国連広報センター ブログ

国連のさまざまな活動を紹介します。 

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(2) 國井修さん 

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めたブログシリーズ。第2回は、國井修さん(グローバルファンド 世界エイズ結核マラリア対策基金 戦略・投資・効果局長)からの寄稿です。

 

感染症対策に関わってきて、いま思うこと

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2013年より世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)戦略・投資・効果局長。それ以前は、国立国際医療センター東京大学、外務省などを経て、2004年より長崎大学熱帯医学研究所教授を務める。2006年より国連児童基金UNICEF)に入り、ニューヨーク本部、ミャンマーソマリアで母子保健、感染症対策、保健システム強化などに従事してきた。自治医科大学から医学士、 米国のハーバード大学院で公衆衛生修士東京大学で医学博士を取得。 現在も長崎大学千葉大学東京医科歯科大学客員教授を務める © Osamu Kunii

 

「新たな感染症パンデミックが起こることは想定していたが、これほどの規模と深刻さになるとは・・・」

世界で感染症の研究や対策にあたってきた専門家の中には、こう思っている人が少なくないと思います。私も中南米、アジア、アフリカなどで、感染症流行の恐ろしさはいやというほど知っていましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、欧米・日本などの先進国にまでその影響が及び、これほどの人的・社会的・経済的損失がもたらされるとは思いませんでした。

母国のために何もできないもどかしさがありますが、せめて日本から依頼された寄稿やインタビューには応えさせてもらっています。拙文ですが私からのメッセージとしてご笑覧ください。

  

1)「緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史」ニューズウィーク日本版 2020年3月30日 掲載):過去からの教訓をまとめました

2)「新型コロナ:「医療崩壊」ヨーロッパの教訓からいま日本が学ぶべきこと」ニューズウィーク日本版 2020年3月29日 掲載):欧州からの教訓をまとめました

3)「日本で医療崩壊は起きるのか? 欧米の事例とデータに基づき緊急提言」ニューズウィーク日本版 2020年4月21日 掲載):医療崩壊についてまとめました

4)「(インタビュー)『鎖国』で解決する? 新型コロナ 國井修さん」(朝日新聞 2020年3月25日 掲載):新型コロナ感染症を様々な視点で考えました

 *記事全文は下記の記事の右上をクリックしてご覧ください。また朝日新聞デジタルの記事はこちらから

朝日新聞社に無断で転載することを禁じる。承諾番号 20-1748)

5)「世界が多くの感染症に苦しんでいることも知って欲しい」(ビデオニュース・ドットコム 2020年4月17日 掲載):様々な角度からの質問に答えたインタビュー動画です

今、COVIDー19が流行し始めているアフリカを含めて、保健医療システムの脆弱な国々の支援に奔走しています。少し時間に余裕が出ましたら、投稿させて頂きます。

 

スイス・ジュネーブより

國井 修

「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」(1) 中満泉さん

国連諸機関の邦人職員幹部をはじめ、様々な分野で活躍する有識者を執筆陣に、日本がこのパンデミックという危機を乗り越え、よりよく復興することを願うエールを込めた新ブログシリーズ。第1回は、中満泉さん(国連事務次長 兼 軍縮担当上級担当)からの寄稿です。

 

ブログシリーズ「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」を始めるにあたって

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2017年に国連事務次長 兼 軍縮担当上級代表に就任。同ポストへの就任以前は、2014年から国連開発計画(UNDP)総裁補・危機対応局長を務めた。国連平和維持活動局、事務総長室および国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を含め、国連システムの内外で長年経験を積んできた。米国のジョージタウン大学外交大学院で修士号を、早稲田大学から法学士号をそれぞれ取得 © UN Photo

 

新型コロナウイルス感染症COVID-19パンデミックの影響でニューヨーク(NY)の国連本部がリモート勤務、NYや私の住むニュージャージー州NJ)でも基本的に外出禁止・自粛となり、すでに2カ月が過ぎました。普段のように出張に追われるわけではないものの、オンラインのツールや電話を使っての様々な会議・会合で仕事はかなり忙しく、携帯電話は鳴り止まず、朝から晩までコンピューターの画面に向かっていることもしばしばです。国連での私の現在の主管分野は軍縮・不拡散など安全保障に関わる分野ですが、この分野でも4月から5月に予定されていた5年に一度の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議などの会議が延期になりました。今は、これまで積み重ねてきた準備とモメンタムを失わないよう、最大限の努力を続けています。

外出禁止・自粛のなかで、多くの幹部が自宅から時差を超えてオンライン会議に参加し、密に連携をとっている

 

我が家では、家族がそれぞれ、仕事やオンラインでの授業やアルバイトなど、変則的で不自由な中でもルーティンができており、この危機の中一緒にいられることを感謝しています。同時に、この未曾有の危機の中、ウイルスに感染して闘病している人、仕事を失って不安の中暮らしている人のことを思っては、「連帯(ソリダリティー)」という言葉の重みを噛みしめています。何より命を救うために毎日奮闘している医療従事者や、行政機関の現場など、様々な分野で社会を支える仕事を続ける方々に感謝しています。

 

NY州は5月6日の段階で、6日連続で毎日の死者数が300人を下回る状況になり、総入院者数も23日間連続で減少を続け、ようやく4日連続で1万人を下回るようになりました。クオモ州知事の会見ではどのように経済社会活動を再開していくかについてが焦点になりつつあります。知事の会見は、危機のピークでも詳細なデータを駆使して冷静になすべきことを提示し、「我々に出来ないことなどない」「ニューヨーカーを信頼している」、と自信を持って語りかけるもので、聞き終わると、大丈夫、乗り越えられる、と安心感を得ることができました。知事はその後も、入院者数、感染率、死者数、病院のキャパシティ、抗体検査率、ウイルス検査率などに注目しつつ、感情や政治ではなく、事実とデータに基づいて再開する、と連日詳細な会見を続けています。

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ハドソン川越し見えるニューヨークの風景と橋にかかるソーシャルディスタンスの看板
© Izumi Nakamitsu 

 

日本でも緊急事態宣言が延長になりました。医療現場は厳しい状況にあり、経済活動も制限され、最も弱い立場にある人たち、そして自営業やフリーランスの方々の生活への不安は言葉にならないほど深刻になっていらっしゃるだろうと思いを馳せています。長く海外に暮らす私は、日々、日本のニュースをフォローしていますが、母国のために何もできないことに大きなもどかしさを感じています。

 

SNSやメディアの報道から、私が今もっとも心配しているのは、この危機の中、感染した人やヒーロー・ヒロインともいうべき医療従事者への差別や嫌がらせがなどで、社会の分断が垣間見え、皆の心が一つにまとまっていないように思えること。特にSNSでは、この危機をどう乗り越えるべきかについて異なる考え方の議論がエスカレートし、冷静さや礼節を欠いた個人攻撃もしばしば見受けられることです。

 

私は長い国連の仕事の中で、危機の現場や本部で危機対応に携わってきました。難しい人質事件の対応をしたこともあります。これらの経験で学んだことは、危機を乗り越えるには、何よりも冷静であること、目的をしっかり共有すること、その実現のために政治的立場を超え前例主義や官僚主義を排して、最適な方法と道筋を探すことが重要だということです。これを可能にするために必要なのは分断や非難の応酬ではなく、冷静な議論です。建設的な批判や議論は重要ですが、自分の立場や自分が属する組織を利するものであってはなりません。「危機」に対応するわけですから、通常では不可能と思われることを可能にしなければならず、大胆で早急な策が必要です。どの国もそれぞれの状況に合う対応を図り、各国でのこれまでの経験や教訓、未知のウイルスに関する研究データなどを参考に戦略を作っていくのは自然なことだと思います。

 

昨年亡くなった緒方貞子さんは、私の仕事上の恩師でしたが、「一人でも多くの命を救うためになすべきことを考え、党派を超え官僚主義を排し、それをどうやって実現するかを全力で模索せよ」という彼女の言葉を今、思い返しています。

 

COVID-19パンデミックによって、これまでの私たちの社会の不平等や格差、脆弱性がなお一層明らかになっています。このパンデミックは、医療・保健衛生上の危機というだけでなく、政治、経済、社会、文化、国際関係などありとあらゆる分野に深遠な影響を及ぼしています。第2次世界大戦以来最悪とされるこの世界的な危機を乗り越えたあとは、私たちの住む世界は以前の「普通」に戻るのではなく、おそらく様々な意味で根本的に異なるものになるのでしょう。つまり、どのような世界にしたいのかを、私たちは今からしっかりと考える必要があるということです。国連では、事務総長の指揮のもと、その途上で国連が果たすべき役割とは何かを幹部会で議論し始めています。先日、そんな議論の場に参加してくれた歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏の言葉が強く印象に残っています。「コロナ後の世界がどのようなものになるのかは誰にもわからない。わかっているのは、世界のあり方が、私たちの現在と向こう数カ月の行動にかかっている、ということだ。私たちは歴史上の分岐点にいるのだろう」

4月半ばの国連本部の様子と、未来に向けた希望 

 

国連で軍縮の仕事を続けながら、同時に日本人として自分に何ができるか、何をすべきかを考えています。そのなかで、様々な分野で経験を積んだ人たちが個人の資格で、日本が一人でも多くの命を救えるような形でこの危機を乗り越えるにはどうするべきか、何に留意すべきなのか、復興の際に以前からあった様々な問題点や課題に対応しながら一層強靭な社会を作るにはどうすればいいのか、ということについてそれぞれの考えをシェアする場をつくるべきではないかと考えました。

 

 一人ひとりの力は限られていることから、大掛かりなプロジェクトを立ち上げることはできませんが、東京の国連広報センターの理解と協力を得て、既存のブログサイト内に特別のシリーズを設けてもらえることになりました。

 

国連広報センターのブログサイトは、国連の公式な広報活動から一線を画し、国連の枠を超えて広く国際協力に携わる各方面の方々の寄稿などを活発に掲載しており、今回のブログシリーズにまさにふさわしいプラットフォームです。

 

ブログ寄稿のルールはシンプルです。日本の危機対応とより良い復興に貢献するという目的を共有すること。所属組織のもつ情報や専門的なデータの利用は可とするが、その組織の立場を代弁するのではなく、個人の資格で語ること。特定の組織や政治的立場に与したり、また自己の私益をはかったりするものではないこと。特定の組織や国、個人を攻撃するものではないこと。批判や反対意見を述べる際には、共通の目的に貢献するために、建設的な批判であること。多くの人々に理解してもらい、日本国内での議論・意見交換に役立つように、日本語で平易な言葉で語ること。

 

私の立場に当てはめると、国連事務次長として意見を述べるのではなく、これまでの経験といくばくかの知見に基づき、私個人の責任で発言します。国連が様々な分野で多くの専門家の知見・データを駆使して発表している政策提言などを引用することはもちろんありますが、国連の立場を促進することが目的ではありません。危機対応と復興に国際協力がなぜ必要不可欠であるかをわかりやすく主張しますが、国連をサポートしてほしい、という主張はしません。この危機にもっと効果的に対応できるように、国連がどうあるべきかという建設的な意見・批判は、私はむしろ謙虚に耳を傾け、各国政府・人々からの期待に最大限応えられる国連にしていくのが務めだと思っています。

 

様々多様な分野でご活躍の方々に声をおかけしたところ、すでに数人の方にご快諾いただき、それぞれの専門的知見からのお考えを執筆していただけることになっています。私自身も仕事の合間にいくつかのテーマについて、考えていることを文章にしてみようと思っています。

 

こうして、このブログシリーズを通じて、危機対応と危機からのより良い復興について、皆さんとご一緒に考えていければと思っています。寄稿者はそれぞれに通常の仕事の合間の執筆となることもあり、ブログの更新は不定期となることはあらかじめご了承ください。

 

寄稿の一つひとつが日本の皆さんへの励ましとなるよう願っています。

私の愛する母国日本が、一日も早くこの危機を乗り越えられますように。

そして何より、どうか皆さまも心身ともに健康でおられますように。

 

2020年5月7日 

米国ニュージャージーの自宅にて

中満 泉

新シリーズ「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」がスタートします

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“一人ですべてを解決することはできないが、誰にでも何かできることがある” (Illustration by Fran Bennell)

親愛なる日本の皆様

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) パンデミックによる外出制限が続く中、皆さま、ご無事にお過ごしでしょうか。

今、私たち人類社会は第2次世界大戦後最大の危機の渦中にあります。今回の危機は、日本が経験したバブルの崩壊やいわゆるリーマンショックという世界的な金融危機とはスケールやインパクトが異なります。このパンデミックは医療保健・公衆衛生上の地球規模の危機であるだけでなく、経済、社会、文化、地球環境、国際関係などすべての分野に深遠な影響をもたらしています。パンデミックによって、様々な意味で私たちの社会の脆弱さが露わになったとも言えるでしょう。一人でも多くの命を救い、脆弱な立場の人々に最大限の配慮しつつ、この危機を乗り越えなければなりません。そして、COVID-19後の世界を見据えて、私たちの国や世界をどのように再建するべきなのかを考えなければなりません。そして、COVID-19後の世界は、明らかになった社会の課題や脆弱性に対処し、より強靭なものであるべきです。

この度、このような問題意識を共有する私たちは、それぞれの経験や知見を持ち寄り、個人の立場で考えていることをメッセージとして発信し共有する場を設けたいと考えました。基本的に海外をベースに活動している私たちですが、祖国日本もこの危機を確実に乗り越え、COVID-19後にはより強靭な日本であってほしいと心から願っています。

私たちのメッセージが、日本の人々が心を合わせて危機に立ち向かいこれを乗り越え、COVID-19後の復興を考え、建設的な議論をするための参考になれば、と願っています。

この度、国連広報センターの本ブログ上で、「みんなで乗り越えよう、新型コロナパンデミック:私はこう考える」シリーズを立ち上げることになりました。国連の公式の広報活動ではなく、広く様々な分野・立場の方々から寄稿をお願いしていく予定です。微力ながら日本社会にとって一助になることを願っています。

 

共同呼びかけ人(五十音順):

石井菜穂子 地球環境ファシリティ(GEF)統括責任者(CEO)兼議長(ワシントン)

大島ミチル 作曲家(ニューヨーク)

中満泉   国連事務次長・軍縮担当上級代表(ニューヨーク)

根本かおる 国連広報センター所長(東京)

本田桂子  コロンビア大学多数国間投資保証機関(MIGA)前長官(ニューヨーク)

水鳥真美  国連事務総長特別代表(防災担当)兼 国連防災機関長(ジュネーブ

「新型コロナウイルス感染症と人類の安全保障:最貧国マラウイの闘いは世界の闘い」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界規模での拡大が国際社会にもたらしている影響が物語っているように、ウイルスに国境はありません。

日本がCOVID-19の対策を多面的に進めているように、様々な国が今COVID-19と闘っています。

たとえば、日本から見たアフリカは遥か遠い地のように思えるかもしれませんが、アフリカの国におけるCOVID-19の闘いは決して日本にとって他人事ではありません。国連開発計画(UNDP)マラウイ常駐代表の小松原茂樹さんが、COVID-19と闘うマラウイの状況を報告してくださいました。 

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国連開発計画(UNDP)マラウイ常駐代表の小松原茂樹さん © ︎UNDP Malawi

【経歴紹介】徳島県生まれ。東京外国語大学卒業後、ロンドンスクールオブエコノミクス大学院で経済学修士号(国際関係学)を取得。(社)経済団体連合会事務局、OECD経済協力開発機構)民間産業 諮問委員会(BIAC)事務局出向を経て2002年より国連開発計画(UNDP)に勤務。本部アフリカ局カントリーアドバイザー、ガーナ常駐副代表、本部アフリカ局TICADプログラムアドバイザーなどを歴任、2019年6月より現職。

 

マラウイでは4月2日に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染事例として最初の3件が見つかり、4月23日現在で計33件(うち死亡3名)となりました。1日1.9ドル以下で生活する人が人口の70%にものぼる最貧国のマラウイでは、極度の貧困のために栄養失調であったり健康状態が良くない人も少なくなく、糖尿病、喘息などに加えて、HIV/AIDSや結核なども依然として大きな課題であり、貧困そのものが「持病」と言ってもよい状況です。手を洗うにも水へのアクセスが容易でない、石鹸を使って手を洗うこと自体に慣れていない人が多い、衛生状態が悪い箇所も多く、医療へのアクセスが容易でない、マスクはほとんどの人にとって贅沢品、1800万人の人口でCOVID-19を検査できる施設が4カ所、ICU (COVID-19非対応)が全国で25床しかない、医者は10万人あたり1.5名、など、極めて予防も抑制も難しい環境です。

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手洗いをする現地の女性 ©︎ UN Malawi

農村部ではこれから主食のとうもろこしなどが収穫期(マラウイは南半球ですのでこれから秋冬です)に入りますので、食物は昔ながらの物々経済である程度手に入る可能性もありますが、都市部の貧困層の多くは非公式経済の中で文字通り日銭で生活しています。COVID-19の感染防止に向けて様々な行動規制が強化され経済活動が停止に向かうと、日銭が入らなくなり、直ちに食べるものに事欠きます。さらにスラムなどの劣悪な居住環境では基本的な社会サービスの欠落に加えて身体的距離を取ることなど望むべくもなく、一旦市中感染が始まれば、貧しく社会的に脆弱な環境にいる人々から影響を受け、急速に感染が拡がる危険は否定できません。

 

これほど世界同時の深刻な危機は国連機関にとっても初めてのことですので、国連も全組織をあげて、職員の命を守りながら、各国の闘いを応援する体制の構築を急いでいます。UNDPマラウイ事務所はアフリカのUNDPの中で6番目に事業規模が大きく、職員は130名を数えます。すでに航空便(国際線、国内線)は全て運航停止となり、国内の行動制限も大幅に強化されつつある中で、職員はそれぞれの不安を抱えながらも頑張っています。私も職員の健康と安全に心を砕き、職員と共に知恵を絞ってマラウイの闘いを応援し、これから長い籠城戦に入ろうとしています。

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マラウイに国連連帯航空(UN Solidarity Flight)でCOVID-19に対応するために必須な医療用品が届いた © ︎WFP Malawi

国連職員が現地の人々と危険や不安を共有しながら奮闘しているのはマラウイだけではありません。国連といえば、ニューヨークやジュネーブなどを連想される方が多いと思いますが、国連職員の大半は現場で汗をかいています。アフリカやアジアの多くの国では、紛争、テロ、自然災害、エボラ出血熱など、二重三重の危機に多くの同僚が立ち向かっています。マラウイでは3名の日本人国連職員(UNICEF、UNHCR、UNDP)が現地に踏みとどまって頑張っています。

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国連連帯航空(UN Solidarity Flight)で届いた医療用品 © WFP Malawi︎

また、当面はCOVID-19との闘いに全力をあげながらも、復興への道筋を考える事も重要です。しかし、アフリカへの資金流入のそれぞれ約3分の1を占める海外のアフリカコミュニティーや出稼ぎ者からの送金、企業による対アフリカ直接投資、公的な対アフリカ開発援助は、COVID-19による緊急財政出動や経済停止に大きな影響を受けており、アフリカ経済も一部ではマイナス成長が予想されるなど、アフリカを取り巻く環境は決して楽観を許しません。COVID-19という山を越えた後に見える風景は、アフリカだけでなく、世界的にも今までの世界とは極めて違うものになるのではないか、と感じています。


コロナウイルスが瞬く間に南極以外のすべての大陸に拡がったことが示すように、ウイルスに国境はありません。COVID-19は、グローバル社会ではリスクもグローバルで、国際協力なしにはどの国も安全でいることができない現実を改めて我々に突きつけました。国際協力と開発援助を自国の未来への投資と保険と捉え、感染症をはじめとするグローバルなリスクに対して、国際社会がこれまで以上に連携して立ち向かうことになるのか、それとも各国が自国優先になるのか、COVID -19による世界同時危機は、保健の問題を超えて、私たちの住む世界の経済、社会、政治などのあり方について再考を迫る大きな転換点になっているのかもしれません。

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咳やくしゃみをする際に肘などで覆うよう推進するポスターを持つ現地の女性 ©︎ UNICEF Malawi

アフリカでのウイルスとの闘いは、人類の安全保障をかけた闘いです。アフリカの最貧国の人々の命と暮らしを守ることは、先進国の皆さんの命と暮らしを守ることでもあります。日本自体が容易でない状況にある中、遠くアフリカの奮闘に想いを馳せることは容易なことではないと思いますが、これからCOVID-19との闘いに臨むアフリカの人々に、日本の皆さんから知恵や経験を共有していただけることを切に願っています。

SDGsを合言葉に広がる図書館ネットワーク (後編)

― 図書館研修会はどのように行われたか -

 

こんにちは、国連寄託図書館を担当している千葉です。

 

2020年1月23日―24日に国連寄託図書館の年次研修会を開催しました。

 

その内容を二部構成でお届けしています。

 

前編では、研修会に図書館のみなさんが持ち寄った、さまざまな取り組み事例をご紹介しました。

 

後編では、研修会の実際の様子をお伝えします。 

 

今年の研修会に参加したのは、国連寄託図書館と、その他のゆるやかにつながる図書館をあわせて、全部で25の図書館、40人近くの司書のみなさんです。

 

ゆるやかにつながる図書館からは4つの学校図書館にご参加いただきました。昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校、実践女子学園中学校・高等学校、長野県上田染谷丘高等学校、三田国際学園中学校・高等学校のそれぞれの図書館です。

 

さらに三田国際学園中学校・高等学校図書館からは、司書の藤松先生と一緒に、生徒会の図書委員として活動する15歳の少女、小池日和(ひより)さんが学校の授業の合間を縫って、研修初日に参加してくれました。

 

10代の若者の参加は初めてのことで、今年の研修会を特徴づけるものとなりました。 

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それでは早速、研修会の様子をご案内してまいります。

 

(研修スタート)

 

〇国連からのご挨拶

さあいよいよ、研修会がスタート。

 

まずは、弊センター所長の根本かおるがご挨拶しました。 

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数日前にインフルエンザから快復し、医師から外出の許しがでたばかりでしたが、研修会でみなさんと再会できるのを心待ちにしていた根本は満面の笑顔で、全国から集まった参加者のみなさんをあたたかくお迎えしました。

 

続いて、ニューヨーク国連本部から届いた参加者へのビデオメッセージが紹介されました。

 

メッセージを寄せてくれたのは、世界各地の国連広報センターを統括する国連グローバル・コミュニケーション局(DGC)のトップ、メリッサ・フレミング事務次長でした。

 

“A warm welcome to all of you on the other side of the world”

 

レミング事務次長ははっきりとした声で、図書館のみなさんの国連に対する支援に心よりの謝意を表するとともに、グローバルな諸課題の解決とよりよい世界の構築にむけて、人々の共感と行動を呼び起こすための一層の協力を求めました。

 

そして、学校図書館がこの研修に参加していることに勇気づけられているとしたうえで、学校図書館で図書委員を務める10代の少女も一緒にこの研修に参加していることを紹介すると、やわらかい笑顔で、小池さんの名前を呼びました。

 

“Hello, Hiyori, Are you here?”

 

「えっ?!」 

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会場の一番前に座ってメッセージを聴いていた小池さんは、いきなり自分の名前が呼ばれたことにびっくりして、思わず口に手を当てました。

 

“I have been told that you are now planning to promote the SDGs through your school’s library. I would like to salute you for that.” (訳:「学校図書館SDGs(持続可能な開発目標)を促進しようとしていると聞きましたよ。そのことに敬意を表したいと思います」)

 

緊張気味だった小池さんの表情は緩み、大きな喜びの表情に変わりました。

 

小池さんは、その後のセッションで、図書委員としての役割や活動、一冊の本のもつ力、図書館の重要性などについて、積極的に力強くたくましく発言し、研修会場にいる私たちみんなに若い新鮮な刺激と勇気を与えてくれました。 

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国連広報センターのブリーフィング)


〇今後1年間のアウトリーチ活動のヒントを提供

さて、初日の研修ではまず国連広報センターがアウトリーチに関するブリーフィングを行いました。

 

センターの全職員が参加し、それぞれの職域から、今後一年間の行事活動予定や優先課題、ニュースレターや冊子などの広報資料、ソーシャルメディアによる情報発信、パートナーとの協働事業など、国連広報センターの活動をご案内するとともに、図書館のみなさんのアウトリーチ活動に役立つ情報をご提供しました。 

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学校図書館での取り組みに活かそうと、さまざまな図書館から参加している司書のみなさんと一緒に、一所懸命にメモをとっている小池さんの姿が印象的でした。

 

(図書館におススメの体験型イベント)


SDGsブックトークを体験

続いて、体験型イベント「SDGsブックトーク」を実施しました。それぞれが他の人に推薦したい本を持ち寄って、SDGsのいずれかのゴールに関連づけて紹介するイベントです。小池さんも参加しました。

 

一番初めに、小池さんにおススメ本をみなさんに紹介してもらいました。そのあとは参加者のみなさんが2人ずつのグループをつくって紹介しあいました。2人ずつというのが一つのポイントです。前に出て発表するのが苦手な人も相手が1人なら恥ずかしがらずにできます。そして相手を変えながら繰り返すのです。研修参加者のみなさんも好きな本を紹介しあい、繰り返せば繰り返すほどに盛り上がっていきました。

 

一冊の本とSDGsのゴールを関連させて、地球に生きる人間が直面する諸課題と持続可能な未来へと思考を柔軟かつ豊かに広げ、それを言葉にして共有し、相手を変えながら繰り返す。子どもたちの主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」)に最適で、学校図書館などにおススメです。  

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SDGsブックトークが終わると、小池さんはこの日の最後の研修会場となった国連大学本部ビルをあとにしました。

 

小池さんは帰り際、学校図書館に戻ったら、研修会で学んだこと、気づいたことをもとに、いろいろな取り組みを考えてみたいと言ってくれました。その言葉には若い力強さがありました。

  

(3つの講演)

今年の研修は、「国連と地球的諸課題」、「女性差別撤廃条約女性差別撤廃委員会」、「高校生の模擬国連」の三つのテーマについて講演が行われました。

 

〇国連と地球的諸課題 - 国連広報センター所長が講演

 

まずは、国連広報センター所長の根本が、今年創設75周年(UN75)を迎える国連とその活動について、大局的な観点から、お話ししました。

 

私たち人間がいま立ち向かわなければならない地球的諸課題とはどんなものなのか。根本は、それら課題を解決するためのSDGsやパリ協定のもつ意義をあらためて強調したうえで、その実施状況や国連の活動などについて具体的な事例を示して説明しました。

 

そして、UN75に関しては、国連が世界の人々に耳を傾けるグローバル対話(Global conversation)のキャンペーンが始まっていること、そしてSDGsに関しては、2030年に向け、今年から「行動の10年」がはじまっていることをご案内し、図書館のみなさんに啓発・周知のための一層の協力を促しました。  

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女性差別撤廃委員会委員の秋月教授による講演

 

今年、外部からお招きしたメインのスピーカーは、女性差別撤廃条約のもとに設置された女性差別撤廃委員会(CEDAW)メンバーを務める秋月弘子氏(亜細亜大学教授)です。

 

北京女性会議で北京宣言が採択されてから25年を迎える今年、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を達成しよう」にさらに取り組むうえでも、女性差別撤廃条約と委員会のことは図書館のみなさんにぜひ理解しておいていただきたいことでした。

 

秋月先生は、現在の委員会のことを内側から知る方です。女性差別撤廃委員会とは何か、どんな仕組みなのか、そもそも、女性差別撤廃条約とはどんな条約なのかということについて、わかりやすくご案内いただきました。また、ジェンダー問題の現在および今後の課題についても、示唆に富むお話をしていただきました。  

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〇「高校生の模擬国連」共同執筆者の後藤先生による講演

 

今年の研修全体に通底するテーマの一つは、小池さんの参加が象徴するように、子ども・若者でした。その一環として、もう一つの講演のテーマを「高校生の模擬国連」としました。

 

スピーカーとしてお招きしたのは、玉川学園中学部・高校部(国語科)の後藤芳文先生です。後藤先生は、日本の高校で模擬国連を導入した教育活動に尽力されている全国中高教育模擬国連研究会の中心メンバーであり、昨夏には、その他の先生方と一緒に『高校生の模擬国連―世界平和につながる教育プログラム―』(山川出版社)を執筆した方です。後藤先生には、高校への模擬国連の導入のしかたをご案内いただくとともに、図書館のみなさんにこの本を一冊ずつご寄贈いただきました。

 

**国連の日本人職員には中満泉事務次長をはじめ模擬国連経験者が大勢います。 

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(いろいろな施設を訪問)

 

毎年、研修では図書館のみなさんとさまざまな施設を訪れています。これまで、大学図書館国立国会図書館公共図書館、さらに東京・市ヶ谷のJICA地球ひろばやOECD東京センターなどのイベント施設や国際機関などを訪ね歩いて、その取り組みを学ぶとともに、ゆるやかなつながりを築いてきました。今年もいくつかの施設を訪問し、人と人のつながりができました。

 

 〇地球環境パートナーシッププラザを訪問 

今年お訪ねした施設の一つは地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)でした。GEOCは持続可能な社会の実現のために、多様な主体間のパートナーシップを育むことをミッションとしている組織です。

 

参加者のみなさんはGEOCを訪れ、施設内展示を見学するとともに、日本の各地域でのパートナーシップ実践について、職員の指澤佳代さんからお話を伺いました。

 

ちなみに今年は、耐震工事中の国連大学本部ビルの会議室が使えず、同ビル敷地内の別棟にあるGEOCで、研修の一部を実施させていただきました。 

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国連大学を訪問 

研修会は毎年、国連大学(UNU)図書館と協力して開催しています。初日に同図書館を訪れ、司書の勝美道子さんから、同図書館と国連大学サステナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の活動に関するブリーフィングを受けました。また、2日目には、同じくUNU-IASのプログラムコーディネーター荒木舞子さんからUNUの大学院プログラムについてくわしい説明を聞きました。 

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国立国会図書館国際子ども図書館を訪問 

今年の訪問先の目玉は国立国会図書館国際子ども図書館でした。国立初の児童書専門図書館です。テーマの一つを子どもと若者とした今回の研修会にまさにふさわしい訪問先でした。この訪問は初日に行われ、小池さんも一緒に参加しました。

 

同図書館の建物は1906(明治39)年に日本で最初の国立図書館帝国図書館)として建てられたもので、図書館のみなさんのなかにはこの図書館のことを書いた小説の『夢見る帝国図書館』(中島京子著)を読んだという方も多く、今回の訪問を楽しみにされていました。

 

ご案内は同図書館企画協力課の白井京さんと山上慶さんが担当してくださいました。

 

ご案内いただいたものの一つは世界の国や地域で出版された絵本。その中にはパレスチナの子どもたちのための絵本もありました。また、世界で読まれている日本の児童書のコーナーもありましたが、外国語に翻訳されたものはその国の文化にあわせて表紙の絵などが微妙に変えられていることがみなさんの興味を惹きました。また、子どもの読書活動推進を支援するコーナーもあり、そこにはブックトークビブリオバトルのやり方を説明した本も置かれていました。

 

今回の訪問を通じて、子どもたちのための図書館のつながりが生まれたことは大きな成果でした。

 

国連広報センターと同図書館もゆるやかなパートナーシップを構築しました。 

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(研修全体を通してネットワーキング)


〇つながりを確かめあうとともに、ネットワークを拡大

 

講演やブリーフィングの合間に、図書館のみなさんは講師の先生がたやその他の図書館の方々と活発に名刺交換や交流をしています。図書館のみなさんのネットワークを広げていただく場を提供することもこの研修会の大切な目的の一つです。今年の研修会でも、多くのつながりができました。 

 

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 (おわりに)

 

今年の研修に向けて、この一年間、東京や地方の公共図書館大学図書館学校図書館を訪ね歩かせていただきました。幅広い分野にまたがる本が収蔵されているのは当然ですが、図書館だからこそ、新しい本ばかりでなく古い本も、また安価な本ばかりでなく高価な本も、そして〇〇賞を受賞した本ばかりでなく、そうした賞は受賞していなくとも輝きを放ち人の記憶に残る本も置かれています。閲覧室でそれらの本を読むこともできるし、何よりも図書館だったら無償で借りることもできます。図書館を訪れるたびに、あらためてそのことを思います。 

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そしてまた、訪ねた先で司書の方々にお会いしていつも感じるのは、みなさんの本の力を信じる思い、そして信じるからこそ、図書館に収蔵する本を利用者の人に読んでもらいたいという思いです。とにかく本を読んでもらいたい、良い本を知ってほしい、触れてもらいたい、そして普段、本とは縁遠い人にこそ本との出会いを楽しんでほしい、という図書館のみなさんの思いに触れるたびに背筋が伸びました。1月の研修会では、そうしたみなさんの思いが、国連広報センターの職員をはじめ、講師の先生方や訪問先の方がたにも深く伝わっていました。 

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研修後、図書委員として参加してくれた小池日和さんを訪ねて、三田国際学園中学校・高等学校に伺いました。小池さんはいま研修で学んだことを参考に、先生方や図書委員の仲間たちと相談しながら、少しずつSDGs啓発のための取り組みを考えて実践していることを嬉しそうに話してくれました。この日、司書の藤松先生のほかに、国語科や数学科の先生がたが図書館に集まってくださり、小池さんと一緒に、それぞれの心に残る一冊の本について語り合いました。図書委員の小池さんの本への思いは、全国各地で私が出会った司書のみなさんに負けていませんでした。図書委員として頑張る中学生を見守る先生方の目はやさしくあたたかでした。


今後、新学習指導要領が小学校、中学校、高校で順次、全面実施され、SDGsがすべての生徒に教えられるようになります。そうした中で、さまざまな本を収蔵する知の拠点たる学校図書館こそ、学校における持続可能な社会の担い手の育成にあたって、異なる教科と生徒たちを横断的につなぐ主要アクターとしての活躍が期待できるのではないかと思います。学校図書館へと私たちのネットワークが今後さらに広がり、10代の図書委員のみなさんとの出会いもたくさん生まれてくることを想像すると、ワクワクします。

(了) 

*** *

SDGsすごろくで遊びませんか

ご自宅で楽しみながらSDGsを学べます

 

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『ゴー・ゴールズ』を楽しむ八王子市在住の柴田さんご一家 ー左から、悠生くん(中学3年生)、忍さん(お母さん)、愛歩さん(高校2年生)

 

都知事から外出自粛が要請された週末、知人に勧められて、ウェブページからダウンロードしたすごろくで、子どもたちと遊んでみたら、楽しい、勉強になるーって、子どもたちが歓喜の声をあげるんです。子どもたちにとっては、楽しくSDGsを学べる最高の教材だと思います。それに親の私たちも子どもたちと一緒に楽しい時間を共有しながら世界のことに視野を広げられて、我が家は、『ゴー・ゴールズ』に完全にハマってしまいました」

 

東京の八王子市にお住まいの柴田忍さんがSDGsすごろく『ゴー・ゴールズ』を体験し、嬉しい感想を寄せてくださいました。

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で自宅学習する生徒の皆さんや、学びに楽しさを求めるご家庭にと、国連広報センターでSDGsすごろく「ゴー•ゴールズ」を3月13日から紹介したところ、ゲームを無料でダウンロードできるウェブページへのアクセスが増えました。

 

「ゴー・ゴールズ」はとても人気のあるコンテンツページで、いつも高いアクセスを誇っていますが、全国一斉休校が要請された3月には、半月ごとの統計で、そのアクセスがさらに高くなりました。そして、このページをひろく紹介しはじめてから3日後には今年に入ってから最多のページビューを記録しています。

 

日本各地で楽しんでいただいているご家族もすでに多いと思いますが、もっともっとたくさんのご家庭でお試しいただきたいと願っています。

 

遊び方は簡単。日本のすごろくとほぼ同じです。

 

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まずは遊戯盤、クイズを国連広報センターからダウンロード。すごろくの盤上には63個のマス目があり。サイコロを振って出た数だけコマを前に進め、SDGsの17の目標のいずれかのマス目で止まったら、クイズのカードを引きます。正解を答えれば、もう一度サイコロ を振ることができます。「2030」のゴールに最初にたどり 着いたプレイヤーが勝ち。サイコ ロを振って、ゴールまでピッタリの目をだしたら上がりです。

 

「ゴー・ゴールズ」は、ブリュッセルの国連地域広報サービスが Elyx の創作者ヤシン・アイトゥ・カシさんの協力を得て作成したすごろくで、英語、フランス語、中国語、アラビア語など20カ国語で提供されています。 https://go-goals.org/

 

日本語版は一年前に国連広報センターが作成しました。

 

ゴー・ゴールズ! すごろくでSDGsを学ぼう
www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/go-goals/

 

日本では、小学校で2020年度から、中学校で2021年度から、持続可能な社会構築の観点が盛り込まれた学習指導要領が実施され、お子さんたちが誰一人取り残されず、SDGsについて学ぶことになっています。

 

そうした中で、お子さんたちが自分たちで遊びながら楽しめる良い教材として、『ゴー・ゴールズ』をお勧めします。

 

また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、ご家族がご自宅で一緒に過ごす時間が長くなる今だからこそ、冒頭でご紹介した柴田さんご一家のように、ご家族で、SDGsすごろく「ゴー・ゴールズ」をお子さんたちと楽しみながら、人間社会が直面する諸課題と未来へとじっくり思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

SDGsを合言葉に広がる図書館ネットワーク(前編)

図書館はどのようにSDGsに取り組んでいるのか

 

こんにちは、国連寄託図書館を担当している千葉です。

2020年1月23日―24日、国連広報センターの主催で、国連寄託図書館の年次研修会を開催しました。その内容をご紹介いたします。   

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国連寄託図書館研修会議、2020年1月

毎年開催しているこの研修会には、国連寄託図書館に指定された全国各地の14の図書館と、その他にゆるやかにつながる図書館のみなさんが参集します。 

今年は、二日間の会期中、あわせて30近い図書館から40人ほどの参加がありました。 

この研修会については、2年前にもブログで綴らせていただき、国連広報センターが図書館のみなさんに対して、どのようにSDGsをはじめとする国連の優先課題や諸活動をご案内したり、今後一年間の取り組みのヒントをご提供したりしているのか、そしてまた、その研修会の場をどのように使って、図書館のネットワークを拡大・強化しているのかをご案内しました。 

今回のブログは少し趣向を変えて前編・後編の二部構成とし、まずは前編で、図書館のみなさんが研修で共有した過去1、2年間の取り組みについて、写真をお見せしながらご紹介したいと思います。 

図書館における取り組みは必ずしも大きなお金やマンパワーを投入したものではありません。その多くは、ちょっとした工夫やアイデアで、でも確実に、たくさんの利用者のみなさんをSDGsへと誘い、ゴール達成のための行動へとうながしています。

ここにご紹介する図書館のさまざまな取り組みが良き参考事例あるいは後押しとなり、全国各地の街の図書館、あるいは学校の図書館でのSDGsへの取り組みが広まることを願っています。

 

それでは早速、図書館でのSDGsへの取り組みをご紹介してまいります。

 

 日本十進分類法ならぬ“17分類”で選書を展示

日本の図書館では総記からはじまる日本十進分類法で図書が並べられていますが、みなさんの多くが持ち寄った事例は、それとは別にSDGsのゴールの17分類で特別選書し、閲覧室などに目立つように別置しているというものです。図書館によっては、さらにSDGsのアイコンの色にあわせた本の帯をつくり選書の表紙に巻いて陳列したところもあります。

 

千代田区立日比谷図書文化館は、広い閲覧室に据え付けられた大きな半円形の陳列棚を「SDGs+ESD持続可能な未来をつくる本棚」と名付けて、そこにSDGsのゴールにあわせて選んだ、さまざまな書籍を並べています。閲覧室の壁にはSDGsのロゴを一面に貼っています。 

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那須塩原市黒磯図書館は、閲覧室にある書架の一つの2列5段ほどを「世界を変えるための17の目標、SDGsコーナー」として使い、SDGsのアイコンと一緒に本を並べています。並べた本は面出しばかりでなく、棚差し(背差し)のものもあります。(同図書館は4月に移転予定)  

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西南学院大学図書館SDGsの各ゴールのアイコンを大きく貼った書架に、ゆったりとした余白をつくって、ゴールごとに本を一冊ずつ選び、お洒落なインテリア風に並べています。  

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武蔵野大学有明キャンパス図書館は2018年11月、一か月間にわたって、カウンター近くに、「図書館で学ぶ 国連とSDGs」というタイトルのコーナーを設置し、カラーボックスを重ねて作った本棚に国連とSDGsをテーマにした選書を置きました。それらの本にはSDGsのアイコンの色にあわせた帯を巻きました。また、図書館を訪れるすべての人の関心を惹く導線を考えて、図書館入口近くの広いスペースには、同じタイトルの大きなパネルを置きました。このパネルに描かれたSDGsのアイコンの脇にはゴールについての説明も一言添えました。  

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関西大学図書館は昨年9月から今年1月まで、“KU Library thinks SDGs”と名付けた取り組みを行い、その期間中、カウンター前に机を3つほど並べて、教員推薦図書などを展示していました。カウンターは入口から近く、図書館を訪れるすべての人の目に触れ、多くの学生が足を止めて手に取っていました。また壁面を上手に有効活用し、SDGsのアイコンを貼りだしていました。 

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昭和女子大学附属中学校・高等学校図書館は、書架側面の分類番号表示の下にSDGsのゴールのアイコンを大きく貼って、そこに小さな2段組みのラック棚を置いて選書の数冊を面出し、背差しで並べ、スペースを有効活用しています。  

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〇写真展を開催

金沢市立泉野図書館(写真上)中央大学図書館(写真下)は写真展を催しました。写真パネルには、国連広報センターが上智大学などの協力を得て行ったSDGsフォトコンテストの受賞作品などが使われています。 

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〇クイズやゲームを利用したイベントを開催

図書館によっては、SDGsに関するクイズやすごろくなどのゲーム体験の場を提供し、利用者をSDGs関連図書へといざなっています。


東北大学附属図書館は昨年前半、 1か月にわたって、館内各所にSDGs17ロゴポスターを配置し、利用者がそれらを探し、回答用紙の空欄を埋めるというポスターラリーを行いました。 

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 三田国際学園中学・高等学校図書館は、中学生が授業でつくった図書室脱出ゲームと題したクロスワードパズルを活用して、楽しい図書館となるよう工夫しています。 

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昭和女子大学附属中学校・高等学校図書館は昨年、SDGsすごろくGo Goals“で遊びながらSDGsを学ぶイベントを催して、生徒たちを図書館へと誘いました。その際、SDGsのゴールに関係する図書をたくさん展示して、本との出会いを演出しました。”Go Goals”は、ブリュッセルの国連地域広報センター(UNRIC)がElyxの創作者ヤシン・アイトゥ・カシ(YAK)の協力を得て作成し、国連広報センターが日本語化したものです。 

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港区立麻布図書館でも昨年、”Go Goals”を使ったSDGs講座を催し、SDGs関連本を展示。こちらの参加者は成人でしたが、盛況でした 。 

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SDGsを調べる方法を案内

 北海道大学附属図書館は学生たちに対して、SDGsに関する国連情報をウェブから入手する仕方を案内する講座を開いています。 

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〇講演やイベントなどで、関連図書を展示

さまざまなイベントや展示を企画する際に、図書館はSDGsとの連動性を考えています。たとえば、千代田区立日比谷図書文化館は、「絵本を手にした子どもたちの今」という講演会を企画した際に、それに関連する複数のゴールを自分たちで考えて、そのアイコンをイベントのチラシに掲載したり、そのゴールにふさわしい関連図書の展示を行ったりしました。 

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〇学生がイベント支援・取り組みに参加

北海道大学附属図書館は、留学生日本語科目「コミュニケーション・スタディ」との連携で、SDGsに関連する成果物の展示を催しました。図書館での催しは北海道新聞にも取り上げられました。  

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  東北大学附属図書館には、東北大学附属図書には、留学生向けの図書館利用・学習支援サービスを行う大学院生スタッフ”留学生コンシェルジュ”がいます。その学生たちの取り組みで、「留学生コンシェルジュXSDGs」という企画を実施し、SDGsをテーマに、留学生たちのコメントを集め、デジタルサイネージにしました。 

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 国際教養大学図書館は、国連ユースボランティア(UN Youth Volunteer)に参加した学生たちが特設展示で大型ディスプレイを据え付けたり、パソコンのディスプレイ画面の壁紙にSDGsのロゴを採用したりするのを手伝いました。そのあと、学生たちの座談会を設けました。 

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 デジタルサイネージを活用

 日本大学国際関係学部国際機関資料室(写真上)三田国際学園中学・高等学校(写真下)は、展示物とともにテーブルにタブレットを置いたり、モニタースクリーンを壁に掛けたりして国連広報センターのYouTube動画を繰り返し再生しています。 

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SDGs電子書籍で紹介

大阪市立中央図書館は、SDGsに関連する選書をインターネット上で読めるようにしています。

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ソーシャルメディアで発信

  神戸大学経済経営研究所図書館日本大学国際関係学部国際機関資料室千代田区立日比谷図書文化館などはツイッターなどのソーシャルメディアで国連情報を投稿しています。国連広報センターのつぶやきもリツイートしています。 

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〇国連広報センター発行の広報資料を活用

中央区日本橋図書館など、それぞれの図書館がそれぞれの形で、国連広報センターの発行するニュースレター“Dateline UN”やその他の広報資料を目立つように配架・配布しています。 

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〇図書館発行の広報誌でSDGsを紹介

福岡市総合図書館は、九州国連寄託図書館(Kyushu United Nations Depository Library)として、その名前の頭字語を冠したクンドル(KUNDL)ニュースを独自に隔月発行し、そのなかでSDGsや国連に関する図書情報を掲載しています。 

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千代田区立日比谷図書文化館は月刊広報誌を発行しています。そのなかに、「SDGs x 〇〇」 と題したコラム(不定期)を設けました。たとえば、SDGs xつながり、SDGs x出会う、SDGs x語り継ぐなどのテーマで連想されるおススメ本などを紹介しています。  

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SDGsの栞(しおり)を無料配布

 SDGsのデザインを施して手作りした栞(しおり)を無料で配るなどしている事例も共有されました。この栞は、国立女性教育会館のアイデアを採用しています。今回、同会館の許諾を得て、ご紹介させていただきます。同会館のウェブページにはその作り方も掲載してあります。 

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〇館内でSDGsのロゴが目立つように装飾

多くの図書館がSDGsのロゴやアイコンを館内で目立つように工夫しています。


日本大学国際関係学部国際機関資料室は、図書館の壁や窓、パソコンの画面など、様々な場所にSDGsのゴールのアイコンを貼っています。 

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京都外国語大学図書館は、館内受付にSDGsのパネルを目立つように貼っています。同図書館は2019年4月から、あらたに国連寄託図書館としてのサービスを開始しています。 

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SDGsバッジを身に着けて

 広島市立中央図書館は、司書の方々がSDGsバッジを身につけて、SDGsへのコミットメントの姿勢を示し、普及促進しています。 

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〇パートナーと協力

多くの図書館はイベントや図書展示を企画するうえで、さまざまなパートナーと協力しています。


大阪市立中央図書館は昨年、「こどもをとりまく世界」展を開催し、子どもの虐待、貧困、人権など、SDGsのゴール4に関する図書を展示しましたが、その際、大阪市こども青少年局と連携しました。 

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関西大学図書館は昨年、地元の吹田市で活動するアジェンダ21すいた(市民・企業・行政の三者協働組織)が行う地球温暖化防止に向けた取組「すいたクールアースウイーク」とコラボレーションしたブースを館内に設置しました。  f:id:UNIC_Tokyo:20200319144451p:plain

 

〇図書館も持続可能な未来のために行動

図書館もSDGsや気候行動への貢献を行っていることをご紹介したいと思います。
西南学院大学図書館は、屋上にソーラーパネルを設置して館内の一部電力を賄ったり、ソーラー発電モニタリング画面を館内に設置したり、トイレ洗浄水に市の再生水を利用しています。


福岡市総合図書館は、電力消費量の削減のため館内の照明をLEDに交換し、空調設備の温度設定に気をつけています。また、職員の間の約束事として、洗面所でハンドドライヤーは使わない、ゴミの分別は徹底する、忘年会や歓送迎会の宴会を行うときははじめの30分間をおいしくモリモリ食べる時間、終わりの10分を間食タイムとして食べ残しをしないようにしています。 

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那須塩原市黒磯図書館は、古本市を開催する際に来館者にマイバッグを持参してもらうように呼びかけています。 実践女子学園中学校・高等学校図書館は、「裏紙BOX」という箱を設置して、図書館で廃棄する紙で裏が白いものをメモ用紙として中高生たちに提供し、計算や漢字練習、単語の暗記などに利用されています。

 

また、千葉市男女共同参画センター情報資料センターは、誰ひとり取り残さないという観点から、建物内をオールバリアフリーにして書架を車椅子で手が届く高さにしたり、書架と書架の間も車椅子での方向転換が容易な広さにしたり、車いす優先席を設けたりして、障害をもつ人に配慮したサービスを心がけています。 

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こうして、SDGsを合言葉にしてつながる図書館は持続可能な社会づくりに直接に寄与するための管理運営や自主的な取り組みも積極的に行っているのです。 

〇そして、お互いに学びあう研修に

さて、お気づきになったでしょうか。

勝手ながら、図書館のさまざまな取り組みを17に分類してご紹介してきました。

そして、17番目にご紹介するものが、国連広報センターが実施する研修会参加ということになります。

研修会については、次回のブログで、くわしくご案内いたします。