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国連のさまざまな活動を紹介します。 

TICAD7リレーエッセー “国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱” (15)

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が2019年8月28-30日、横浜市で開催されます。日本では6年ぶりとなるTICADに向けて、国連広報センターはアフリカを任地に、あるいはアフリカと深く結びついた活動に日々携わっている日本人国連職員らに呼びかけ、リレーエッセーをお届けしていきます。

 

取り上げる国も活動の分野も様々で、シリーズがアフリカの多様性、そして幅広い国連の活動を知るきっかけになることを願っています。第15回は、国連食糧農業機関(FAO)アフリカ地域事務所でパートナーシップ・オフィサーを務める藤原和幸さんです。

 

第15回 国連食糧農業機関(FAO) 

藤原和幸さん


~アフリカにおける飢餓撲滅 2025年までの実現に向けて~

 

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FAOアフリカ地域事務所の会議室で同僚と(左が筆者)=2018年12月、ガーナ・アクラ

1980年生まれ。2003年京都大学農学部卒業、05年英国レディング大学で農業開発経済学修士号取得。在タンザニア日本大使館専門調査員、JICA農村開発部ジュニア専門員、JICAケニア事務所企画調査員/稲作振興のための共同体(CARD)事務局員を経て、13年から国連世界食糧計画(WFP)ガーナ国事務所P4P事業担当官(JPO)、16年からマラウイ国事務所P4P事業調整官。17年1月より現職。 

 

現在、全世界では約8億2080万人、アフリカ全土では約2億56500万人の食料安全保障が脅かされています。

 

アフリカ地域の栄養不足人口とその割合(蔓延指標)は、00年から10年まで減少した後、大きな改善は見られず、15年の2億2002万人(18.6%)から17年の約2億5650万人(20.4%)へと増加し、「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標2「飢餓撲滅」の達成が危ぶまれています。

 

サハラ砂漠以南のアフリカ(SSA)地域では、地域によって差があり、中でも国家農業投資計画を策定し、着実に実施している国では良い結果が見られることから、堅牢な政策や計画の策定・実施への技術支援をさらに強化することが求められています。

 

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ガーナ(地図中赤く囲まれたところ)の首都・アクラにFAOアフリカ地域事務所がある

 

使命達成を支える「戦略的パートナーシップ」

私の所属するFAOアフリカ地域事務所(ガーナ・アクラ)は、このSSA地域におけるFAOの47加盟国を統括しています。FAO全体事業の約半分がSSA地域で実施され、事務所の職員数も約130名と世界各地に5つある地域事務所の中でも最大規模です。

 

私は、さまざまな機関とどう連携すればより効果的な成果が得られるかを考えたり、調整・実行したりする戦略的パートナーシップ班の班長を務めています。

 

FAOは、このリレーエッセイのテーマでもあるアフリカ開発会議TICAD)にも積極的に参加しています。08年のTICAD 4(横浜で開催)で発足された「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」や16年のTICAD 6(ナイロビで開催)で設立された「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」他にもパートナー機関として参画しています。翌年の2017年にモザンビークで、続いて2018年に東京で開催されたTICAD閣僚級会合では、ナイロビ宣言と行動計画の進捗が協議され、食料・栄養安全保障の確保や農業生産性向上の必要性が改めて確認されました。また、FAOと国際農業開発基金(IFAD)、国連世界食糧計画(国連WFP)の3機関はいずれもイタリア・ローマに本部を置き、食料に関する活動を行っていますが、会合ではこの3機関による合同声明が出され、私はその草案の調整を担当しました。

 

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「第30回FAOアフリカ閣僚級地域会合」に先立って行われた「市民社会地域会合」終了後に参加者と(前列右から3人目が筆者)=2018年1月22日、スーダンハルツーム

 

戦略的パートナーシップを担当する中で、国際情勢に基づく地政学的・政治的、また、組織や個人の関係の観点から、細かな気配りや調整能力の必要性を実感したのは18年にスーダンでアフリカのFAO加盟54ヵ国による第30回FAOアフリカ地域総会と市民社会地域会合が開催された時のことです。

 

会議開催前年10月には、世界最大の人道危機と言われたダルフール紛争後初めて、米国政府が20年間継続してきた対スーダン経済制裁を解除しました。ただ、国連安全保障理事会制裁や国際刑事裁判所ICC)の措置の影響もあり、政治的に慎重な対応が求められるなど、会議準備・運営にはいろいろな苦労がありました。時には意見の相違等もありましたが、多国籍・多文化のチームで会議を大成功に導けたことを嬉しく思いました。

 

日本政府による支援と成長続けるアフリカ

冒頭に書いたように、アフリカでは5人に1人が飢餓の脅威にさらされています。

 

過去10年の間、アフリカ大陸における気候変動に関連する災害によって、年間平均1600万人が被害を受け、年間平均6.7億米ドルの損失があったと推計されています。気候変動に適応しつつ、気候変動を緩和していくための対策を講じなければ、その影響により、50年までに世界全体でさらに7100万人の食料安全保障が脅かされ、その半数以上はSSA地域の人々になると警鐘が鳴らされています。30年にはアフリカの人口は17億人に達すると推測されており、食料需要を満たすため、気候変動下での食料増産が急務です。

 

一方で、人口と収入の増加は農業やアグリビジネスの成長に向けた大きな機会と捉えることができます。アフリカの食料・農業市場規模は30年には1兆米ドルに達し、現在約4.2億人の若年層も50年には倍増すると予測されています。AUは大陸自由貿易圏(CFTA)創出の構想の下、23年までに大陸域内貿易の倍増(農産物は3倍増)を目指しています。農業生産物のアフリカ域内輸出額は00年の20億米ドルから13年には137億米ドルへと増加しました。16年時点で12億人を擁する2.2兆米ドル超規模のアフリカ市場において、農業における潜在力を引き出すためには、日本をはじめとするさまざまな関係機関や民間企業、大学を含む研究機関、民間企業、市民社会等との戦略的パートナーシップが鍵となります。

 

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「CARD第7回総会」でアフリカにおけるFAOの稲作振興のための技術協力事業などを発表する筆者(右奥壇上)=2018年10月、東京・市ヶ谷のJICA総合研究所(JICA提供)

 

持続可能な農業に取り組むカカオの実証展示農場

日本政府はFAOの活動を長年にわたり支援しています。FAOの通常予算に対する日本の分担金は世界2位(19年2月末現在)で、任意拠出金への貢献も合わせ、その支援の下でアフリカではさまざまな事業が実施されています。

 

例えば、気候変動下におけるカカオの持続可能な生産へ向けた取り組みがあります。アフリカは世界の約7割のカカオを生産しています。日本はカカオ輸入の7割以上をガーナに依存しており、日本の消費者に美味しいチョコレートを届けるためには持続可能な生産が不可欠です。

 

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カカオの枝の刈り込み作業 (資料写真、 ©FAO, K. Boldt)

 

約80万のカカオ農家の大部分が2ヘクタール以下の小規模零細農家で、家庭の食料安全保障を確立するために必要な現金収入の半分以上をカカオ豆の生産・販売から得ています。しかしながら、合理的ではない栽培方法、カカオ樹木の老朽化、土壌肥沃度の低下、病害虫の発生、変動する国際相場などによって生産性が低下しているほか、金の小規模違法採掘によるカカオ農園への被害や気候変動による悪影響も示唆されており、早急な対策が必要です。FAOは、ガーナ政府、東京農工大学、ガーナ大学、非政府組織(NGO)の「おはようガーナ基金」と共に、ブラジルのアマゾンで日系移民が開発した遷移型アグロフォレストリー・システム(SAFTA)をガーナの環境や社会背景に適応させるために実証展示農場を設置し、データ収集を行い、気候変動に適応できる持続可能な農業の普及に取り組んでいます。同国にとってカカオは金に次ぐ第二の外貨獲得商品。年間20億米ドル相当の輸出しており、このプロジェクトは同国の持続可能な経済成長に貢献しています。

 

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「おはようガーナ基金」の実証展示農場でカカオの遷移型アグロフォレストリー・システムを見学する農家や大学、政府関係者=2019年3月21日、ガーナ・サワン

 

FAOは、日本政府はもちろん、大学を含む研究機関、民間企業、市民社会農林水産業協同組合などとの戦略的パートナーシップを強く求めています。日本の農林水産業や食品産業の知見と優れた技術を活用し、アフリカの飢餓撲滅のために一緒に取り組みませんか?