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「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(17) 本田桂子さん

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第17回は、本田桂子さん(米国コロンビア大学国際公共政策大学院の客員教授・客員研究員)からの寄稿です。

 

コロナを契機により良い世界にーピンチをチャンスにして発展途上国との共生を

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米国コロンビア大学国際公共政策大学院の客員教授・客員研究員。発展途上国における政治的リスクに対し保証を提供する世界銀行グループの機関、多数国間投資保証機関(MIGA)の長官CEOを2019年10月末までつとめた。それ以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニーのアジア部門で初の女性シニア・パートナーとして、企業戦略M&Aや提携などに関する助言を24年にわたり行った。ベイン・アンド・カンパニーおよびリーマン・ブラザーズにも勤務。2020年より三菱UFJファイナンシャル・グループとAGC株式会社社の社外取締役一橋大学客員教授を務める。国連投資委員会委員。

 

コロナはグローバル

日本でも感染者が増えているようですが、罹患なさった皆様にはお見舞いを申し上げます。中国で発生したコロナは、イタリアをはじめとする欧州で猛威ふるい、私の住む米国ニューヨークにもやってきました。この原稿を書いている8月16日時点で、米国は、大変残念なことに、ジョンズホプキンズ大学によると、累積コロナ陽性確認者数が541万人超で世界トップ、一日の新規陽性確認者が42,000人と世界で第二位となっています。コロンビア大学でも学生が一人と職員が一人亡くなりました。

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ニューヨークの病院で、新型コロナウィルスに感染した疑いのある患者の対応にあたる医療従事者たち。©︎ UN Photo / Evan Schneider

 

昨年まで世界銀行グループの多数国間投資機関(MIGA)に在籍していた私が気になるのは、世界の国々、特に医療機関が充実していない国は大丈夫だろうか、という点です。ジョンズホプキンズ大学は、米国のみならず、世界各国のデータを集めていますので、みてみました。

 

コロナの、この7-8か月でのグローバル展開には驚くべきものがあります。既に、188の国と地域で感染者が確認されています。世界銀行の加盟国が189か国ですので、ほぼ世銀全加盟国を席巻したといってもよい状況です。加えて、コロナは、老若・人種・性別を差別することなく、感染を拡大しています。

 

コロナ下でのグローバル連携進捗-官も民も

コロナ以来、国際機関の在り方について、課題の指摘が相次いでいます。しかし、グローバル連携を、特に官民あげてのグローバル連携を確認できたのも、コロナを通じてでした。

 

最初に私の目についたのは、各国中央銀行と国際金融機関の連携でした。IMF国際通貨基金)、世界銀行グループなどが対策を打ち出す中、各国の中央銀行は、市場に大型の資金供給を行うことを、揃って示しました。その結果、資本市場は落ち着きをみせました。これは情報が世界各国にあっという間にいきわたった賜物だと思います。世銀IMF総会などは対面では開催できなくなりましたが、どんどんオンラインに移行し、時差の壁はあるものの、それを乗り越えて議論の場は設定され、世界的に連携してのコロナ対応は進んでいます。これは主にパブリックセクター、官のグローバル連携でした。

 

医療関係の論文は、オンラインで、しかも査読前の論文を、私でも読めるようになりました。また、それらの論文に関する、その分野の専門家の意見・感想も読むことができます。これは医療関係者が、コロナに感染した患者の治療にあたり、その知見を共有化する、という観点から大きなプラスだったと思います。加えて、感染がおこった状況も供給され、予防として何を行うべきかも共有されました。さらには、薬やワクチンの開発も、複数の国の機関が共同で行うものが目につきます。こちらは私は沢山の官民を超えた、個人も含めた連携だと感じました。

 

教育の分野でも、コロンビア大学をはじめてとして多くの大学が、オンラインへ移行しました。私のESG投資のクラスもすべてオンラインになり、学生は、ニューヨーク、サンフランシスコやフランスから参加してきました。加えて、これまで多忙だった方々が、移動の時間がなくなったということで、私の授業にゲストスピーカーで、ドイツなどからも参加いただけました。これにヒントを得て、コロンビア大学では、日本関連のウェビナーを企画し、実行しております。78日には、フィリピン・マニラの浅川アジア開発銀行総裁、米国・ワシントンの古澤IMF副専務理事とパネルディスカッションをご一緒し、伊藤隆敏教授が東京からモデレートして下さいました。500人を超える方々、それも日本と米国だけでなく、英国、インド、ブラジルなどからもご参加いただきました。遠隔な方々とオンラインでつながり議論ができるは、わかってはいましたが、いままではあまりやっていませんでした。コロナのおかげで、世界の遠いところにいる方々とつながり、意見交換できる、は大きな発見でしした。DX(デジタルトランスフォメーション)を肌で感じた次第です。これも官民連携できる分野だと考えます。

 

コロナの主戦場は発展途上国

世界中に広がったコロナですが、どこが主戦場なのでしょうか。34月は、先進国が新規患者の過半をだしていたのですが、8月15日時点の陽性確認者数でみると、77%が発展途上国で、先進国の23%のうち19%は米国なので、米国を除くと大半の新規感染者は発展途上国ででていることがわかります。

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世界銀行によると、2019年時点で、世界の人口は約77億人のうち、84%発展途上国に住んでいます。約64.4億人です。そのうち、インド、バングラデシュ等の南アジアに18億人、サハラ砂漠以南のアフリカに11億人が住んでいます。

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発展途上国との共生を進めるーピンチをチャンスに

発展途上国は、経済成長率が高いだけではなく、人口も多く、市場として有望なところも多いのです。そのため、民間による発展途上国向けの対外直接投資(FDI)が増え、2017年には官によるODA3倍を超えていました。日本企業にも、製造の一部移転だけではなく、新たな市場を求めて、発展途上国へ事業を拡大されているところが沢山あると思います。加えて、発展途上国の成長性のため、純粋な投資先として投資を進められているところも多いと理解しています。

 

ニューヨークでは、3、4月はICUや病院のベッドに加え、人工呼吸器、マスク、医療用ガウンなどの確保に大わらわでした。世銀グループMIGA時代に、発展途上国を多くまわり、かつそういう国で病院の設立を民間が投資する支援をさせていただく機会もありましが、ECMO(体外式膜型人工肺)は勿論、人工呼吸器やICUは十分にありません。こういうところが、コロナの主戦場になっている現状を大変憂慮しています。

 

最も気になるのが、コロナ罹患防止に有効で安全なワクチンができた場合の配布です。先進国中心・優先になってしまうと、医療体制が脆弱な発展途上国での犠牲者が増えてしまいます。また、コロナは国境を越えます。発展途上国での感染を抑えないとそれが先進国に流入してきます。発展途上国にも配慮した、ワクチンの配布を強く望みます。

 

コロナの長期化に伴い、日本の皆様には、大変お疲れのことと存じます。毎日の罹患防止と仕事・勉強で精一杯というのも、よくわかります。しかし、コロナ後を見据えると、日本だけで物事は完結できません。グローバル化は日本にとっては不可欠です。困ったときに助けてもらったことは多くの人は忘れません。この非常時だからこそ、ウィズコロナ時代とコロナ後に発展途上国といかに共生していくか、を考えませんか。

 

愛する祖国日本の皆様が、コロナを乗り越えられますように。加えて、コロナを契機として、グローバル化、特に発展途上国と共生においてよりよい形をうちだされますように。

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新型コロナウィルス対応の最前線にいる医療従事者に敬意を表してライトアップされたエンパイアステートビル。©︎ UN Photo / Evan Schneider

 

米国・ニューヨークにて

本田 桂子