2016年は国連と日本のあゆみにとって重要な節目の年です。1956年12月18日に日本が80番目の加盟国として国連に加盟してから、今年で60年になります。日本の国際連盟脱退から23年を経ての国連への加盟は、国際社会への復帰の象徴として国民から大変な歓迎を受けたことは、国連のアーカイブ映像からもご覧いただけます。
それから60年 - 日本は加盟の翌々年の1958年にはすでに安全保障理事会の非常任理事国となり、今年1月からは加盟国中最多の11回目の非常任理事国としての責務を担っています。日本政府だけではありません。それぞれの立場から国連の理念につながる活動や努力を積み重ねている方々が大勢います。このシリーズでは、バラエティーに富んだ分野から国連を自分事と考えて行動している方々をご紹介します。
シリーズ第1回は、国連平和ポスター・コンテストで作品が入選した、奈良県在住のグラフィック・デザイナーの中里久美さんです。たまたま新聞記事でコンテストについて知った父親から勧められ、応募した中里さんは、ニューヨークに短期留学している最中に9.11に遭遇し、それも「平和」について考えるベースになっていると語ります。「反~~」とか「~~をなくす」とか、ネガティブな方向性でのメッセージが多くなりがちな社会的な課題について、それをどのようにポジティブな方向で、ユーモアのある、見て自然と共感できるような形で伝えるかということを考えたいと意欲的です。
*国連平和ポスター・コンテスト 受賞・入選作品 パネル展が、国内各地ならびに世界を巡回します。詳しくは記事をご覧ください。
第1回 グラフィック・デザイナー 中里久美さん
~デザインで平和を訴える~
国連は設立以来、核兵器をはじめ大量破壊兵器の廃絶を目指しています。1946年に総会で最初に採択された決議は、「原子力の発見に関する問題に対処する委員会の設立」に関するものでした。現在でも、核兵器は人類存続に対する脅威です。
それから70周年の今年、核兵器のない世界への希望を描く「国連平和ポスター・コンテスト」が開催され、奈良県在住の中里久美(なかざと くみ)さんの作品が入選しました。日頃は音楽関係を中心にグラフィック・デザインを手掛け、奈良の大学でデザイン科の学生たちと触れ合いながら仕事をしている中里さんからお話をうかがいました。
中里 久美
ナカザト クミ
【2001年奈良芸術短期大学美術科卒。音楽関連のビジュアルデザインをメインに、ブランディング・広告・パッケージ・空間デザイン等を手掛ける。奈良県在住、グラフィックデザイナー】
根本:入選、おめでとうございます! 国連のコンテストに日本からの応募作品が入選したことは、日本を拠点にしている国連広報センターにとって大変嬉しいニュースです。どのような経緯で応募なさったのでしょうか?
中里:ありがとうございます。きっかけは父が新聞でコンテストのことを知って、「やってみたら?」と勧めてくれたんです。両親は私が子どもの頃から世の中のいろいろな問題について家庭で話すほうでして、そうした影響が大きいかと思います。それから、ニューヨークに短期留学している最中に9.11に遭遇して、それも「平和」について考えるきっかけになっていると思います。社会的なメッセージを伝えるデザインに興味があったので、今回参加させていただき、その結果が評価されてとても嬉しいです。
9.11当日/本人撮影
根本:中里さんの入選作品は「ゼロ」をモチーフの中心にしていて、大変シンプルですね。このイメージはすぐ思いついたのですか?
中里:案としてはいくつか作っていたのですが、比較的早い段階で「これで行こう!」と原案が固まりました。自分の作風が基本「シンプル」で、加えるよりは引き算して単純化していく方向で考えます。「核兵器をなくさなければならない」というところで、突き詰めていくと、「ゼロ」かな、と。また、爆弾はモチーフに不可欠かと思いました。それらを組み合わせ、より簡潔に無駄なものを削ぎ落としていく中で、このようなものになりました。
入賞作品、本人提供
根本:受賞・入選作品を見ると、中里さんのものが一番スッキリしているかもしれませんね。
中里:今回はデザイン・コンテストではなくポスター・コンテストなので、他の方々の作品はどちらかと言うと「アート」だと思うんですが、自分のものはむしろ「デザイン」寄りだと思います。「視覚的にインパクトを持たせ、同時に感覚的にそこにある理念・メッセージがまっすぐ伝わるもの」を念頭に形にしていきました。これはロゴやシンボルデザインの考え方で、今回の題材に関してシンボリックに見せたいという意図は当初からありました。デザインを勉強して、普段はクライアントにハッピーになってもらう商業ベースの仕事をしていて、それももちろん大切ですが、自分の専門性で社会に還元する、影響を与えることは重要だと思います。これからもそんな作品を残していけるといいな、と。
根本:入選したことに、周りの方々はどんな反応を?
中里:自分よりも周りの方が喜んでくれて、それが何より嬉しいですね。恩師、友人、知人はもちろん、全く知らない方からも感想をいただき、大きな励みになっています。特に家族には本当に感謝しています。いつも応援してくれてありがとう!
ニューヨーク本部から届いた賞状、本人提供
根本:中里さんはどんなものからインスピレーションを得ていますか?
中里:音楽です。音楽は自分から切っても切り離せない存在です。特にレゲエミュージックから大きな影響を受けました。ボブ・マーリーの曲は弱い立場の人々に立ったメッセージ性のある歌詞で、大好きです。その他にもヒップホップやジャズ、R&Bなど仕事中はずっと音楽をかけているのですが、莫大なパワーをもらっています。音楽の力は私の作品に流れ込んでいるんじゃないかと思います。音楽やアート、スポーツなど人種や年齢を超えて伝える、繋がれる力があるものは本当に人間の為す素晴らしい業だと思います。
左:Bob Marley ©The Island Def Jam、右:ゆかいな音楽仲間たち@野外フェス、本人提供
根本:日本のアーチストでは?
中里:宮澤賢治が好きです。言葉選びが美しく、文章にリズムがあって音楽のようで。派手ではないけれど感情の豊かさを感じさせられます。それから彼は文学だけでなく、音楽、農業、自然との交流と、いろいろ手掛けているんですね。実は私も畑で野菜を作っています。デザイン制作のために家にこもりっきりになるんですが、あいまに畑に行って土いじりをして風を感じていると、いい気分転換になって頭がクリアになります。無機質な要素の強い作品を作るうえでも、自然を知ることはいい影響を与えてくれます。仕事で関わる人たちには私が畑をやっていることを「作品から想像できない」と驚かれたりもしますけど、自分にとってはすごくバランスがとれている。
作品:「eclipse」、本人提供
根本:今後はどんな社会的な作品を手掛けたいですか?
中里:社会的なことって、「反~~」とか「~~をなくす」とか、ネガティブな方向性でのメッセージが多いですよね。それをどのようにポジティブな方向で、ユーモアのある、見て自然と共感できるような形で伝えるかということを考えたいと思っています。先にも言いましたがデザインには音楽などのように色んな壁を超えて直に感覚に訴える力があると思うので、それを活かしていきたいです。ところで、選ばれたポスターは日本では展示されないのでしょうか?一般の方々に直接見てもらえる機会があるといいなと思うのですが。
根本:国連総会では9月26日を「核兵器廃絶のための国際デー」に定めています。日本人の間で関心の高い課題ですので、市民社会と協力してポスター展を開催できればと考えているところです。楽しみにしていてください!
インタビュー後の記念撮影(左:中里さん、右:根本所長)©UNIC Tokyo
世界宗教者平和会議(WCRP)国際軍縮 ・安全保障常設委員会特別会議ならびに公開シンポジウム
~核兵器による威嚇、使用の合法性関す国際司裁判所 (ICJ) の勧告的意見発表 20 周年に寄せて~
場所:国連大学
問い合わせ:世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会 03-3384-2337
8月6日(土)広島
ヒバクシャ国際署名 8/6 イベント in Hiroshima
趣旨:広島・長崎の被爆者が呼びかけ、核兵器を禁止し廃絶する条
める国際署名を立ち上げるイベントです。国内外著名人によるリレ
セージなど予定。
時間:17:30-記者会見、18:00-イベント
場所:広島県立体育館(グリーンアリーナ)大会議室
主催・問い合わせ:ヒバクシャ国際署名連絡会 03-3438-1897