国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

写真でつづる、フレミング国連事務次長(グローバル・コミュニケーション担当)の訪日

国連広報センターが所属する国連グローバル・コミュニケーション局のトップ、メリッサ・フレミング国連事務次長が5月末に訪日しました。2年半ぶりとなった訪問の間、フレミング事務次長は朝から晩まで精力的にさまざまな日本の関係者と対話し、協力関係を深めました。

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レミング事務次長が日本に到着してまず向かったのが、大阪です。

開催中の大阪・関西万博における国連パビリオンおよび他の国や政府、企業などが手がけるパビリオンの視察が主な目的でした。初日に真っ先に向かったのはもちろん、「人類は団結したとき最も強くなる。」がテーマの国連パビリオン。アテンダントたちの連日の頑張りに感謝と激励を送ったのち、マーヘル・ナセル国連事務次長補兼陳列区域代表の案内でパビリオン内の展示を一巡しました。

国連パビリオンでは、日常生活で使うものと国連の関わりを表した展示を常設している

同日午後には、国連パビリオンと株式会社サンリオとの共催で実施された#HelloGlobalGoalsのグリーティングイベントに参加し、世界中で人気のキャラクターであるハローキティと一緒に、来館者にSDGsと「よりよい未来のために団結する」ことの重要性を伝えました。2日間を通してアメリカ合衆国、国際赤十字赤新月運動、サウジアラビア、中国といった海外パビリオンに訪問したほか、バチカンパビリオン主催のイベントに参加。ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier、大阪ヘルスケアパビリオン、日本館にも足を運びました。また、大阪府の渡邉繁樹副知事などの万博関係者や各館代表者と意見交換も行いました。

Ⓒ 2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. GS660006
マーヘル・ナセル国連事務次長補兼陳列区域代表(右端)と株式会社サンリオの辻友子常務執行役員、グローバルサステナビリティ推進室 室長(左端)も加わり、ハローキティと国連パビリオンの来場者をお出迎え。SDGsの認知度の高さを実感した。

阪急阪神ホールディングスでは、嶋田泰夫社長への表敬訪問を行ったほか、各目標のデザインをあしらったSDGsトレイン「未来のゆめ・まち号」を試乗し、電車全体が丸ごとSDGsの発信につながっているSDGsトレインを体感しました。

SDGsトレインに初乗車し、社内のSDGsに関するポスターなどを熱心に見入っていた

大阪での2日間の滞在の後に東京に移動し、3日間みっちり日本政府をはじめ幅広い関係者と対話を持ちました。国連創設80周年という節目に国連と日本が連携する重要性を改めて共有するとともに、紛争や気候変動、国際社会の分断などの危機にどう対応すべきか話し合うためです。

 

藤井比早之外務副大臣への表敬では、日本政府の長年の国連への支援に謝意を述べるとともに、安保理改革をはじめとする国連改革と多国間協調、国連と日本の連携の強化について認識を共有しました。

総務省の玉田康人総括審議官からは、オンライン上の誤情報・偽情報に対する日本政府の施策について伺い、啓発活動から法制度の整備に至るまで幅広い取り組みの重要性について意見を交わしました。

誹謗中傷や違法情報と関連するオンライン上の誤・偽情報の傾向とその対策について、最新の状況を伺った

また、日本原水爆被害者団体協議会日本被団協)の田中熙巳代表委員と和田征子事務局次長に2年半ぶりに面会し、ノーベル平和賞受賞を祝うとともに核兵器廃絶にむけたたゆまない活動に改めて敬意を表しました。

今回の訪日では4つものイベントに登壇し、それぞれ異なるオーディエンスに対して語り掛けました。気候変動に関する誤・偽情報への対策というテーマについて、一般社団法人Media is Hope主催の気候変動メディアシンポジウムでメディアへの期待を、東京大学グローバル教育センター主催のDialogue at UTokyo GlobEで若者への期待を語りました。この分野での誤・偽情報は、科学に対する信頼を損なわせ気候変動対策を阻害させようとするだけでなく、気候行動を支持する人々への危害につながっています。しかし、フレミング事務次長は80%以上の人々は気候変動に対する政策の強化を求めていると示し、解決提案型の報道など人々に希望をもたらす発信の有効性を強調しました。

気候変動メディアシンポジウムでは、100名以上の参加者に気候変動の実情だけでなく解決策も提示して発信する重要性を強調した

東京大学の様々な学部や大学院の学生らからは、気候変動と人口問題の関連性や、環境問題に関する効果的なコミュニケーションについて質問があがった

国際文化会館主催の会員特別講演会でも誤・偽情報が社会にもたらす影響を解説し、AIなどの新技術の危険性と可能性や、広告代理店やテック企業の責任について参加者と意見を交わしました。

国際文化会館主催のイベントでは、国際的な知見を持ったメディア、企業、学術界など様々な分野の参加者に、誤・偽情報が国連にとっても脅威となっていることを紹介した

読売新聞社とYIES(読売国際経済懇話会)共催の読売国際会議2025の5月フォーラムでは、研究者や元大使らとなぜ今日も国連が必要なのかを議論。国連が人道支援や医療保健分野の現場で人々の命を支えるとともに、国際的な協力の枠組みや規範をつくってきたことなど、多面的な国連の役割を解きほぐしました。そして、国連が創設80年を経てこれからも効果的に活動するために必要な国連システムの改革の重要性について話し合われました。

大きく揺れ動く世界情勢の中で、多国間協調を国連と日本がどのように維持・強化できるか、白熱した議論が展開された

その他、企業、メディア、国連機関らとも会談を行いました。

NHKでは、公共メディアとしての誤・偽情報に対する取り組みの意義や気候変動に関する報道について意見交換しました。

正しい情報を人々に届けるために、メディアもオンライン上で発信する有効性について認識が共有された

また、SDGsのアイコンの日本語化や気候キャンペーン「1.5℃の約束」、そして国連パビリオンのロゴの日本語化でご協力いただいている、博報堂DYホールディングスのクリエイティブ・ボランティアの皆さんとも面会。フレミング事務次長は、人々に情報を伝えるうえでクリエイティビティが果たす役割の大きさを語り、これまでの協力に感謝の意を伝えました。

国連のコミュニケーションが、コピーライター、アートディレクター、デザイナー、プランナーなど多くの方に支えられていることに感謝を述べた

日本の国連ファミリーとも意見交換の場をもらい、資金をめぐる影響を鑑みた効果的なパートナーシップの強化と拡大について、日本からの視点や経験を学びました。

首都圏に拠点を置く国連機関に加えて、関西などの国連機関もオンラインで参加し、多国間協調を強化する必要性について議論が行われた

あっという間の1週間の滞在中に、フレミング事務次長が何度も口にした言葉は「希望」でした。紛争、分断、気候変動、誤・偽情報の蔓延といった幾多の困難があってもなお、世界はこれらを解決する手段を持っており、希望を広めなければならない。フレミング事務次長は、このメッセージを分かりやすく的確に伝えるために、会議の合間にスピーチ原稿や発表資料を自ら何度もギリギリまで修正していました。

 

今回の訪日で、フレミング事務次長は国連が取り組む課題について日本の多くの人々もともに取り組んでいることを肌で感じたようでした。日本の関係者からいただいた意見やアイディア、そして平和とよりよい世界に向けた力強い想いを携えて、フレミング事務次長は帰国の途に就きました。

イベントや会談の合間を縫って、国連広報センターの職員とも写真を一枚。今回の訪日は、2年半ぶりに日本にいる職員とも顔を見て話す機会となった

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える 特別編(3)南スーダンにおける航空安全 新山英亮3等陸佐 寄稿

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。現地で出会ったUNMISS司令部に派遣されている3人の自衛隊員の方々に任務の詳細ややりがいなどを寄稿していただきました。3人目は航空運用幕僚、新山英亮えいすけ3等陸佐の寄稿です。

航空運用幕僚 3等陸佐 新山英亮
【略歴】2012年防衛大学校卒業。陸上自衛官。2012年に陸上自衛隊入隊以降、第1ヘリコプター団においてヘリコプターパイロット、陸上自衛隊航空学校にて教官等として勤務。2025年1月より国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に司令部要員(航空運用幕僚)として参加。

※写真はすべて著者からの提供

 

はじめに

私は2025年1月から南スーダン共和国でUNMISS司令部要員(航空運用幕僚)として勤務しています。業務では司令部内各部署からの要求に応じて、南スーダンにおいて主要輸送手段である航空機を日々どのように使用するかを具体的にした飛行計画の作成、航空機の運航状況の監督、また、事故や病気等により、緊急で航空輸送が必要な際の各所との調整を実施しております。

派遣直後の導入教育メンバーと

パイロットへの憧れから陸上自衛隊に入隊

高校時代にパイロットに憧れて、防衛大学校に進学を決意して入学、陸上自衛隊に入隊し、卒業後から派遣前までの多くの時間を陸上自衛隊CH-47(愛称チヌーク)のパイロットとして勤務しておりました。元々、英語を通じて他国の文化に触れることに興味があったことから、様々な国際訓練の場で他国の軍人と多く接し、2019年にはオーストラリアでの訓練にも参加しました。その中で、現在の日本を取り巻く国際環境から日本の平和と安全を保つためには、日本と価値観を共有する国々とより深い関係を構築する必要性があることを肌で感じました。

国際社会への興味から南スーダン派遣へ

約10年近く操縦士としての経験を積み重ねると同時に、幹部自衛官としての他国軍人との交流や自衛隊内の様々な教育の中で、国際社会における日本の立場や役割を学ぶにつれ、日本国内だけでなく国際社会で日の丸を背負って挑戦してみたいという気持ちになりました。その想いがなければ、南スーダンへは派遣されていなかったと思います。

南スーダンにおいて航空機を運航するということ

南スーダンで勤務して約2ヶ月ですが、航空安全というキーワードは万国共通であると感じます。航空機を安全に運航するというのは簡単なことではありません。航空機の運航には一つのミスが大きな事故に直結する危険性が至る所に潜んでいます。それは日本においても同様で、私がパイロットの時は、他のパイロットのみならず整備士、管制員、通信員、気象予報士など多くの人のサポートを得て、航空安全に心掛けていました。

そして南スーダンにおいては、同国がいまだ国造りの途上にあるということもあり、航空機の安全確保により一層の注意を払っています。例えば、南スーダンでは過去に国連の航空機が射撃される事故がありました。それ以来、UNMISS内ではパイロットに対して各離着陸地域が安全かどうか情報を提供するようになっています。

このシステムを活用しつつ、航空に携わる各国からの軍人や民間人と共に勤務していると全員が航空機の安全確保に最大限努力していると日々感じます。

航空機運航状況を把握

日本人として、国連の任務に如何に貢献するか

現在、UNMISS司令部内で勤務する陸上自衛官は6名です。部隊派遣されている国と比べると少ない人数の中で、南スーダンの平和と安全のために自らの立場・役職を全うすることは勿論のこと、数多くの国から参加する国連の場において、日の丸を多くの人に見てもらい、日本人とはこういう仕事をするんだと理解し、日本人を信頼してもらうことが最終的には日本の平和と安全に通ずると考えています。

そのため、日本では当たり前のことかもしれませんが、提出期限を守り、書類のミスは極力少なくすること、また、自分だけで一生懸命になることなく、周りへの気遣いを忘れないよう意識しています。加えて、職場のみでなくプライベートの時間を他国の軍人とともに過ごしたり、様々なイベントに積極的に参加したりすることは自らのリフレッシュになると同時に日本のことを多く知ってもらえる機会を付与出来ていると感じます。

インド軍人とクリケットの観戦

最後に

派遣準備から派遣以降も様々な方からのご支援なくしては本任務は成り立たないと毎日感じております。その中で約1年間の派遣を遠い日本の地からサポートしてくれている妻と2人の息子達への感謝の気持ちは絶えません。少しでも家族の不安を払拭するために派遣前の準備期間の多くを家族とともに過ごし、子供達が容易に理解できるようにパワーポイントを用いて、南スーダンの概要や業務内容について説明しました。

出国時に、息子達からは「僕達も頑張るからパパも頑張って」と言われたことは今でも私の心の支えになってます。

残り約10ヶ月の派遣間、楽しいことばかりではないと思いますが、辛いときにこそ前向きに楽しく南スーダンの平和構築のために頑張りたいと思います。

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える 特別編(2)学生時代にみた国連ミッションと今 皆川桃子3等陸佐 寄稿

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。現地で出会ったUNMISS司令部に派遣されている3人の自衛隊員の方々に任務の詳細ややりがいなどを寄稿していただきました。2人目は施設幕僚、皆川桃子3等陸佐の寄稿です。

施設幕僚 3等陸佐 皆川桃子

【略歴】2012年防衛大学校卒業。陸上自衛官。2012年に陸上自衛隊入隊以降、施設科部隊や陸上総隊司令部において勤務。2024年9月より国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に司令部要員(施設幕僚)として参加。

※写真はすべて著者からの提供

 

はじめに

私は2024年9月から南スーダン共和国でUNMISS司令部施設幕僚として勤務し、主に同国内の補給幹線道を整備するため、司令部内の関係部署及び6カ国から南スーダンの地方に派遣されている陸軍工兵隊との現地調整及び整備計画の作成を行っております。

ヤンビオの補給幹線道の整備状況の確認(右から2番目)

学生時代にみた国連ミッション

そもそもこのミッションに参加させていただくに至った経緯についてですが、学生時代に家族とネパールに旅行した際にみた国連ミッションに派遣された軍関係者の姿が印象的で、彼らは軍人として何をこの国でしているのだろうと国連に興味を持ち始め、調べていく中で自分も参加してみたいという気持ちが強くなりました。自衛隊に入隊した当初からずっと国連PKOミッションへの参加を希望しており、この度、機会をいただき第16次施設幕僚として勤務しております。学生の頃から熱望していたこともあり、ここ南スーダンの地で多くの国の軍隊・文民の方と協力しミッションを行うことに非常にやりがいを感じております。特に、各地方に展開する工兵部隊の補給幹線道の整備状況を確認するため出張する機会が多くあるのですが、その際に自分が日頃計画・調整している道路整備を工兵部隊が実際に行っているのを見て、自分の業務が南スーダンの発展に少しでも繋がっているのだと実感し、喜びを感じております。

タイ工兵部隊の部隊評価(右から1番目)

施設課軍人スタッフとの交流(右から1番目)

たくさんの国旗のなかでの日の丸

道路整備の他、私は自身の所属する施設課及び他の部署の多くのスタッフとの関係構築のため厚生活動等を通じた交流を持つように努めております。私は南スーダンにきて日々実感することがあります。それはどの国の方も皆日本、自衛隊が大好きであるということです。これは歴代の南スーダンに派遣されてきた幕僚や部隊の方々が築きあげてきた自衛隊に対する他国からの「信頼」であり、我々もこれを継承していくことが非常に大切なことであると考えております。司令部要員としての個人派遣は部隊派遣と比して他国の方との交流を持つことが必須事項であり、時に言葉の壁を感じることはあるものの、仕事のみならず互いの文化について共有したり、時に食事を共にしたりすることで互いのことを深く理解するようにしております。彼らと時間を共にしていることは今の私にとってかけがえのないものです。

厚生活動への参加(右から1番目)

イベントでの空手の披露(右から4番目)
※幼少期に空手を実施、現在週2回空手稽古を実施

離れても家族の毎日

私は日本にいる間は同じ自衛官である夫、10歳の息子、5歳の娘、私の両親と暮らしております。家族には本派遣間、特に育児の面で多大な負担をかけてしまっておりますが、日頃からテレビ電話等を通じて、家族の日常の把握や家族にこの仕事への理解をしてもらえるようによく話をしております。私のここでの勤務間での1番の励みは家族、特に子供たちからの「かか(子供たちの私の呼称)、がんばれー!」の応援です。家族には感謝の気持ちでいっぱいです。

家族とのテレビ電話の様子(左画面筆者、右画面右から息子、夫)

本派遣の1年間、家族や自衛隊からの期待を胸に、南スーダン共和国の平和と安定に最大限寄与するよう、引き続き尽力してまいります。

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える 特別編(1)「東北のために」から「南スーダンのために」喜田一磨3等陸佐 寄稿

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。現地で出会ったUNMISS司令部に派遣されている3人の自衛隊員の方々に任務の詳細ややりがいなどを寄稿していただきました。1人目は兵站幕僚、喜田一磨3等陸佐の寄稿です。

 

兵站幕僚 3等陸佐 喜田一磨
【略歴】1985年生まれ。2001年陸上自衛隊生徒として陸上自衛隊に入隊以降、第6後方支援連隊、第13後方支援隊、教育訓練研究本部、水陸機動団で勤務。2024年法政大学経済学部卒業。

※写真はすべて著者からの提供

 

はじめに

今回、幸いにも国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に参加させていただくとともに、国連広報センターブログへの投稿の機会を得ることができましたので、任務とやりがい、家族との絆、国連で働く意義について寄稿したいと思います。

任務とやりがい

第16次司令部要員兵站幕僚として2025年1月24日に南スーダンに到着して、早2ケ月が経過しました。私は、軍事部門司令部の兵站課に所属しており、チーフ以下6名で業務を行っています。

兵站幕僚としての任務は、南スーダン北部にあるセクター・ノースとセクター・ユニティーに各国から派遣されている部隊のロジスティックスに係るステータスの把握・改善に係る調整と部隊評価を行っています。部隊評価とは、派遣部隊が実施する食料、燃料、医療品、車両の補給・整備、保管状況について、司令部が書類確認と現場確認を行い、部隊の問題点を発見して、改善策を助言するものです。また、ナイル川を活用した大規模な物資補給(河川輸送作戦)の連絡調整も合わせて行っています。

セクター・ユニティーパキスタン工兵隊における部隊評価

私は、陸上自衛官として、火器・車両・誘導武器・施設器材の補給、整備、回収等を行う専門部隊に所属していました。これまで、3度の災害派遣に参加し、特に、東日本大震災では、石巻市に約3ケ月間派遣され、整備を専門とする部隊運用の補佐、被災者への支援物資の受け入れ、保管、払い出しを市役所の職員の方と連携して行いました。また、常に心にとめていたことは、「東北のために」でした。東北のためにできたことは小さかったかもしれませんが、誠実な姿勢で業務を行うことを心掛けていました。現在の任務では、偶然にも、自分が石巻市で担当していたのと同じ業務を各国からの派遣部隊が現場で行っており、これまで防衛省で培った約25年間の経験を最大限活かすことができると考えています。

今は、「南スーダンのために」を常に心にとめて業務を行い、誠実な姿勢だけは忘れないように業務しています。日本を代表して業務をしているだけでやりがいに感じています。更に、職場の上司・同僚・後輩や大学の学友からたくさんの応援メッセージ、南スーダン国民、担当しているセクター・ノース、セクター・ユニティーのカウンターパートの方々からも感謝の言葉をもらいました。着任してまだ2ケ月しか経過していないものの非常にやりがいを感じています。

家族との絆

妻と3人の子どもを滋賀県に残して南スーダンで勤務しています。長女は、高校受験、長男と次女はハンドボール全国大会・東海大会をそれぞれ控えており非常に多忙な時期です。そのような状況でも、妻は一人で家事、育児、仕事、部活の送迎をしています。妻が日本で頑張っている分、「負けずに頑張らないと」といつも触発されています。妻のおかげで後顧の憂いなく業務ができていると考えており、家族にはとても感謝しています。

連絡は、家族5人が共有できるグループチャットを利用しています。例えば、子どもの写真や部活動の動画共有、子どもの勉強相談のやりとりをしています。日本との時差は、7時間あるものの文明の利器を活用して絆を維持することができています。

また、内閣府防衛省も日本にいる家族のケアを行ってくれています。特に、陸上総隊司令部運用部国際協力課の上司は、私と家族の架け橋となってくれています。自衛隊では家族支援と言っています。この家族支援がとても有効に機能しています。具体的には、自衛隊での必要な手続き・団体傷害保険の取次などです。最近では長男がクラブ活動で指を骨折した時、自衛隊の傷害保険の担当に連絡し、妻と保険担当者をつないでくださり、スムーズに保険の請求ができました。家族支援が家族との絆をより良くしてくれていると考えています。

国連で働く意義

この記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。UNMISSの編成は、各国の自衛隊・軍隊から派遣されている軍人だけではありません。警察も文民職員の方も多く勤務しています。また、南スーダンの他にも様々な国連PKOミッションが全世界をまたにかけて展開されています。国連職員は多様性に富んでおり、国連で働くということは、異なる背景や文化をもち、幅広い観点や経験、アプローチを有する多文化チームで働くことを意味していると言われています。実際に警察や文民職員の方も、南スーダンの発展のために誠実かつ積極的に業務を行っている印象です。国連職員の仕事に少しでも興味を持ってくださった方は、是非UNICのホームページで「国連職員とは」のページをチェックしてみてください。

軍人2名(日本(右から2番目)・バングラデシュ(左から1番目)) 警察2名(インドネシア(左から2番目・3番目)) 文民職員2名(アルゼンチン(右から1番目)・フィリピン(右から3番目))

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える(6)「日の丸」の重み 

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。国連の代表的な平和活動である国連PKOの最前線を、シリーズでお伝えします。

 

第6回 「日の丸」の重み 

今回の南スーダンへの出張では、重要な目的の1つとして、自衛隊からUNMISS司令部に派遣されている方々にお目に掛かり、それぞれのやりがいや手ごたえなどについてお話をうかがうことがあった。と言うのも、部隊での派遣とは異なり、合計6名という少数での個人派遣であり、「日の丸」の重みがそれぞれの肩に圧し掛かる中での任務だろうと思ったからだ。

南スーダン訪問中に6名のうちの4名の方々からお話をうかがうことができた。皆、自ら志願し、大きなやりがいを感じながら活動している。 

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施設、情報、兵站、航空運用と任務は様々だ。国連PKOへの参加を志して自衛隊に入った方や、東日本大震災津波への対応の経験を世界に還元したいと考えた方など、強い思いを持って関わり、日本の自衛隊だからこその強みと信頼を自分自身もつないでいこうと努めている。隊員の方々は国連広報センターのブログに寄稿してくださることになっており、任務の詳細や手ごたえなどについてそちらもご覧いただきたい。

UNMISS司令部に派遣されている自衛隊員と国連広報センターの根本かおる所長(中央)

いずれの方についても、日本に残してきた家族とのきずなを保つ上で工夫し、かつ自身の南スーダンへの派遣が、自衛隊の先輩や家族を含め、多くの人々の支援と協力があって成り立っていることに感謝する姿勢が強くあり、大変印象的だった。

彼らの仕事ぶりについて、UNMISS民政部長の平原弘子さんのもとにも彼らの働く部門の関係者らから好意的な評価の声が寄せられていると言う。

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世界で一番新しい国・南スーダン共和国。平原さんは日本から遠く離れたこの国での勤務が13年にもなる。南スーダンの人々に関与し続ける理由について、平原さんに聞いた。 

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南スーダンでの経験が自分自身の成長の糧になったと平原さんは言う。南スーダンの人々や国連PKOで働く様々な国籍の職員らは、敗戦後焼け跡から復興した日本がこれまでに勝ち得てきた評価と信頼を、この連載で取り上げてきた邦人職員や自衛隊員らの仕事ぶりや人柄を通じて再確認しているのかもしれない。

グローバル化の進む今日にあって、一国の安全保障の課題は地域全体を不安定化させ、それが飛び火して国際的な安全保障のリスクになりかねない。アフリカ大陸の不安定化は瞬く間に中東やヨーロッパを揺るがせ、あらゆる意味でグローバル化の進んだ今日、日本を含む東アジアにも早晩影響をもたらすことになる。さらに、気候変動の影響でギリギリにまで追い詰められた社会は、紛争に陥りやすくなるが、本をただせば、その気候変動の原因の多くの部分を、温室効果ガスの大量排出という形で豊かな国に生きる私たちが作ってしまっているのだ。そして、気候変動の課題に国境はなく、世界中の人々は一蓮托生、同じ宇宙船地球号に乗っている。

まさに5月13、14日の両日、日本も共同議長国の一つとしてプロセスに関わってきた国連PKO閣僚級会合が、ドイツの首都ベルリンで開催され、国連PKOの将来が議論されている。そして、今年は8月20日から22日まで横浜で第9回アフリカ開発会議が開催され、アフリカ諸国から多くの首脳の訪日があり、アフリカが話題になる機会も増えるだろう。是非国連PKOへの参画を国益という観点からも見つめると同時に、アフリカと日本とをつなげて考える機会にして欲しい。

UNMISS平和維持部隊のパトロールは、地域の安全を確保するだけでなく地域住民の間に信頼関係を築くことにも役立っている ⒸGregório Cunha/UNMISS

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える(5)気候変動の影響、女性の安全へのしわ寄せ大きく

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。国連の代表的な平和活動である国連PKOの最前線を、シリーズでお伝えします。

 

第5回 気候変動の影響、女性の安全へのしわ寄せ大きく

気候変動の安全面での影響は、男性と女性とで異なると言うが、日本にいてはなかなかピンと来ない。そこで、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)本部でシニア・ジェンダー・アドバイザーを務める西谷佳純(にしがや・かすみ)さんにお話をうかがった。これまでメールでやり取りしたり、国連広報センターのブログに寄稿してもらったりしたことはあったが、直接お目に掛かるのは初めてで、今回の出張で会うのを楽しみにしていた。  

南スーダンは60以上もの部族が暮らし、一般化は難しい」と前置きした上で、西谷さんは「こうした複雑さを理解した上で言えることは、気候変動ショックは、すでに存在する男女間の不平等や女性・女子の脆弱性を明らかに悪化させている」と強調した。 

特に顕著なのは、雨が降る時期と雨量が不安定で、洪水・干ばつ・害虫の蔓延などの現象が起こりやすくなっていることだ。これは紛争に対する脆弱性や紛争に起因する怒りや不満を助長してしまう。例えば、南スーダンで水汲みや薪集めは女性や女子が行う仕事と見なされるが、気候変動ショックが続くことにより、こうした無償労働の負担が大幅に増加している。より遠くまで徒歩で集めに行かねばならなくなり、その長い道すがら性被害も含め様々な危険に巻き込まれるリスクがある。 さらに、無償労働の負担が増えて、女の子が学校に通えなくなりかねない。  

南スーダン、ジョングレイ州の光景 ⒸUN Photo/Martine Perret

UNMISSのベンティウ事務所で7年間所長を務めた平原弘子UNMISS民政部長は、女性たちの安全をめぐるリスクについて、国内避難民キャンプの人口密集が女性の安全を脅かすことに加えて、水で道がなくなって水の中を移動する際にヘビやワニに襲われることや、薪集めの道すがらのリスクが高まり、警察の捜査も水浸しで思うように進まないことなど、具体例を挙げて説明してくれた。 

ベンティウでの市民社会とのミーティング出席者と。
前列左から2番目が平原弘子UNMISS民政部長。

また、南スーダンでは、和平合意の履行をめぐる政治的対立と並行して、コミュニティー間の紛争や対立も顕著であり、気候変動が紛争の頻発という形で影を落としている。特に、土地や飲み水を求めた家畜と遊牧民の移動は、移動先のコミュニティーに脅威を与えるだけでなく、農業や家畜の世話を行う女性や女子の誘拐や性暴力などのリスクを伴う、と西谷さんは指摘する。  

西谷さん(右)は気候変動が紛争を悪化させる危険性を指摘する

西谷さんによると、UNMISSでは他のミッションに先駆け、2021年、UNMISSのマンデートを更新する安保理決議2567号において、「気候変動は、紛争をさらに悪化させることになる脅威である」という認識を示す記述が前文に盛り込まれて以降、マンデート更新の安保理決議で、気候変動リスクが人道状況や平和と安定に与えるインパクトなどに関する記述と報告義務などが強められていった。  

では、現場では具体的にどんな解決策があるのか。

対策として、地域のリーダー達への啓発に加えて、性被害が起こりやすいホットスポットを重点的に国連PKO部隊によるパトロールを強化していると平原さんは言う。 

こうしたパトロールで性暴力などに関する女性たちの懸念の声を汲み取るには、女性ピースキーパーたちの存在が不可欠だ。しかしながら、長距離パトロールにおいては、排せつや生理などの面で女性は課題に直面する。その中で、ユニティ州に展開するモンゴル部隊では、女性隊員たちの考案でFemale Friendly Kit(女性用キット)を作って配布。これに、ポータブルの囲いを1チームに一つ携行して、女性たちに対して長距離パトロールに道を開いた。こうした好事例をどんどん他の部隊にも共有して、可能性を広げていってほしい。  

モンゴル部隊の女性隊員は、女性たちの長距離パトロールのためにFemale Friendly Kitを考案した ⒸUNIC Tokyo Kaoru Nemoto

ベンティウに出張した際、この地域で活動するUNMISSの制服組の女性達から話を聞く機会があった。乾季になると移動しやすくなるため、薪などを求めて遠くなで行く女性が増え、それにともなって性暴力が増えることや、地域の女性たちの懸念を吸い上げるためにはより多くの女性の通訳が必要だということなど、様々な声が寄せられた。

UNMISSに各国から派遣されている軍や警察の女性たち。意見交換のために集まってくれたⒸUNMISS

西谷さんが特に目指しているのは、紛争解決から復興・開発へと続く意思決定の場において、女性の参加と意見の尊重が担保されること、そしてそれを阻害する要因を取り除いてそのリーダーシップが見事に発揮できるようにすることだ。地域レベルでは、女性たちの声を吸い上げるための目安箱をIDPキャンプに設けて、具体的な問題解決につなげた、とも聞く。  

記者ブリーフィングを行う西谷さん。千葉県出身で、NGOでの難民支援活動を振り出しに、バングラデシュ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)での経験をきっかけにして、ジェンダー分野での専門的なキャリアを歩んできた ⒸUNMISS

ベンティウで開かれた市民グループとの集まりに参加した23歳の女性は、他の出席者のほとんどが年上の男性という中で、臆することなく自分の家族でのジェンダー格差と父親による家庭内暴力について力強い声で語り、その解決策として父親たちを対象にした啓発活動を積極的に提案していた。非常に強い眼差しが印象的だった。 

ベンティウでの市民団体とのミーティングで積極的に発言する女性 ⒸUNMISS Photo

南スーダンの和平合意には、多くの女性市民団体が連帯して働きかけた結果から、和平合意の実施に関わるメカニズムや機構すべてに、少なくとも35%までのレベルに女性を指名することが盛り込まれている。しかしながら、十分に履行されているとは言えない。  

UNMISSトップのニコラス・ヘイソム国連事務総長特別代表は、女性がより積極的に議論と決定に参加する和平プロセスの方が平和がより定着し、より確かな制度につながると、その効用を強調した。 

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南スーダンの女性たちに諦めることなく、ふさわしい役割を求め続けて欲しい ― 南アフリカアパルトヘイトを闘い抜いたヘイソム氏からのメッセージに、強い説得力を感じた。 

国連PKOの現場から、国連の存在意義と日本の貢献を考える(4)気候ショックと安全保障:国連PKOによる対応の最前線

国連広報センターの根本かおる所長は、2025年3月2日~9日に南スーダンを訪問し、同国に展開する国連PKOの「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」の活動を視察しました。国連の代表的な平和活動である国連PKOの最前線を、シリーズでお伝えします。

 

第4回 気候ショックと安全保障:国連PKOによる対応の最前線

南スーダンの首都ジュバからUNMISSの飛行機に乗って北へ1時間。上空から見るユニティ州のベンティウ近隣の国内避難民(IDP)キャンプは、まるで海に浮かぶ離れ小島だった。キャンプの周辺には、原野ではなく水面が広がっていた。国連PKOが整備したアクセスロードは「海」を突っ切ってベンティウ周辺と他の地区とを結ぶ唯一の道であり、旧約聖書の「モーゼの海割り」のようだ。UNMISSオフィス、アクセス道、空港の周り、そしてIDPキャンプの周りに堤防が築かれ、水に飲まれるのを防いでいる。 

ベンティウ近隣の国内避難民(IDP)キャンプは、海に浮かぶ離れ小島のような状態だった
ⒸUNIC Tokyo/Kaoru Nemoto

2016年春に私が訪れた際の、キャンプの周りを乾いた大地が広がり、女性たちが薪を頭に載せて原野を横切り、牛たちが悠々と移動するというような光景はまったくなかった。大きく様変わりしたベンティウの姿に、自分の目を疑った。

2016年当時のベンティウ周辺には乾いた大地が広がっていた

ユニティ州は、気候変動が人々の暮らしと安全に大きなショックを与えている最前線だ。しかも、温室効果ガスの排出にほとんど加担していない人々が、豊かな国々による排出の被害を受けるという気候正義の課題の最前線でもある。さらに、南スーダンでは、気候変動が人々の暮らしや人道状況のみならず、安全保障・治安にまで影響があることから、UNMISSでは「Climate Security Advisor」(気候安全保障アドバイザー)を置いて組織的に対応している。世界の国連PKOで、同ポストを設けているのはUNMISSだけだ。 

ベンティウ周辺はかねてから洪水に見舞われる地域ではあったが、今につながる大洪水が押し寄せたのは2021年11月のこと。 

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南スーダン・ベンティウ 洪水が始まった当初の映像 平原弘子さん提供

ベンティウから約北西に40キロぐらい離れたところの村が水浸しになり、これまでにもあった程度の洪水だろうと思っていたところ、その3ヶ月遅れで朝起きてみると、水がベンティウにまで迫っていた。とりあえず水が来ないように堰き止めないと町中が水浸しになってしまうと慌てふためいたと平原さんは言う。

それ以来、水が引かず、今に至っている。当時、現在UNMISS民政部長を務める平原弘子さんはベンティウ事務所を所長として切り盛りしていた。地域の風景を様変わりさせた大洪水は、一体どのように始まったのだろうか? 

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このピンチを救ってくれた第一の立役者は、パキスタン軍の施設部隊だった。ベンティウ周辺に道路補修のために派遣されたばかりのパキスタン部隊は、本国で常日頃から培ってきた洪水対策の経験をここで発揮し、72時間の突貫工事で応急処置をしてくれた。 「あの時、洪水対策に長けたパキスタン軍の存在がなかったら、多くの命が奪われ、すべてが水にのまれていただろう」といろいろな人々から聞いた。

パキスタン部隊はベンティウの道路補修や堤防の建設と維持管理といった土木工事を担当。道の両側はまるで海のように水が広がり、まるで「モーゼの海割り」のよう
ⒸGregório Cunha/UNMISS

パキスタン軍による応急処置で一旦水に飲まれるのを防ぐことはできたものの、どんどん水が来てしまい、堤防も高くすると同時に土を固めなければならず、メンテナンスが欠かせなかった。水はどういうところから来るのかをシミュレーションをしながら、包括的な対策を考えたと言う。当時の努力は、UNMISS制作のビデオにもまとめられている。

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 「今からこの2ヶ月ぐらいはこれに集中して仕事をしてください。そうでないと町沈みます」と号令を掛けて、ワンチームで結束して対応したと笑って応える平原さん。24時間体制で仕事をして、洪水が全部来てしまうまでにベンティウの町と、UNMISSの敷地と、それに隣接する避難民キャンプ、移動に欠かせない飛行場をかろうじて守るための土手を作ることができた。

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「大阪のおばちゃん気質で、みんなに発破を掛けて、乗り切った」と平原さんは笑って答えるが、緊張の72時間だったことだろう。土でできた堤防は水の動きを受けて侵食され、かつ上を人々が通路として使っているため、今もパキスタン軍による入念な堤防の点検と補修は欠かせない。パキスタン部隊を率いるリーダーは、「堤防と道路の補修は、UNMISSの活動にとっても地域住民にとっても死活問題。多くの人々が『ありがとう』と言ってくれたり、手を振ってくれたりするので、とても誇らしく感じる」と顔を輝かせた。 

パキスタンの工兵部隊のリーダー ⒸUNMISS Photo

洪水は人々の安全を脅かす。それまでは主に紛争から避難した人々が身を寄せていたこのIDPキャンプに、洪水による避難民が押し寄せ、人口過密状態に陥った。政治的に対立する人々や牛の放牧のための牧草をめぐって緊張関係にあるコミュニティーが狭いキャンプに集住することにもなり、一触即発の状況が生まれた。さらに2023年4月に南スーダンの北隣のスーダン共和国で紛争が勃発し、スーダンから帰還した南スーダン人たちがIDPキャンプの親戚を頼って身を寄せるようになった。 人口過密はコミュニティー間の軋轢やフラストレーションを高め、諍いの火種も生まれやすくなる。長老の力などを借りながら仲裁するのもUNMISSの仕事だ。 

IDPキャンプのリーダー達とのミーティング。スーダンからの帰還民を受け入れた結果、これまでの配給食料ではとても足りないとの声が多数上がった ⒸUNMISS

また、環境が一変して、多くの人は牛飼い中心だった生計手段を大きく変えなければならず、漁業や魚の干物づくり、カヌーづくりに挑戦する人もいるが、慣れない仕事がうまく行くとは限らず、とかく援助物資に頼りがちだ。その援助も、昨今の人道危機の増大と先進国からの援助資金の大幅な減少を受け、心もとない。 

筆者のために集まってくれた市民社会関係者から、米国からの援助資金の停止などへの不安の声が上がった ⒸUNMISS Photo

さらに、南スーダンでは、牛飼いが牧草地と水を求めて牛の群れを移動させる中で、農業を行うコミュニティーの住民たちと争いが生まれがちだ。移動の前と後に放牧民と農耕民との間で問題解決のための話し合いの場を持つことが必要で、それをお膳立てするのもUNMISSの重要な仕事だ。牛飼いたちは銃を携行していることが多いため、コミュニティー間の争いに発展しないよう、疑念をあらかじめ晴らしておくことが必要なのだ。 

 

unmiss.unmissions.org

UNMISSの草の根活動で、コミュニティのリーダーたちは牧畜民と農民の和平を訴えたⒸUNMISS

次回は気候危機が女性の安全に及ぼす影響とその解決策について考える。