは、技能の比較的低い仕事、例えば、繊維業や魚の生産加工業に就く人が不足しており、バングラデシュ等から大量の労働者を雇用しています。一方、レソトには、繊維業での経験・技術がありながら職が得られない人が多数いて、女性がその多くを占めています。こうした人々が、法的な枠組みに則って海外での出稼ぎの機会を得、その給与で家族を養うと同時に数年間の経験で技術を更に磨き最終的にレソトで仕事に就くことができればどんなに良いでしょうか。一方で、レソトで不足している技術や専門知識(例えば、医療分野)を持つモーリシャスの専門家を受け入れることで、技術の向上とレソト人への技術移転が可能となり、レソトの発展に貢献します。成果が出るには時間がかかりますが、IOMは国際移動と労働移住が社会に貢献することを願い、活動しています。

 

出入国・国境管理能力強化支援

IOMは日本政府の援助を通じて、レソト政府による移住政策、法制度、管理メカニズムの形成や実際の運用を支援するため、内務省警察庁南アフリカレソト間の国境犯罪防止フォーラム等との協力の下、入国・在留管理、国境管理能力強化を目的とした機器の提供や、関係政府職員へのトレーニングを行いました。そして、政府が入国管理トレーニングマニュアルの策定や、国境管理施設の建設や空港での入国管理の手順を改善するための政策提言を行いました。

 

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カチャスネック県での地方職員・国境管理職員を対象としたトレーニングの様子 ©IOM

 

このほか日本政府による支援では、現地NGOと協力し、ラジオを通じた全国レベルの人身取引防止キャンペーンを行ったほか、特にカチャスネック県とマフェテン県の住民や高等学校を対象とした、人身取引防止の啓発活動を行いました。IOMは2019年も引き続き、同分野の活動を継続する予定です。

 

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学校で実施した人身取引の危険に関する啓発活動 ©IOM

 

アフリカに根を張り、アフリカを支える

以前の私には、アフリカ人と結婚し、アフリカ人との子供を産み、そしておそらく今後も何十年にもわたってアフリカで働き、生活していくだろうとは、全く想像もつきませんでした。アフリカを知らない普通の日本人の感覚では、アフリカで生活するなんて「本当に大変でしょうね」となると思います。結婚当時、日本の方に、アフリカ人との結婚は「まさに長期負債を抱えたようなものですね」と言われて、「そういう見方もあるか」と苦笑した事もあります。

 

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家族とともに。左から主人(ルワンダ人)、娘(4歳)、息子(7歳)と筆者(本人提供)

 

人は、それぞれの価値観・人生観・使命を持って生きています。アジアが好きな人もいれば、欧米に憧れる人もいる…。それで良いのだと思います。

アフリカにも非常に優秀な人、真剣に国の将来を考えている人、そして、貧困・紛争をなくすために努力をしている人たちが多数います。私は今後もIOMを通じて、アフリカを拠点に、人の移動が、移民とその家族、受け入れ政府と社会にとって、プラスの影響をもたらすよう貢献できればと思います。政府に対する技術支援、そして市民社会、移民とその家族、受入コミュニティへの支援を継続していくことで、アフリカの平和と安定、繁栄の未来を願っていきたいと強く感じています。