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紛争下の性的暴力に取り組み、平和と安定をめざす ~国連コンゴ民主共和国安定化ミッション 大庭真理枝~

国連平和維持要員の国際デー」特集第3弾は、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)の大庭真理枝上席プログラム担当官です。「ジェンダーの観点」をあらゆる領域に取り入れて活動するMONUSCOで、紛争下での性的暴力の防止と対応に取り組む日々についてお聞きしました。

 

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紛争下での性的暴力に関するワークショップにて、
コンゴ民主共和国の上院特別委員会のメンバーと筆者(写真左)

 

■紛争下の性的暴力の問題について戦略的、専門的アドバイスを提供する

毎日が課題と学習の連続ですが、私は毎朝、前進と問題解決のイメージを頭に描きながら、「がんばろう」と自分自身に言い聞かせて起き上がります。私が喜びとやる気を感じるのは、政府のカウンターパートや、一緒に働く現地の人々がスポットライトを浴び、自分の国と国民のために性的暴力と闘おうという、私が伝えたメッセージをそのまま主張する姿を見る時です。

私は紛争下での性的暴力(Sexual Violence in Conflict = SVC)ユニット責任者として、コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo = DRC)における紛争関連の性的暴力犯罪の防止と対応、そしてその不処罰と闘うための文民、兵員、警察による総合的な取り組みを実現するために、国連とそのパートナーを支援する役割を担っています。その関連で、ミッションや国連の政策、戦略、指令、研修にSVCの問題を取り入れるための戦略的、専門的アドバイスを提供することが、私の主な仕事です。

現在のMONUSCOの戦略的優先課題は市民の保護、安定化、平和・安全・協力枠組みです。ジェンダーの観点があらゆる領域に取り入れられているのは、脆弱性に取り組み、性的暴力の防止と対応を図るとともに、戦闘時や輸送時、さらには国家当局のプレゼンスが弱く、治安が保たれていない環境(武装解除・動員解除・社会復帰や治安部門改革が進行中で、国家の実効支配が及んでいない場合も含めて)において、性的暴力を含む人権侵害を最も受けやすい女性と子どもを守るためでもあります。

また、DRC政府がコミットメントや戦略を実施に移せるよう、支援や国内避難民コミュニティ、議員、市民社会組織、女性団体、宗教団体などの様々なリソースを結集して、政治的、戦略的なアドボカシーにも貢献しています。その他、紛争下での性的暴力と闘うための協働努力に関する問題と、その進捗状況に関する安全保障理事会への報告の取りまとめも行っています。

 

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MONUSCOを率いるコブラー事務総長特別代表(写真左)と
コンゴ民主共和国軍(FARDC)の女性兵士
©Photo: MONUSCO/Myriam Asmani

   

■紛争下での性的暴力、その予防と対応には女性の役割が不可欠

SVC対策に取り組む安保理決議(1820/1888/1960/2106)では、SVCの予防と対応で女性が果たすことのできる不可欠な役割が数多く示されています。女性は人権侵害や性的暴力の被害を受けやすく、被害者やその家族、証人を守るために秘密にしておく必要があるセンシティブな情報が多くあります。女性警察官を採用することで、女性被害者はその経験を打ち明けやすくなり、国連PKOミッションに近づきやすくなります。女性の裁判官がいれば、女性被害者の保健、心理社会、法律サービス全体に対するアクセスを確保することに役立ちます。

DRCは、子どもの保護と性的暴力の防止を担当する特別警察部隊を設けている国の一つです。この部隊では、女性の警視監(Fさん)がプログラムの運営に指導力を発揮しています。Fさんとは、DRC着任以来のお付き合いで、現状や万が一の場合の支援について、意見を交換してきました。私はいつもFさんの役割を支援していますが、彼女は立派に任務をこなしています。

また、性的暴力に取り組む警察改革プログラムを一緒に推進してきた女性警察官が最近、キンシャサで開かれたフランス語圏実務者サミットで「ジェンダーと治安部門改革(SSR)」をテーマとする分科会の議論をリードしたことにも満足しています。参加者は、性的暴力に慎重に取り組もうとするコンゴ女性警察官の取り組みや方針、実践に関する説明に聴き入っていました。その立派な姿を見ることは、私にとって大きな喜びであると同時に、自分の努力が報われたと感じる瞬間でもありました。分科会では、DRC警察がその経験を「優良事例」として、他国と共有することが合意されています。

 

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MONUSCOと地元の大学が共催したセミナー。
女性参加者からの積極的な質問が相次ぐ
©Photo: John Bompengo

 

国内避難民(IDP)のキャンプやコミュニティでは、性的暴力が犯罪であることや、被害者がDRCの国内法令によって、どのようなサービスを、どこで受けられるかを教える啓発キャンペーンを行うことで、女性が発言したり、巡視中や駐留中の警察や軍隊に対し、どこに、どのような社会的弱者集団がいて、保護を必要としているかを明らかにしたりすることが可能になります。

私はこのように、政府の政治的なコミットメントを制度的対応というレベルに高めるための戦略とツールの開発を支援しています。最近の例としては、SVCに関する上院特別委員会の設置や、子どもの保護、性と性差に基づく暴力(SGBV)を担当する特別警察部隊の結成が挙げられます。また、政府が中心の「ジェンダー暴力対策国家戦略(NSGBV)」を進め、ジェンダー省(MGFC)への支援によって、幅広い啓発活動が行われる一方で、政府と国連の合同ミッションを現地に派遣し、NSGBVや地方での継続的取り組みを推進しています。

 

■DRC政府と国連の合同フィールド・ミッションを通し、被害の正しい理解を促す

現職のジェンダー大臣の就任時から、私は啓発と戦略的助言で彼女を必死に支援し、リーダーシップと当事者意識の育成に努めています。例えば、シャブンダ空港のヘリポートでラジオ・オカピのインタビューを受けた大臣が、私が話したことと全く同じことを話すのを後ろで聞いたときには、すばらしい幸福感と充実感、満足感がありました。それは、武装集団によるものとされる性的暴力やその他の人権侵害による被害者が多く出たシャブンダ地域を、政府と国連の合同フィールド・ミッションが訪れた時のことでした。

シャブンダでは、住民が医療や心理社会的支援をほとんど受けられず、警察の勤務環境は厳しく、被害者を裁判所まで送り届けたり、合併症を起こした被害者を施設の整った病院に移送したりするための交通手段もほとんどありませんでした。大きな村や首都に向かう道路の状況が劣悪だったためです。

私がフィールド・ミッションを企画したのは、南キブ州の州都ブカブから、PKOのヘリコプターでしか立ち入ることのできない遠隔地のコミュニティを訪れることで、現地の状況と、DRC全土での性的暴力対策に向けた包括的な取り組みを、大臣にもっと理解してほしかったからです。

 

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紛争下の性的暴力の問題を担当する
ザイナブ・ハワ・バングーラ事務総長特別代表
(写真右から2番目)の視察をサポート
©Photo: MONUSCO

 

私はチームとして、そして結束した国連の代表として、政府のコミットメントや取り組みに寄り添うとともに、女性と安全保障(Women Peace and Security =WPS)/SVCに関する国連安保理決議を実施し、SVCに対処できるよう、あらゆるレベルで連携し、国際社会の結集を図っています。

性的暴力に関する上院委員会の議長をはじめとするメンバーが、キンシャサのワークショップを企画しましたが、このワークショップは、政治家がSVCとの闘いでどのような役割を演じればよいかに関し、国連から研修を受けるために、DRC上院議員が自分たちで立ち上げたものです。また、私が協力、支援しているコンゴの人々の熱心な働きぶりも印象的です。

 

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キンサシャ郊外の町で、孤児となった子どもたちに食料支援を行う国連の女性警官
©Photo: MONUSCO/Myriam Asmani