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アフガニスタンで世界遺産保護に取り組む (後編)

                                                    

バーミヤンの大仏は再建されるべきか否か?

        

 

20年以上内乱が続いた2002年よりアフガニスタン文化遺産復興に取り組むユネスコで、文化財の復興に携わる長岡正哲(ながおか・まさのり)さんに、バーミヤン文化遺産保護の意義や難しさについて前編に続き寄稿して頂きました。

アフガニスタン世界遺産保護に取り組む 前編- 文化遺産バーミヤンの保護と経済復興の両立」(⇒リンク)とあわせてお読みください。

 

~お知らせ: 本記事(後編)で登場するバーミヤン大仏再建のための技術会合及び公開シンポジウムが日本政府の支援により、2017年9月27日から30日に、東京芸術大学にて開催されます。

 

 

 

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長岡正哲(ながおかまさのり)さん

1968年生まれ。ユネスコ・カブール事務所文化部主任。
筑波大学大学院で世界遺産学博士号、米国コロンビア大学大学院美術史考古学修士号取得2004年よりユネスコ勤務。ユネスコ・パリ本部世界遺産センターアジア太平洋課事業企画専門官、ユネスコジャカルタ事務所文化部主任を経て現職。
近著に『
Cultural Landscape Management at Borobudur, Indonesia(Springer出版)、『Borobudur: the Road to Recovery; Community-based Rehabilitation Work and Sustainable Tourism Development』(National Geographic Society / UNESCO出版)など。

 

  

東西両大仏をはじめバーミヤンの多くの文化遺産タリバンによって破壊されてから今年2017年で16年が経ちました。本年3月11日、地元政府と市民の共同事業として文化財の保護と恒久的な国の平和を希求する記念式典が、高さ55メートルの西大仏の後背に位置する仏龕内で開催され、250人を超える地元住民が集まりました。私もユネスコの代表としてこの事業に参加する機会にめぐまれました。

 

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©Nagaoka/UNESCO

2001年に破壊された東大仏。38メートルの大仏立像は現在仏龕(ぶつがん)内に存在していない。

 

 

バーミヤンの文化的資産の保護と平和の維持をどのように実現させるか。式典ではバーミヤン知事や地元NGOの若者らが、それぞれの立場から、集まった多くの市民に訴えかけました。バーミヤンの歴史的、考古学的価値のある文化財はもちろん、世界遺産の価値を有するバーミヤン渓谷一体に広がる文化的景観の保護は急務です。

 

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©Nagaoka/UNESCO

平和を希求する祭典が地方政府と村人により開催される。

 

 

式典では東西両大仏がどのように破壊されたかを伝える劇も上演されました。大仏がいよいよ破壊される様子を地元の役者らが演じている時、私は昨年会った一人のアフガン人のことを思い出さずにはいられませんでした。彼はタリバンによって大仏破壊工作を強いられた23人のうちの一人で、今もバーミヤンに住み続ける唯一の村人です。子供6人を含む家族8人で平和に暮らしていましたが、2000年にタリバンによって捕らえられ4か月間拘束された後、大仏爆破の準備のため24日間休みなく強制的に働かされました。爆発物の運搬の他、大仏頭頂部から一本の縄で吊りされながら、石像にドリルで穴を空け、ダイナマイトを仕掛けることを命じられたのです。その工作に従事していた村人の一人がこの蛮行を非難すると、即座に彼の目の前で銃殺されたと話す彼に表情はありませんでした。心臓発作で亡くなった村人もいました。作業の間、棒で体を殴打され続け、常に死がすぐ目の前にあったと彼は私に語りました。現在空洞になっている仏がんを見る度、当時の壮絶な記憶が蘇ると同時に、悔しい気持ちが沸き起こるという彼の周りには、無邪気な幼い彼の子供たちがまとわりついていました。大仏が再建されれば、彼は救われるという反面、またタリバンによって大仏破壊工作が起こるのではないかと心配していました。

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©Nagaoka/UNESCO

タリバンにより大仏破壊の強制労働を強いられた村人の家族には笑顔が広がっていた。

 

現在バーミヤンイスラム教徒がその大勢を占めています。バーミヤンには現在ひとりの仏教徒もおらず、大仏や仏龕が宗教儀式や礼拝の場として利用されることはありません。ではなぜイラスム教徒のアフガン人がバーミヤン仏教遺跡を保護する努力をしているのでしょうか。これは実に多く聞かれる質問です。バーミヤンの大仏主崖はこれまで、地元住民の間で中心的な役割を果たしてきました。地元の人々は休日には家族とともにそこを訪れピクニックをし、毎年新年の3月21日のナウルーズの日にはここで祝い、断食月の終わりのラマダンの終了を祝う大祭をここで催し、伝統的なアフガニスタンのスポーツであるブズカシもここで開催されます。バーミヤン遺跡は地域の文化と慣習に密接に繋がり、今ではなくてはならない場所として地元住民に愛されているのです。

 

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©Ghulam Reza Mohammadi/UNESCO

多くの村人が観戦する伝統スポーツ、ブスカシ。毎年数回大仏前の広場で開催される。

 

2016年トルコで開催された第40回世界遺産委員会で、アフガン政府はバーミヤン大仏を再建する意向であると正式に表明しました。これを受けユネスコは日本政府の支援により、2017年9月27日から29日までバーミヤン大仏再建のための技術会合を東京藝術大学で開催します。参加者は情報文化大臣をはじめとするアフガン政府要人の他、世界遺産文化財保護の専門家、教授、ユネスコ職員等計80名に及びます。3日間の技術会合に続く9月30日には、同じく東京藝術大学で一般の方を対象に公開シンポジウムが開催されます。

これまでバーミヤン大仏の再建の是非についての議論はされていませんでしたが、東大仏龕の保護が完了した今、学際的な議論を進める素地ができつつあります。また2013年にドイツ隊が行った足の再建が契機となり、アフガニスタン政府はイコモスおよびユネスコから大仏再建を学術的に検討するよう勧告されています。

大仏の再建には、修復の技術論や文化財のオーセンティシティー(眞正性)の問題、関連する国際条約との整合性や、アフガニスタンの治安面の問題など様々な課題を考慮しなければなりません。前ユネスコ親善大使の平山郁夫氏は、広島の原爆ドームやドイツのアウシュビッツ奴隷貿易の拠点となったセネガルのゴレ島のように、現状のまま人類の負の遺産として後世に遺し、人類が行った蛮行を二度と繰り返してはならないという強いメッセージを残すべきだと生前語っておられました。その一方、シリアやイラクなどの中東では、現在もテロリストによる文化財の破壊が横行しているだけでなく、それらの盗難、転売により新たなテロリズムの資金源として活用されているのが現状です。

今回東京で行われるバーミヤン大仏再建の会議は、壊された文化財をどのように補修するかという技術的な話に留まらず、テロによって破壊され、オリジナルの部材がほとんど散逸した文化財を新たに建立することの是非や、その作業指針についても話し合われます。そのため会議の結果次第では、従来の世界遺産条約の作業指針に大きな影響を及ぼす可能性があります。バーミヤン大仏再建の協議を通じ、今こそ人類の英知を結集させ、文化的な側面から世界の平和をどう築くべきか、広く真剣に話し会う機会が日本の支援によって東京で行われます。

 

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©Nagaoka/UNESCO

仏がんから眺めるバーミヤン渓谷全景。

 

 

バーミヤンが今日まで伝えてきた歴史と自然、文化は、宗教や国の違いを超えて多くの人たちに受け入れられています。そのうえで、かけがえのない重要な価値を有しているバーミヤン文化遺産として包括的に保護され、次の世代に引き継がれなければなりません。アフガニスタンの文化復興はまだまだ始まったばかりで、国際的な協力やアフガニスタン人自身の更なる努力が必要です。先人が築いてきた貴重な文化遺産を未来に伝えるために、毎日の地道な努力が今もここアフガニスタンの青い空の下で続いています。