国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

ダイバーシティー&インクルージョンを体感する「未来言語ワークショップ」

 

国連広報センター所長の根本です。

 

聾・視覚障害、知的障害、精神障害などの障害とともに生きる人々、また日本語がわからない外国人は、様々な言語的な壁を感じながら日本で暮らしています。そんな方々のニーズや心細さを疑似体験して、「言葉」を「伝える」ことの意味を体感しようという「未来言語ワークショップ」が10月20日、京都国際映画祭のSDGs企画として開催されました。まさに「誰一人取り残さない」を体感して理解を深めようというイベントです。

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「未来言語ワークショップ」に参加する国連広報センターの根本所長(中央)

 

話せない・見えない・聞こえない中での意思疎通

 

私が参加したチームには、漫才コンビ麒麟」の田村裕さんも参加。もともと聴覚障害を持つ方も一緒です。ウォーミングアップにまず、マスク、アイマスク、音がガンガン鳴っているヘッドホーンが渡され、話せない・見えない・聞こえないという状況をそれぞれが疑似体験しながら、一人一人が次の人に自分のあだ名を伝えていく、というゲームを行いました。チームのほかのメンバーが協力して、メッセージの伝達のお手伝いをしていきます。この時点では、筆談や手のひらに書くことが許されていたので、目が見えない状況の人をみんなが助けることである程度コミュニケーションをとることができました。

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ゲームで使用されたカード

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引いたカードにあわせてゲームの準備をする参加者

 しかしながら、次の出題からは筆談・手のひらに書くことは禁止になり、ゲームのハードルがさらに高くなった状態でしりとりを行うことに。話せない人から目が見えない人(ジェスチャーでは直接には伝わらない)へ、そして目が見えない人から耳が聞こえない人(声で直接伝えられない)への伝達は、頼りたい伝達手段では直接には相手に伝わりません。そのため、周りのチームメンバーを頼ってヘルプしてもらわなければならないのですが、なかなか伝わらなくてもどかしさばかりが募ります。そんな中、「家族解散」を描いた自伝『ホームレス中学生』で知られる田村さんは、悪戦苦闘するチームのメンバーへのフォローの言葉がとてもあたたかく、「意思表示をはっきりするために、はい・いいえ、わかった・わからない、のサインを決めましょう」とリードしてくれます。

 

さらにレベルが上がって、今度は一人が見えない・話せない・聞こえないという状態になり、残りのチームメンバーが「○○を△△する」というフレーズを制限時間内で伝えるというお題です。チーム内でジョーカーを引いてしまった私がマスクとアイマスクにヘッドホーンを装着すると、外部から遮断され、何とも言えず心細い状態です。

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見えない・話せない・聞こえない状態の根本所長(中央)同じチームの麒麟の田村裕さん(中央左)

 チームメンバーたちは私のカラダを使ってジェスチャーをさせ、意味を伝えようとするのですが、明確に分かったのは「食べる」という行為のみで、あとは伝えようとする一つ一つのアクションが明確ではなく何が何だかわかりません。「????」で頭がいっぱいになったところで、タイムアップとなってしまいました。正解は「映画を観る」。「食べる」という行為は「ポップコーンを食べながらすること」を意識してのジェスチャーだったのですが、核になるメッセージからは離れてしまいました。盲目のピン芸人濱田祐太郎さんのチームは濱田さんが見事正解。「僕の腕で大きな長方形を作らされて。そして目を触られたので、大きなスクリーンを見るということなのかな、と思いました」と流石の推理力。

 

最後は難易度MAXで、話せない・見えない・聞こえない一人が、話せない・見えない・聞こえないもう一人に、「○○な(形容詞)△△を◎◎する」というフレーズを伝えるゲーム。正解の「面白い絵を描く」に対して、私のチームでは「面白い」が伝わりすぎて、「面白いお笑いを見る」になっていました。

 

アートと笑いで、みんなを巻き込む「アートオーク笑」

 

それに引き続いて、障害のあるアーティストが最低落札金額を決め、一般の方を巻き込む「オークション」と「笑い」が融合した今までにない新しいオークション「アートオーク笑」が、やはり京都国際映画祭のSDGs企画として行われました。個性のはじける作品を描いたアーティスト、描かれた芸人、そして司会の河本準一さんのおしゃべりが純粋に楽しく、これが障害や生きづらさを抱えた方々による世に言う「アウトサイダーアート」であることを忘れていました。作品の作り手とモデル双方のナマの声を聞いた上でのオークションという豪華な設定に、つい熱くなって参戦。河本さんを描いたステキな肖像画を競り落としました!

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ご自身で描いた絵を持つXLさん(左)、絵のモデルの濱田祐太郎さん(中央)、司会の河本準一さん(右)

 この日のイベント参加は、相手の立場になって考えることを促してくれると同時に、メッセージを伝えたいという自分の中にある欲求にも気づかせてくれました。これまでにない体験でした!ダイバーシティー&インクルージョンに関する企業での研修などにも活用できるワークショップでもあるでしょう。

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根本所長が落札した絵を描いたAckeyさん(左)

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秋晴れの中、ワークショップ以外にも様々なイベントが開催されていました