国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

女性のエンパワーメントが世界を変える(4)

 より良いジェンダー平等を日本から

~福香代子 UN Women 日本事務所所長のインタビュ~

 UN Women 駐日事務所の開所式が、8月30日に安倍晋三首相ら出席のもと東京で行われました。UN Womenの連絡事務所の開設は世界で4番目、アジアでは初めてです。世界のジェンダー平等推進において要となることが期待されます。これに先立ち、福嶌香代子所長にお話を伺いました。

(このインタビューは7月8日に行われました。)

 

【 聞き手:国連広報センター 所長 根本かおる】

 

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                 8月30日の開所式

 

福嶌香代子UN Women日本事務所長

 

上智大学国語学部卒。外務省に入省後、米国での研修(フレッチャー法律外交学院で修士号を取得)を経て国連,広報文化,開発,環境,科学技術などの分野での外交に携わる。外務省で国連教育科学文化機関(UNESCO),国連貿易開発会議(UNCTAD),国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)などを担当し、2003~06年、国連大学でプログラム・オフィサーを務める。海外では、アイルランドとタイの日本大使館、ニューヨークの日本総領事館で広報文化を担当。2015年4月から現職。

 

 

新事務所開設にあたって

 

Q新事務所開設というのは、大変エネルギーが必要な作業ではないですか?

 

A. 本当に一からのスタートでしたが、NY本部のサポートを得ながら普通では携わることのできないような経験をすることが出来ました。UN Womenと日本は非常に良好な関係を築いており、日本事務所の開設によって、さらなる発展が期待されています。

 

Q 国連でのお仕事は初めてですか?

 

A 国連の仕事は2回目です。私は外務省の出身ですが、一度国連大学で働いたことがありまして、そこでは日本の大学で勉強している開発途上国からの留学生を支援するための育英資金貸与プログラムの立ち上げを担当しました。今回の国連でも立ち上げの仕事を担当することになりました。 

 

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            香代子UN Women 日本事務所長

 

 日本における女性のエンパワーメントと男女共同参画への課題

 

Q 女性の社会進出、権利向上などが日本で大変注目を浴びる中で東京に事務所が開設になりますが、その点においてはどのような抱負を持って臨んでいますか?

 

A 日本政府が力を入れている政策に連携して、UN Womenのこれまでの取り組みや経験を活かせるようにしていきたいと思います。また、色々な活動を進めていく上で、一般の方にもUN Women がどのような機関であるかを知って頂きたいので、様々な方たちと連携して色々な協力やアウトリーチを進めたいと思っております。

 

Q 日本で安倍政権が女性活用を呼びかけている反面、日本での女性をとりまく地位は国際的に見て高くはありません。どのような点に着目して、日本の取り組みを支援していきたいと思っていらっしゃいますか?

 

A 一つには、安倍総理が力を入れられている女性の経済面での自立ですね。これはUN Women も優先分野として活動しております。また、日本が国連の場でも貢献している平和維持活動や防災への取り組みなどについても、ジェンダーの配慮はこれからますます重要になっていくと思います。 

 日本では東日本大震災など、色々な災害で女性が被害を受けるということはとても多いと思うのですが、それらの復興に向けて女性の力を活かすことが非常に大切です。その点についてUN Womenは、復興計画の中にジェンダーの配慮をする形などでの復興支援の活動をしているので、そのようなところを連携していければと思っております。

これらの分野に限るということではありませんが、特に日本が優先課題として取り組んでいるところを含めて、UN Womenが連携して取り組んでいければと思っております。

 

 Q 被災地の女性から漁業組合の組合員資格が女性は事実上排除されているとうかがい、驚いたことがあります。

 

A. 実は、これはどこにでも存在する問題です。世界的に見て、4分の3の男性が労働市場にいるのに対し、女性の数は半数程度です。UN Womenが最近発表した、「世界の女性の進歩(副題:経済を変える権利を実現する)」という報告書によると、発展途上地域において働く女性のうち最大で95%が非正規雇用であり、労働法や社会保護に守られていないという状況が見受けられます。全ての労働市場や産業における女性のリーダーシップの発揮や参加は考慮されるべき事項です。漁業とは少し違うのですが、世界でも例えば農地の所有権が女性には与えられていないにも関わらず、実際に農地を耕し作物を育てているのは女性であるという現実がありますね。そういった場合、UN Womenでは、農業でしたらFAOなどど連携して活動するわけですが、その中で例えば女性がある村で新しい農業の取り組みをする際に、女性が意思決定の場においても参画するようになってからその取り組みが成功したという例も報告されています。そのような形で、女性の参画やリーダーシップを発揮する機会を増やすことが全体の利益につながると認識するなど、そういった思索が続くと非常に良いと思っております。

         

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    ネパールの地震被災者の女性のために緊急支援物資を袋詰めするUN Womenのパートナー達

 

UN Womenが行っている取り組み

 

Q女性に目配りした制度が女性を含む形を作るには、政治の場での女性の参画が大変重要になると思いますが、下院における女性議員の割合を見ると、日本は10%未満で、世界で114位ですね。女性の政治参画を促進する上で、日本ではどのような取り組みが必要だと思われますか?

 

A ご存知の通り、日本だけでなく世界各国においても、女性のリーダーシップと政地参画の機会は限られています。選挙権を持つ女性の数が少ないだけでなく、議員、公務員、民間部門、または学界であれ、リーダーの地位に立つ女性は少ないのが現状です。こうしたことは、リーダーや変革の担い手としての女性の能力が証明され、民主政治に平等に参画する権利があるにもかかわらず起きています。UN Womenのリーダーシップと参画に関するプログラムは、女性の参画に対する国際的な公約の歴史に基づいています。女子差別撤廃条約(CEDAW)は公的な場に女性が参加する権利を認めており、北京行動綱領は平等な参画への障壁を取り除くことを求めています。また、ミレニアム開発目標MDGs)は、議席に占める女性の割合がジェンダー平等への進歩をはかる一つのものさしになるとしています。こうした目標に向けて、私たちは女性の政治候補者の能力構築を支援し、投票者にジェンダー平等についての市民教育を提供しています。また、ジェンダー平等の提唱者が政党や政府などに女性をエンパワーする上で役割を果たすよう求める支援もしています。さらに、ジェンダー平等を公共政策策定の中心に据えるために若い男性や女性に活動を促すイニシアティブもあります。UN Womenは、女性が投票者として、候補者として、議員として、さらには市民社会の一員として政治の場に公正にアクセスできるように、法や憲法の改正を行うことを提唱しています。また、国連の国別チームと協力し、市民社会と協働して選挙管理プログラムに取り組み、選挙に伴う暴力のない投票やキャンペーンができるなど、女性の権利を支援する選挙ができるように努めています。

 

また、UN Women 昨年の9月から行っている「HeForShe」というキャンペーンをご存知でしょうか?女性の参画・平等を進めるためには男性の理解と協力が必要ということで、女性の平等とジェンダーのエンパワーメントに賛同いただける男性を中心に署名を頂いて、その活動が今世界中で広がりを見せています。このキャンペーンを促進するために、今年の3月の世界経済会議ダボス会議でUN Womenが、10の国の元首、10の大学指導者、10のビジネス指導者、に参画を頂いて更に取り組みを進めていく「IMPACT 10×10×10(インパクト・テン・バイ・テン・バイ・テン)」というイニシアティブを発表しました。この取り組みに安倍総理に署名、参画いただいたという例がございますので、こういうところからさらに活動が広がっていけばいいと思っております。

また、政治関係とは別になるのですが、IMPACT 10×10×10に名古屋大学に参加いただきました。名古屋大学では学内だけではなく、政府ですとか民間の色々な関係者の方々と連携して女性の参画、エンパワーメントを進めてくださるとういことですので、非常に心強く感じておりますし、連携していければと思っております。

              

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   (左)UN Women 親善大使 エマ・ワトソン (右)HeforShe ロゴ

 

Q ビジネス界では、日本は女性のエンパワーメント原則(WEPs)に署名している企業の数はもっとも多い国ですね。企業トップのコミットメントが社内での施策であったり、女性の採用・昇進の等々につながればいいのですが。

 

A そうですね。WEPsは世界中のビジネスリーダーからも大きくご支持をいただいているツールです。2010年6月時点では署名数が39であったのに対し、2015年6月時点では全世界1,000を越える企業のトップの方からの署名が集まっています。これは企業活動やバリューチェーンにおいて女性の活躍を推進することが、企業にとっての利益となることを実感していただいていることの表れです。また、最近では、6月8日に開かれた2015年G7サミットの首脳宣言で、G7の元首がWEPsへの支持を表明し、7つの原則を企業活動に取り入れるよう要請しました。日本においても、UN WomenはWEPsに署名いただいた企業と協力し、関係をさらに強固なものにしていきたいと思っております。

 

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              根本かおる国連広報センター所長

 

今後の展望への意気込み

 

Q ジェンダーの問題は本当に各人一人ひとり意見を持っていて、様々な議論が巻き起こる問題だとは思いますけれども、国連という立場でそういったものを一手に引き受けられるということでどのような意気込みをもっていますか?

 

A 今まで外務省の中で色々な国の色々な人の考え方を聞いて、交渉・相談をして、できるだけ折り合えるところで合意していくような経験がありましたので、そういうものが活かせればといいと思います。

 

Q 福嶌さんが個人的な思いもあって、ぜひこれは力を入れてやりたい分野や取り組みはありますか?

 

A やはり日本にとってUN Women事務所が役立つ、つまりできてよかったと思って頂けるようにするのが一番なんですけれども、一つには、私自身も子どもを育てながら仕事を続けてきたこともありますし、たまたま二人とも娘ですので、そういう若い世代、若い女性にとって将来がより良いもの、つまり機会がある輝かしいものであってほしいなという個人的な願いもございます。

 

 

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オレンジ色にライトアップされる国際連合本部ビル(左)とエンパイア・ステート・ビルディング(右)

 

Q 今後企画・計画していらっしゃるイベントや取り組みはありますか?

 

A 8月30日に、文京シビックセンターにおいて、事務所の開所式を予定しております。これは、「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム World Assembly for Women in Tokyo: WAW! 2015」の会議が8月28日・29日に行われるのに続き、8月30日に予定しています。ムランボ=ヌクカUN Women事務局長はWAW!に加え、この開所式に出席します。秋は大学と共同してのシンポジウムですとか、女性に関する会議に出席させて頂いて、UN Womenの活動について報告させて頂くことを計画しております。そして、11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」はUN Womenにとって非常に重要な記念日です。毎年オレンジをテーマカラーに、12月10日の「人権デー」までの16日間を「性差別による暴力をなくすためのキャンペーン期間」(16 Days of Activism against Gender Violence)として、世界中でオレンジのライトアップイベントなど、様々なキャンペーンを行います。日本でもそれに倣って、女性に対する暴力撤廃について人々の関心を高めるために、何か企画できればと思っております。

                  

         

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